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サラ 焼き払え!!

 庭は一メートル程度の低い壁で隣や道路と土地の境目を作っていて、そこにツタが()っている(じよう)(きよう)

 どうにも、このツタが強い。

 ハサミでは切れないし、(ちから)()くで()(はら)おうにも太くて固い。


「んー。これ、どうするんだ」


 (なや)んでいると、庭にレイフさんがやってきた。


「ほっほっほ。お困りのようですな」

「助けてくださいよー」


 泣きつきたい気分である。ガーデニングとか興味なかったし、戦場で()()ぐスキルにガーデニングなんてあるはずもない。

 つまるところ、この場面において俺は無能である。


「燃やしてしまえば良いのですよ」

(ぶつ)(そう)なこと言いますね……」

「いえいえ。ガス灯を使って火で(あぶ)るんです。そうすればツタがやわらかくなります」


 ライターとして使う――ってことかな。


「燃えたりはしないんですか?」

(くろ)()げになっても、燃えはしません」


 なるほど。

 ということは、マノンに(ほのお)の魔法でも使ってもらえば良いのかな?

 いや、でもあいつの()(りよく)では、どれだけの()(えん)が立ち上るかわかったものではない。

 壁はレンガ造りだから高温に強いだろうけれど、家に飛び火したら(しや)()にならないし、最悪、(ばく)(はつ)なんて可能性も……。


「火……か」


 (あし)(もと)には、サラマンダーのサラ。

 サラマンダーというのは本来、火の(よう)(せい)とか、そんな感じだったと思う。つまるところこいつは火属性のドラゴンだ。


「サラ。この壁を焼けるか?」


 三頭身のサラはコクリと(うなず)いて、スーッと息を吸うと――。


『ゴバァァァァァッ!!』


 壁の表面だけに火炎放射。一気にツタは()げてしまった。これなら()(ゆう)である。


「よーし、サラ! ツタを焼き払え!!」


 一応、水を準備しておいて……、と。庭に(じや)(ぐち)があるのは便利だな。

 まあいざとなればマノンに水魔法を――って、今度は(こう)(ずい)の危険が。あいつの魔法、思ったより役に立たなさそうだな。

 よく考えてみると(おど)しと()(かい)とストーキング盗撮にしか使っていないし。たち悪っ!


「ほっほっほ。英雄様は(ごう)(かい)ですのう」

「サラ、役に立つんじゃないですか?」

「ええ。このツタは中央区にのみ生えるもので、城下町はもちろん王城ですら手を焼いています。こんな方法があるのなら、引っ張りだこでしょう」

「…………そう、ですか」

「はて。()かない顔をしておりますが――」


 サラは有用性さえ認められれば、この国で生きていけるのかもしれない。

 ドラゴンなんて、()(なず)ければ(こう)(ぼう)最強の存在。今後、東西南北の半島が『やっぱり独立する!』と言い出す可能性もあるわけで、(あつ)(とう)(てき)な力は(よく)()にもなるだろう。

 んでエサは人が食べないきのこ。コスパがよすぎる。


「いえ。中ではリルとマノンが掃除をしているので……。サラも役に立っているし、俺もなにかしないと……って」

「はっはっは。庭というものは勝手に変化してくれるので、永遠に手入れができます。(あせ)らずとも、できることは増えていきますよ」

「――――そうですね」


 リルとマノンも、少しずつ変わってきている。

 もしかすると二人とも置いていったって、どうにかなるのかな。


「レイフさん、王位(けい)(しよう)選に新しい立候補者は出てないですか?」

「私の知る限りでは、リディア様で最後です。まだ期間はありますが……、なにせ()(だい)な国王の後です。王族は(みな)(しり)()みをしている状況ですよ。誰か野心のある人間が(いつ)(たん)継承して、(しつ)(きやく)させ、その次を(ねら)うほうが民衆の支持は得やすいでしょうから」

「政治的な判断ですね……」


 どうも王族ってのは、そういう小細工だけは()()いようだ。

 名君と()(かく)されては(かな)わないから、()(ごま)を一人、(はさ)む。これはまあ日本でも聞く話ではあったし、()(とう)な判断だろう。


「ハヤト様は、『どちらか一人を』この世界へ残していくことが、不安なのですか?」

「いえっ、そんな。まだどっちかと帰るなんて決めたわけじゃ……!」

「他の誰かを選べば、二人を残すことになるだけでしょう。そんなことぐらい、老いぼれに()(てき)されずともわかっているはずです」

「……はい」


 リルは王族でなくなってしまって、これからどうやって生きていくのかわからない。マノンはそもそも社会経験が(きよく)(たん)に少なくて不安定。


「まだお若いのです。()(きよう)と家族のことを考えると焦るかもしれませんが、せっかくですから、ここでの生活を楽しんでみては(いか)()でしょうか?」


 楽しむ――か。

 まあ、楽しむという観点で考えると、この状況はかなり――。


「では、私は失礼致します」


 レイフさん、良い人だな。

 踵を返した後ろ手に、ガス灯が見えた。

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