ずっと……!
「サラ、ドラゴンになってくれ」
言うと、一度コクリと首を縦に頷いてから、サラはドラゴンに姿を変えた。
こいつのいたゲーム世界では、主人公やヒロインがドラゴンの背に乗っていたはずだ。それならば、乗れるだろう。
ちなみに場所は城下町から離れた森の中だ。無用な混乱は避けたい。
サラが首を下げて、そこから乗れるようにしてくれた。
「怖くない?」
「念のため、マノンに落下防止の『壁魔法』を使ってもらうことにした。早くしてくれ」
真っ先に背中へ乗った俺が、リル、そしてマノンの手を掴んで順に引き上げる。
リディアは別ルートで現地急行中だ。あいつは次期教皇として信者の行進を止められる可能性がある。
そこには神秘性や宗教的な正しさが必要であり、俺たちや、ましてドラゴンは必要としない。
「行くぞ、サラ」
言うと翼を大きく開いて、一度動かすだけでブワッと空中浮遊。
想像以上に安定していて、これは生物的な問題というより魔法の力が働いていそうだな――と感じられた。
「プロテク!!」
そしてマノンの壁魔法が展開。ドーム型に城下町より大きな半透明の壁ができて、俺たちを覆い尽くした。
「って、これじゃ俺たちが出られないだろうが!」
「使ったことのない魔法の強さなんてわかりませんよ。今から調整するので、少し待っていてください」
いざとなればマノンの強力魔法で争う連中を黙らせようかと思っていたけれど、こいつに攻撃魔法を使わせるのは、本気でやめるべきだな。
諸刃の剣すぎて、最後の手段にさえできないかもしれない。
壁魔法で作られたドームの大きさがギュウウと狭まって、途中でドーナツ状に変形。サラの背中に乗る俺たちを囲う程度の大きさになると、ピタリと縮小を止めた。
「マノン、大丈夫か?」
「むぅ……、小さく制御するほうが難しいのですよ。それに……その、高くて怖いので、今は集中させてください!」
「お、おぅ――」
こいつは世界を滅ぼす力を持ち、俺がいない世界ならば滅ぼしても構わないとさえ言う。
しかし今の余裕がない表情を見ると、少なくとも、人が死ぬのを黙って見ていられるような悪人ではない。
この国の王族は戦争をゲームのように楽しむけれど、そいつらに比べれば遙かにまともである。
マノン自身、王族からの迫害にあった犠牲者でもあるわけで。
汚い大人のことを見たくないほど嫌うのも、同じようにはなりたくないという気持ちから出る言葉なのだろう。
「高く飛ぶぞ」
前もって言うと、リルだけが「うんっ」と言葉を返してきた。
同時にサラが加速をして、俺は「おわっ!」と驚きを声に出した。もちろんドラゴンに乗るなんて初めての経験だ。急に異世界感が増してきたな。
文字通りに風を切りながら飛ぶサラの背中で、リルが少しの戸惑いを滲ませながら訊いてくる。
「ねえ、ハヤトくん」
「どうした」
「その…………言ってみたい台詞があるんだけど、言ってもいい?」
ずっと速いって?
「――お前なあ」
「だってヒロイン養成学校では、これ、夢のシチュエーションって言われてたんだよ!? ドラゴンなんて実在しなかったから、なんか……本当に夢みたいで」
まあ寝取られを象徴するような言葉とはいえ、実際に寝取られているわけでもないし、台詞を口に出すぐらいは別に構わないか。
ずっと張り詰めた空気でいては疲労が増すばかり。適当に気を抜いてこそ、長く戦える。
これは大陸統一の五年間で身に付けた、処世術のようなものだ。
第一、俺だって『運転手さん、前の車を追ってください!』とかド定番の台詞を人生一度は言ってみたいわけで、気持ちもわかる。
「じゃあ、言うよ?」
「おう」
「――――――サラマンダー……、とっても、はやいね!」
「寝取られる前じゃねえか!!」
よく考えてみたら、今乗っているのがサラマンダーだった……。
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