表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/130

リーフローバー村 東半島の英雄様

 俺たちは東半島で最も中央区寄りにある村へ入った。

 ここは少し独特な文化や風習をもっていて、大地神への(しん)(こう)心は東半島の中で最も(うす)い。


「リーフローバー村。久しぶりだな」

(さび)れたところね。人の気配もあまりないけれど……」

「テントだらけですが――。家が石造りではなくてテントなのですか? ひきこもりにくそうです」


 王城で育った人間とひきこもりの意見としては、まあ、そうなるだろう。

 ここリーフローバー村は(かく)(ねん)で移動をする民族の村だ。これは東半島のスタンダードというわけでもなく、あくまで特異である。


「屋根に赤い旗が立っているところが村長の家だ。ええと……あ、あの(おく)のやつ」


 言って、サラも(ふく)めた四人で歩くと、()(ちゆう)にあるテントの出入り口が開いて女の子が出てきた。


「ハヤト様!」

「おーっ、リーム。元気にしてたか?」

「うん! ハヤト様のおかげだよ!」


 七(さい)だったかな。日本だと小学一、二年生といったところの女の子だ。

 (はだ)はやや(かつ)(しよく)(かみ)が黒く、(ひとみ)の色は緑がかっている。これが東半島の人種的(とく)(ちよう)

 中央区では(かみ)(いろ)が成長と共に変わっていき、マノンは長い髪にその(けい)(せき)を残しているが、(かの)(じよ)たちは変わらないとも聞く。


「ハヤトくん、この子は?」


 リルが問うてくる。

 どうやら異文化や村人に興味があるようだ。


「リームちゃん。村長のひ孫さんだよ。七歳――で、よかったかな?」

「うん。もうすぐ八歳!」


 ()(がお)で答えてくれたリームちゃんの頭を、優しく()でてあげる。


「初めて会ったとき、リームちゃんは病気で(とこ)()せていたんだ。村の中で()()り病が(でん)(せん)してしまっていて、他にも何十人と――」

「その時は、敵同士だったんだよね?」

「敵に流行病が出ていたら、放置して先に行けば良いじゃないですか」


 もっともだとは思うけれど、でも俺やパティの判断は違った。


「俺たちは急いで大陸の各地域と(れん)(らく)を取って、この病気に効きそうな薬がないかを探して回ったんだ。その間にお互いを信頼できるようになって、一つも争うことなく、先へ進ませてもらえた」

「そうなんだ……。でも、そのほうがハヤトくんらしいかも」


 リルは上品にくすくすと笑った。

 王族の強引なやり口ばかり見ているから、平和主義者の行動は珍しいのだろう。

 しかしマノンだけは――


「力尽くで黙らせる手もあったのに、なぜそのような面倒くさいことを」


 納得がいかない様子だ。


「力で押さえつければ、力で跳ね返されることもある。マノンだって、王族のやりかたは好きじゃないだろ?」


 強引に両親から貿易許可証を奪うような、そういうやり口。


「まあ、そうです……ね」


 願わくば、今回の事件が無事に解決して、同時にマノンの足りなさすぎる経験や見識を補ってくれたら……。


「それに俺は、あんまり争いごとが得意じゃないからな。できるかぎり人命優先だ」

「ハヤト様たちがお薬をくれて、私は病気が治ったの!」


 そう。リームちゃん『は』、治った。


「お父さんは、間に合わなかったけれど……。でもお母さん、リームが生きていてくれて良かった――って、何度も泣いてたんだ。本当に、治ってよかった!」

「そっか。俺たちも(がん)()った甲斐(かい)があるよ」


 自分は最大限のことをやって、頑張った。しかしやはり、多少の()いは残る。

 ()(だん)はそんなことを考えても仕方がないと割り切るけれど、実際にその場所に来て当事者の子と会うと、さすがに『お父さんも助けてあげたかったな』と考えてしまう。

 やっぱり、二度と(おとず)れずに日本へさようなら、というのがベストだったな。


「村長さんはお家の中?」

「うん」

「村の人は家の中にいるの?」

(うらな)いで(きよう)(ちよう)が出たから、できるだけ家の中にいておきなさい――って」


 リームちゃんの言葉に、リルが疑問を(てい)する。


「占い……? それって魔法なの?」

「体系化はされていないから、王族のそれと似たようなものだろうな。リーフローバーでは最も当たる(うらな)()が村長になるんだ」

「最も(すぐ)れた魔法の才を持つ人間が国王になってきた――。確かに、似ているわね」


 それから村長さんの家まで歩き、出入り口の前でぶら下げられたベルをリームちゃんが慣れた所作で鳴らす。

 テントの出入り口は布だからノックができない。ベルはその代わりだ。


(だれ)かのう」

「リームです。英雄様が村長にお会いしたいと」

「なんと――? すまぬが、リームが中まで案内しておくれ」

「はい」


 リームちゃんが出入り口の布を上にまくし上げて、中へ俺たちを招き入れる。

 ここの村長は少し(とく)(しゆ)な事情を(かか)えているわけだが……。


「ふむ。以前とはまた(ちが)った(にお)いの(おな)()。それも三人。――英雄様ともなれば両手では足りませんか」

(じよう)(だん)はやめてくださいよ」

「しかし……あまり好ましくはありませんね。一人は()(つう)(おな)()のようですが、残る二人からは人外の匂いがしますよ」


 俺の耳に、リルが(ささや)いてくる。


「村長さん、ひょっとして目が?」

「ああ。見えないんだ」

「聞こえておりますよ。私が隠しているわけでもないのですから、もっと堂々と(しやべ)ってもらっていいのです」


 村長さんは女性だ。(ねん)(れい)は六十だったか七十だったか。まあとにかく、七歳のひ孫がいるぐらいの歳である。

 目が見えないのは後天性だそうだ。

 年齢に反して耳の聞こえがよく、(ない)(しよ)(ばなし)なんてできやしない。そして『鼻』が()く。


(しよう)(かい)します。この人が王族のリル。こっちが異常な()(りよく)を持つマノンで、そっちの一番後ろがその……ドラゴンのサラです」

「ほっほっほ。どこからツッコめばよろしいのやら、楽しくなってしまいますなぁ」

「ですよねぇ」


 前は(けん)(じや)を引き連れたお固い集団だったわけで。

 まあその賢者も、十分すぎるほどアレな人間だとわかったけれど。

 村長さんが声音を座らせて、リルに問う。


「まず、リル様。あなたは本当に王族なのでしょうか。少しばかり、匂いに違和感がありますが」

「――いえ。()(ちが)って王族になった身です。()(だつ)する予定でいます」

「そうですか。なるほど……。そしてそちらの小さなお(じよう)さんは、逆に王族ではない――と」


 目を(つぶ)ったまま顔を向けられて、マノンは(いつ)(しゆん)びくりと身を(ふる)わせた。


「あらあら。(おどろ)かせてごめんなさいね」

「いえ……」

「人が苦手なのね?」

「はい」

「そう――。(つら)い経験をしてきたのでしょう。大変だったわね」

「…………はい」


 おお。あのマノンが初対面の人に心を開いている。


「そして、ドラゴン……とやらのお嬢さん。あなたからは、どうにも人間味が感じられないのですが――」

「わたし、人間じゃないから」

「姿形を変えているだけ――ということで、いいのね?」

「たぶん」


 (すご)いな――。

 目が見えていないのに、見えている人よりずっと相手を観察できている。


「村長さん。占いで凶兆が出たとのお話ですが――」

「ええ。この村の周囲で血が流れる可能性があります。英雄様も、その件で来られたのでしょう」

「はい。中央区と東半島で宗教(しよう)(とつ)が起こりそうです。おそらく、このままではリーフローバー村も巻き込まれてしまうでしょう」

「そうなってしまえば、このような小さな村、一瞬で(ほのお)に包まれます。どちらの宗教にも属しておりませんから、特に私などは異教の者として殺害の標的となるでしょうね」


 リーフローバーが移動民族である理由の一つが、これだ。

 とりあえず東半島の中でも異教として認められてはいるのだが、それを好ましく受け取らない人間も多くいる。

 (かれ)らから受ける(だん)(あつ)(まぬが)れるために、村を丸ごと移動しながら隠れているわけだ。


「村長さん。俺がここに来た目的は二つあります。一つは危険を知らせること。もう一つは、東半島の情勢を知りたいんです。中央区の教皇は、どうして殺されたのか――」

「伝え聞く話では、中央の教皇様が東半島の大地神を『神の一人』と呼び、『王族にとっては(しん)(せき)のようなものだ』――と。そうして反発を買い……」


 なんで一神教を相手にそういうことを言い出すかね。

 人々が(きよう)(れつ)な信仰を示す場合、神以外は支配層ではないという考えを持つことになる。神だけが人の上に立ち、それ以外は(みな)平等である――と。

 だから東半島はヒエラルキーのようなものがほとんど存在しない。

 王権制度のような(じよう)(きよう)であれば『現権力者の地位を保護する』ことが(こう)(しよう)材料になったわけだが、彼らは、その手が通じない難しい相手だった。


「こちらの宗教では、王族は神の子とされています。教皇も王族ですから、神の子を殺されたと受け取っている状況です」

「衝突は()けられそうにありませんか?」

「中央では次期教皇が説得に回っています。俺も全力を()くして東の動きを止めるつもりです。リーフローバーの皆さんには、その間に身を隠して頂ければ」

「わかりました。こういう時のための移動民族です。身を守ることぐらい、自分たちで務めを果たしましょう。――また、助けてもらってしまいましたね」

「いえ。そんな……」


 被害を減らそうとしているだけで、助けたなんて言うつもりは()(じん)もないわけで。

 しかしこれで、リーフローバーが(せん)()に巻き込まれることはなくなっただろう。

 彼らの家は一(けん)につき一時間ほどで(たた)()むことができて、今日中に移動を開始するはずだ。森の中に身を隠せば戦時をしのげる。


「少しぐらいのお礼をしたいところです。例えば、リル様。あなたは……もしかすると、(ひと)(さが)しをしてはおりませぬか」

「え……?」

「なんとなく、そういう匂いがします。迷っているようで、求めているような。――もしよろしければ、占って差し上げましょう」


 リルは言われた後、少しの間、(だま)りこくった。

 この状況で私情を(はさ)むことに(ちゆう)(ちよ)しているのだろう。


「――――占ってもらえよ」

「でも……」

「村長さんの好意だ」

「…………じゃあ、お願いします」


 そうしてリルの実父を捜すための占いがはじまり――。


「むう? これは……」


 村長の占いは、丸く()(れい)(すい)(しよう)(だま)を使ったものである。

 中央区では円が聖なるものとされていて、()(ほう)(じん)も必ず外側に円を(えが)く。王族や貴族、賢者の身分を示すペンダントも円形だ。

 水晶の丸は(すなわ)ち、どこから見ても円であることを示している。

 系統としては中央の魔法と変わらないのではないか――と予測したわけだが。


「異常なほど(こく)(めい)に感じられます。リル様、(すい)(しよう)の中をのぞいてください」

「はい――」


 マノンの魔力が魔法陣に(なが)()んだように、水晶にも流れ込んだのだろう。

 俺もリルのうしろから水晶の中身をのぞき見る。


「この人が、本当のお父さん……?」

「武器を手に、歩いているな。――――って、おい。これ、東半島の民族()(しよう)だぞ!?」

「どういうこと? 中央区の人だったんじゃ……」

「わからない……。肌や髪の色は間違いなく東半島の人間ではない……が。なにかしらの理由があって、東半島へ移り住んだとしか」


 しかし統一前は戦争状態にあったわけで、簡単に移り住むことなんてできないはず。

 村長さんが「もう少し、全体を見てみましょう」と口にする。

 カメラを()()えるように映像が変わると、リルの実父とされる人物が、群衆を率いるかの如く先頭を歩いていることがわかった。


「これは……っ。村長、もしかしてリルの実父を捜すことが(きつ)(ちよう)であると――?」

「占いではなく、ただの(かん)でしたが。まさかこれほど手に取るように――。いえ、ここまでいくともう、これは占いとは呼べません」


 そりゃそうだ。探し人を直接映し出すなんて、占いの(はん)(ちゆう)()えている。

 パティの(とう)(さつ)魔法を強化しただけではできなかった、見ず知らずの人と場所を映し出す(こう)()が、占いという形で実現したのだろう。

 この力をマノンが身につければ、日本にいるオメロさんとも連絡が取れるのか……?

 いや、そのことは今、優先すべきでないな。


「私、お父さんを止めたい」


 リルが(まゆ)(じり)を上げて言うと、村長さんは(うなず)いて「よろしくお願いします」と答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ