対面
リーフローバーを出て、ドラゴンとなったサラの背中に乗って更に東へ移動。
日が暮れかけてきたところで簡易テントを設営する集団を発見し、マノンの魔法で身を潜めながら着陸。
サラが姿を人間に変えて、集団へ接近――。
「何者だ」
彼らにとって、今は戦時。
当然のように警備をする人間が周囲に配置されていて、俺は一人の男性から槍を突き付けられながら答えさせられる。
遠景を眺めても弓を持った人間が一人も見当たらないのは、幸いだった。
三人を後ろに下げて、俺が一歩前へ出る。
これで心臓のある左胸から槍の切っ先までは、三十センチ弱。
突然突かれたとしても胸当てに刃先をそわせて回避可能。少なくとも致命傷は避けられるだろう。
これもクロシードで得た、言わば『回避』のスキルである。
まあ特技という範疇であり絶対ではなく、持っていても死ぬことがあるというのは、俺がこれを受け継いだ時点で確定なのだけれど。
回避スキルを持っていた人は後ろから矢を射られてしまった。気付けないなら回避のしようもない。
ただ今回に関しては上空から人影を確認済みであり、その心配はない。
そして――。
目の前の男性は俺の顔をしっかり見て、ようやく目を丸くした。
「あっ……。まさか、ハヤト様――」
「気付いてもらえてよかったよ。無用な争いは好まないからな」
「な、なぜハヤト様がここへ」
「せっかく統一になって平和を作ったというのに、どうも中央区の王族が欲を出したみたいでな。――――宗教の問題だと言うことは理解している。その上で、話を聞かせてほしい。この集団を率いている人と合わせてもらえれば、それ以上のことはない」
とりあえず腰に短刀を身につけているけれど、これを外して交戦の意思がないことを捨て身で示すべきか。それとも槍を突き付けられながら対話に望むか。
どちらもすでに経験済みというのが泣けてくる。
よく今も無事に生きているものだ。
――――まあ、ライカブルで本当に刺しそうかどうか、確認しているというのが大きいか。
「少し、お待ちください」
俺に槍を突き付けた瞬間は好感度がゼロ。つまり敵対認識だった。
しかし顔を確認してからは一気に八十パーセントぐらいまで上昇した。これが三十パーセント止まりとかなら、さすがに命を優先して先手を打ち、制圧にかかったところである。
平和主義なんて言っても、自分の命が惜しい程度の人間だ。
男性は突き付けていた槍を縦に持ち直して、俺に背中を向けて駆けていく。
念のために周囲全体の好感度を一人ずつ確認していくが、まあ平均で六十パーセント以上。極端に低い人は無し。しっかり気付けてもらえたようで良かった。
話し合いをするにも上々だろう。
「ハヤトくんって、本当に中央区以外だと有名なのね」
「少しビックリなのです」
「お前らなぁ……」
好感度百パーセントのくせに、あんまり俺の活躍は信じていなかったらしい。困った話だ。
槍を持った人が駆けて戻ってくると「中へお通りください」と誘導してくれた。
ここは敵地ではない。彼らはすでに統一の意志を固めた、同じ大陸の同じ国に住む仲間だ。
それでも、この緊迫感。
命を擲つ覚悟をまとった人々の、独特な目――。
俺は東半島で多くの戦友を失った。沢山の血が流れるのを間近で見た。
本音を言えば、彼らの褐色の肌や翡翠のような瞳を見るだけでも戦慄が走る。
――赤いテントの前へ行くと、中から男性が出てきた。
「はじめまして。アラン・コルネリウスです。英雄であるハヤト様と直接お話をできるとは光栄です」
差し出された手の色は白く、目の色は黒に近い。
リーフローバーで見せられた、リルの本当の父親――。
端正な顔つきで、髪の色もリルと同じ栗毛に近いブロンド。似ているところは多い。
しかしリルの事情は後回しだ。
彼が王族を嫌っている可能性もある――。つまりこの暴動や反乱そのものに彼の私怨が絡んでいる可能性がある限り、不確定要素を曝け出すのは怖い。
「はじめまして。この争いを止めに来ました。東側の事情を聞かせてください」
彼――アランさんの好感度は六十パーセントとほどほどに高い。目的を最初に明かして反応を見るには十分……。
一気に十パーセント以上下がったな。いきなり半分以下だ。
それほど戦闘の意思が固かったのか? それとも――。
「テントの中で、お話し致しましょう」
この場合のテントとはイコール、墓場である。なにかあれば見えない外側から串刺しにされて終わりだ。
「わかりました。一人が良いでしょうか?」
「全員で構いません」
それでも踏み込むしかないだろう。
中央区側では次期教皇であるリディアが信者を止めているはずだ。
賢者であるパティもいることだし、あいつはヒエラルキーの下に向かってはやたらと強いから最低限、時間稼ぎぐらいにはなるだろう。
第一師団の再招集も暴動の仲裁に数の力を加えるためだ。最悪の場合『人の壁』を作って行く手を阻めば、同士討ちを避けたい信者たちの足は必ず止まる。
信仰には『正しさ』が必要であり、王族を神の子と信じるならば、正に神の子そのものであるリディアの意思に反して同じ国の民を殺すことなど、できはしない。




