表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/130

リル⑭ 父親

 部屋を(たず)ねると、リルはいつも通り、一つも乱れのない格好で()(むか)えてくれた。

 こいつは一体、どれだけ朝早くに起きているのだろうか? 毎朝、()()(しる)を作って()しい。包丁が豆腐やネギを刻む音で目覚めたい。


「どうしたの? 朝から重たい顔してるわよ」


 とはいえ、(おれ)だって内容が内容だから、しっかりと目を覚まして身なりを整えてからやってきた。マノンはまあ、いつも通りの室内着(パジャマ)だけれど。


「――ちょっと、リルの(おや)()さんが今どうしているか、調べたほうがいいんじゃないかと思ってな」

「お父さん……? でも、五年前に(しつ)(そう)していて――」

「リルも(うす)(うす)は気付いているんだろ? 五年前に俺が(しよう)(かん)されて、親父さんがいなくなったんだ」


 (かく)(しん)を問うと、リルは表情を(くも)らせて(うつむ)いた。この表情はあまり似合わないな。


「マノンが、日本に(わた)った人の暮らしを例の(とう)(さつ)()(ほう)で追えないか――って。情報が揃えばできるかもしれないらしいんだ。俺も今の日本がどうなっているか知りたいし、リルは親父さんの姿が見られるかもしれない。マノンも日本の生活(かん)(きよう)を知りたがっているから、誰も損はしないんじゃないかと思って……な」


 ヒロイン養成学校では日本の暮らしについて(しよう)(さい)に伝えたようだけれど、マノンはそこへほとんど通っていないわけだ。

 俺が今の日本を見てみたいのも事実。

 だからまあ、あとはリルの気持ちさえ(そろ)えば、三者三様にメリットのある話となる。

 ――けれど、そう単純な話でもないということぐらいは、理解している。


「お父さん……。本当に生きてるのかな?」

「日本ってのは、身元不明人をそう簡単に死なせるような国じゃない」

「でも、結構(こわ)い事件とかの話も……」

「そりゃまあ、(かん)(ぺき)な国なんてないからな。でも治安は()(ちが)いなく良いし、たぶん俺がいた世界では、(まよ)()んで一番無事に済む国が日本だと思う」


 まあ『自分の生まれ育った国を信じたい』という願望も混ざっているとは思うけれど。

 この国だって治安はそう悪くない。

 いや、悪くなくなった。

 戦争なんて続けていれば、人々の心も(すさ)むわけで。

 (けん)(めい)に働いて割とギリギリの生活を続けるこの国の(たみ)だって、もし戦争で旗色が悪くなれば『働いても働いても今より悪い暮らししかできない』となって、治安は悪化するだろう。

 一部地域では、それによる反乱が起こっているところもあって、統一によって反旗を翻す民と押さえつけようとする権力者の(そう)(ほう)(なだ)める形となることもあった。

 今は、五つの国が一つとなった混乱こそあれど、果てしなく続いていた戦時に比べれば民衆のメンタルは安定している。


「ねえ、リル。召喚術を使いながら、疑問に思っていたことがあるんだけど……、言ってもいいかな?」

「……ええ」


 マノンが(ねむ)たそうな目をこすって、(しん)(けん)な表情を作ってリルを見上げた。

 ()(だん)の様子と(ちが)うことを(さと)ったのか、リルの短い返答も(こわ)()()わっている。


「ハヤトさんを召喚するときは、『人』と『人』。そこで一対一の(こう)(かん)が成立したと考えられるんです。でも、ハヤトさんの話によると国王の持つゲーム機は、そう大したことのない金額で買えるものだとか」

「ええ。一応、その話は聞いているけれど――」

「でも『電気』を創り出すソーラーシステムと大容量バッテリーは、遙かに高い。仮に日本で買えば、(おそ)らくスーファミの数百倍、もしかしたらそれ以上……」


 言われて、リルは軽く俯いて(あご)に手を当て、(かんが)()む仕草を見せた。

 そして言葉を(つむ)ぐ。


「誤差程度の金額で買えてしまう――ということよね」

「ええ。それに消費電力の話も少し()(みよう)だ、と」

「えーっと、電気をどれぐらい使うか、よね?」

「はい。映像を映し出す『(えき)(しよう)テレビ』は『スーファミ』の十倍以上、電力を消費する。でもあの液晶テレビ、もっと小さいものもあるそうなんです。それを選べば十倍とはならずに、二、三倍で済むこともあるとか」


 リルは難しい顔をしてこちらを向いた。


「マノンの言うとおりだ。仮に召喚物を『日本からの買い物』だと仮定した場合、ちょっと……いや、かなりバランスが悪い。それと……な」


 言いづらいことではあるけれど、ここまできて伝えないわけにもいかず。俺は(しん)(ちよう)に言葉を選びながら(しやべ)った。


「例えば(えい)(ゆう)召喚は、『()(さく)()に等価となる人物を召喚した』と推測できる。日本や地球なんて知らないところから人間がいる世界がランダムに選ばれて、俺のいる世界がたまたま(がい)(とう)したわけだ。だがスーファミや液晶テレビ、ソーラーパネルに大容量バッテリー……。これらは日本の知識がなければ、召喚不可能だろ?」

「そう……よね」


 リルという女の子は、ヒロイン養成学校で首席を取るほどの力を持っているわけで。異世界の知識を(どん)(よく)に吸収できるのなら、頭の回転は良いはずだ。


「お父さんが、お()()(さま)に日本の知識を伝えていた――」

「ああ。だからきっと(じい)さんは、リルの親父さんが今どこでどうしているか、知っている」

「――――わかったわ。お祖父様に会いに行きましょう」


 仮説は、ある程度は的を射ているだろう。正解から、そう遠くないはずだ。

 そしてマノンの魔法がどう発展するかは、予測不能。

 (とう)()先に姿を現したり、盗撮動画を脳内で一つの動画に編集したり、ここ数日でパティの()()()から自分なりに魔法を発展させることを覚え始めている。

 未知の世界を好き勝手に()(すす)まれてしまうのは怖いことだけれど、この場合、もしかしたらリルと親父さんの会話とか、親父さんの連れ戻しとか、そういう常識外の魔法が成立する可能性がある。


「でも、選挙はいいの?」

「わからん。マノンが言い出したんだ」


 リルに問われ、答え、マノンへ向く。


「だって、私の必勝法は『(きよう)(かつ)』ですから。十字大陸各地に(いん)(せき)を降らせようとしたら、みんな(おび)えて投票してくれます。前日まであぐらを()いていて、全然オーケーです」


 それもう、不正選挙じゃないか……?

 (おど)して投票させるという手段は、買収でもなんでもないわけだけれど。

 ただ、もしこれを不正だと(うつた)えたところで、やり方を変えて『この強大な()(りよく)が国の力になります!!』とでも言えば、()(こく)強兵的な希望と大陸外からの(しん)(りやく)を心配しなくても良くなる安心感で票を(もら)えてしまえるわけで。

 俺自身は少しずつとはいえ順調に進んでいるように思うけれど、果たしてこのチートにどうやって勝てばいいのかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ