三人の新居①
「おい兄ちゃん。どう見ても不健全じゃねえか? そんな人間に貸す家、あると思うか?」
不動産業というのは貴族の支配下にあって、日本なら独占禁止法違反状態。
だから『この店でダメならあっちの店へ』という選択肢がない。
それなのに不動産屋で働く四十代かそこらのオジサンに、拒否されてしまう。
ちなみに英雄とか王族とか魔法を持ち出すと永遠にそれに縛られてしまいそうだから、俺たちはあくまで『普通の平民』として交渉をしている。
「いや、こいつは妹でして」
隣で俺の腕に絡んでいるマノンを、妹と紹介してみた。
しかし――。
「妹がそんなにベタベタくっつくと思うのか? 俺にも妹はいるけどな、現実は甘かねえんだぞ」
探せばいるかもしれないだろう。ラノベの世界とか。あの世界の妹は大抵お兄ちゃん大好きだ。
なんて反論が通じるはずもなく。
マノンがギュッと腕に絡みついているのが『他人と接する不安感』からの行動だと身に染みてわかるが故に、離れろとも言えず。
「こいつ、人間恐怖症で……。それで腕に」
「ああ!? 俺の顔が怖いってぇのか!?」
十四歳の引きこもりからすれば、かなり怖いと思いますよ?
というか話が通じねえ……。
右隣から、リルが耳元で囁く。
「ハヤトくん、ここで無理に押し通そうとしても、良い家を紹介してくれるとは思えないんだけど」
次いで左腕に絡んでガタガタ震えているマノン。
「かかがか、かえっ、帰りまっ」
これはもう限界か。
「わかりました。でも住む家が見つからないと困ってしまうので、また来ます」
一言だけ言い残して、店を出た。
憎らしいほど晴れ渡った空を見上げて、息を吐く。
ああいう人が苦手なのは、俺も同じだっての。
英雄とかなんとか言われても、元はマノンと同じ引きこもりだ。ライカブルで好感度を確認したら十パーセントぐらいしかないし、あの人を交渉に引きずり込むのは無理だろう。
「とりあえず、リディアにでも協力を煽ってみるか? あいつなら聖職者として応じてくれるかもしれないぞ」
「んー……。それより、レイフさんはどうかな」
「チェンバーズ家に住まわせてもらうのか」
「そうじゃないけど、貴族っていくつも家を持つでしょ? もしかしたら余ってないかなぁ……、なんて」
この国は大人になると家を出るのが一般的で、王族貴族も例外ではない。
ただ、例えば貴族の息子が平民と同じ家に住むなんて、ありえないわけで。
独立したときのために家を用意しておくというのは、一般的を通り越して当然の行動となっている。
更には使用人の家を複数用意しているケースもある。もちろん、使用人というのは裏切ったら怖い存在になるわけで、それなりに豪華な家を用意する。
貴族に仕えることが平民にとって最上級の仕事というのも、こういう理由がある。
「そうだな。レイフさんならマノンも怯えないだろうし、神頼みはまだ早いかもな」
そして俺たちはレイフさんの邸宅へ足を向かわせた。




