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マノン⑭ デート

 書庫に招かれてから、二時間ほどが経過。

 (ちよう)(こう)(そく)で資料を()(あさ)っていたマノンが、急に「あっ」と声を出した。


「んー、どうしたー?」


 俺はすっかり疲れて、声も間延びしてしまう。


「オメロ・ジニ――。これじゃないですか!?」

「マジか! あったのか!?」


 駆け寄って内容の(かく)(にん)、……なのだが。


「マノン、中身は読んだか?」

「いえ。今からです」

「最初はリルに読ませてやれないか? ほら、両親のプライベートな話だからさ。リルが読んで、それで(おれ)たちも読んで問題のない内容なら、読ませてもらおう」


 リルの顔を見ると、「ハヤトくん――っ」と(うれ)しそうにしている。


「――まあ、リルから聞く話だけで情報が補完される可能性もありますからね。そうしましょう」


 マノンも(りよう)(かい)

 あとはまあ、リルが読み終えるまで待つわけだけれど、結構な分量だろうし、(ひま)がありそうだな。

 俺も善行とやらを積んでみるか――と、リディアに教会の(せい)(そう)でも申し出ようとした。ほら、いつ善行が必要になるかわからないし? なんか(つみ)(たて)式の貯金みたいだな……。


「うーん、でもこれ、(すご)い量よね。ずっと待たせるのも悪いし……。あっ、じゃあハヤトくんとマノンちゃんは、ちょっとデートでもしてきたらどうかな?」

「はぁ!?」

「いいんですか!?」


 リルは(さわ)やかな()(がお)で語る。


「うんっ。好きな人と友達がデートとか、ドキドキするから」


 こいつの()()られ病はダメだ。治りそうにない。

 しかし、もし()()く『リルが寝取られることだけを()()』する方法が見つかれば、最強の(よめ)さんだよな……。家事(ばん)(のう)、頭脳(めい)(せき)、性格はまあちょっとキツいところもあるけれど基本的には(やさ)しくて、(うわ)()は許す。

 ――――やばい。理想的って言うかこれ、ただ都合の良い人だ!


「行きますよ、ハヤトさんっ」

「だぁっ、(うで)(から)みつくな!」

「デートですし、これぐらいは健全ですよ。胸を当てているわけでもないですし」

「はぁっ? 当てる胸がないだけだろ」

「メテオぉぉぉぉぉぉぉっ――――」

「すまん、今のは俺が悪かった」


 不用意な発言で町ごと()()ばされたら(しや)()にならない。


「まったく。こうなったら()(ほう)で胸を――」

()(にゆう)じゃねえか……」

「偽乳と(ひん)(にゆう)だと、どっちがいいですか?」

「貧乳にしてくれ。マノンはそのままで十分()(わい)いから」

「かわっ……わ、わかりましたっ!」


 しかし十四(さい)のロリっこに本気で好かれている二十一歳という時点で、世の中的には結構アレな話なわけで。

 腕に絡まれているところを人に見られたら、運良く仲の良い(きよう)(だい)だと(かん)(ちが)いされるか、犯罪者(あつか)いされるか、二(たく)である。

 町に出るって言っても、行き先もよくわからないしなぁ。

 …………だがマノンは、そんな俺の不安を一発で(ぬぐ)()ってしまう。


「でわっ」


 魔法によって黒い(かべ)が発生。これで俺たちは周りも見えないし、周りからも見られない。


「なあ、マノン? 見られたくないとか見たくないってのは、わからないでもないんだけどさ。これじゃ、()()りの店に行くこともできないだろ?」

「むぅ……。リルとは公園デートしてたくせに」

「あれはレイフさんの家の庭だ。――つか、やっぱり見てたのな」

「私はリルと(ちが)って、まともですから。いくら友達でも好きな人を取られたら、友情なんて(そつ)(こく)ぶっ(こわ)れですよ。ハヤトさんは、私一人で(どく)(せん)します。私さえ幸せならそれでいいんです」

「……念のため()いておくけれど、そこに俺の意思は?」

(いつ)(しよ)にいられる(じよう)(きよう)を作ればいいだけですから。永遠に一緒にいられるためなら、私はなんだってやりますよ」


 いかん。この子は最終的に心中まで行くタイプに思えてきた。

 しかし『寝取られてもいい。だってそれは私の努力不足だから!』と言う不幸体質のリルと、『あなたの気持ちなんて関係ない。私が幸せならそれが全て!』と主張するヤンデレマノンでは、どちらがまともなのだろうか?

 ――――やめておこう。考えると切なくなってくる。


「でも、この魔法はちょっと変えないといけないかもですね」

「おっ。少しは外に出る気になったか?」

「お店には、ハヤトさん一人で……というのも考えるのですが、それで()げられたら手間ですし。――いえ、首輪で(つな)ぐという手も……」

「俺はペットか?」


 やっぱりこの子、(こわ)い。

 ただ、さすがに見ることも見られることもなく都合良く店にだけ入って店員さんとやりとりできる魔法というのは、難しいようで。

 俺たちは教会の中を(たん)(さく)することになった。

 礼拝堂のように人の集まる場所もあるが、リディアに訊くと穴場スポットも数多くあるらしい。平日の昼間ならばそれほど人もいないから、マノンにお(すす)めだそうだ。

 この国の宗教では(じゆう)()()ではなく円形を聖なるものとしていて、教会も上空から見ると円を(えが)くように作られている。中心は()()けの礼拝堂だから上階がないが、グルッと取り囲む円周部分は五階まで作られていて、とにかく(なが)めがいい――と。


「ふわぁーっ……」

「――来て、よかっただろ?」

「はいっ。近くに人がいないなら、開放的なのも悪くないです」


 ほんと、こうして()(つう)にしているところを見ると、ただただ可愛い妹みたいな存在なんだよなぁ。

 リルは寝取られ願望以外は全て高次元。器量がいいから、仮に置いて帰ったとしても(たくま)しく生きてくれそうだ。俺よりももっと良い(こい)(びと)を見つけてくれるだろう。

 けれど、マノンは性格のアンバランスさが激しすぎる。幼さもあるし、こんな()(りよく)を持っていたらまた(ひど)い目に()うかもしれない。それにこのままでは、マノンが酷いことをする可能性だってある。


「見てください。人があんなにちっちゃいです。ゴミみたいですよ!」


 ――正直なところ、置いていくのは心配だ。


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