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リディア③ 正しさ

 男でも女でもないと言い切ったリディアだけれど、どう見ても胸は(ふく)らんでいるところをサラシで(かく)しているわけで、(うで)も細いし、(かみ)が短いだけで女の子顔だし、あとはもう――。


「付いてるのか?」

「付いてない!!」


 じゃあ女の子だよな……。


「あー、精神的な意味で?」

「そうだ。――元々、最も古い神話によると神の子は男でも女でもないとされていた。だから神父や教皇(きょうこう)(けつ)(こん)もしないし、子供も作らない。()がルート家の当代も長男ではなく『長子』が()()いできた!」

「なるほどな。神話らしい話だ」


 だがそれなら、女であることを隠す理由にはなっても、国王戦に出る理由にはならないな。


(ぼく)は、そうなりたい。――それが、正しい姿なのだから」


 正しい――ねえ。しかし真っ赤な顔で言っているのは、羞恥心か?


(おれ)には正しいと思えないけどな。女の体に産まれているのに男でも女でもないと言い張って、結婚も子作りも禁じる。好きな人ができたって、その気持ちは封印しなきゃならないんだろ? そんなもの、不自然(きわ)まりない」

「自然の話ではない。宗教の話だ」

「ふむ……。じゃあリディアの思う正しさって、どういうことだ?」

「え――」


 こいつは、弟たちには結婚も子育てもしてほしいと言っていた。

 つまりそれが自然であり幸福なことであると、()(にん)している。


「自然とか宗教とかじゃない。リディアの考える正しさだ」

「――だからっ、僕は王族を正しい道に!」

「ふーん。じゃ、今の教皇様では力不足だって言ってるようなものだな」

「それは……っ」

「リディア、(すご)い人気あるんだってな。男からも女からも」


 この中性的な見た目で、品行方正。王族の(けん)()()りかざすような()()りもないし、ぶっちゃけ『ボーイッシュな女の子が好みだ』と言い切れる男性なら、それを理由に入信したっておかしくない。男なんてそんなものである。

 要するに、このリディアという女の子はアイドルだ。

 男だと言い張っていても正体バレバレだし。そこも()(わい)さなのだろう。


「人気のある次代の教皇に王位を(けい)(しよう)させることができれば、()()しい思いをするのは今の教皇。つまりルート家の当代だ。宗教上の関係では国王の上に立てるわけだから、なんでもできるようになる」

「…………教皇様は、そんなこと一言も言っていない!」


 感情的に否定して、好感度を減らす。

 こういう行動を取った人間で図星を()かれていないケースとは(いま)(めぐ)()ったことがない。 

 あとはこいつに自覚があるかどうか――だ。


「でも事実だろ? そういう意図がなければ、自分が出ればいい。まだ五十(さい)にもなってないんだから、不適格と言うほど(こう)(れい)というわけでもないんだからな」

「き――教皇様は、当代としての仕事で(いそが)しくてっ」

「お前だっていずれ当代の仕事を受け継ぐんだ。弟たちには結婚も子育てもして()しいんだろ? まさか王位を継承したら教皇の座は弟に背負わせて――なんて、しないよな」

「それは……そう、だけれど。でも、(ちが)う」


 女なのバレバレだったことだし、これはチョロい系の子かなーと思っていたけれど。

 (がん)として(ゆず)らないな。


「じゃあ(うわさ)をばらまくぞ。『あれれぇー、おっかしいぞー。教皇様が(めい)()を利用して権力の(ひと)()めしようとしてるぅー?』って」


 (となり)で腕を組んだリルから「ふざけていたけれど、今の(だれ)()()?」と問われたが、「日本で一番有名な(たん)(てい)だ」とだけ答えた。てへぺろ、これは青酸カリ――っ。


「教会を(おど)すと言うのか……?」

「いやいや。まさかそんな。でもな、正しい順番を守るのなら、立候補するのはリディアじゃなくて教皇様だろ? って話をしているだけだ」

「くっ、ただ、正しい……っ、だと!」


 うーん。どうも(こう)(こつ)としているな。

『それは正しくない』と否定するわけではなく、まるで正論を正論として受け止めながらむしろ『もっと言って』とでも言いたげな表情に見える。


「言ってやろう。お前は正しくない!」

「そんなことはない!」

「教皇が出るほうが正しい!」

「ぅん……くぅっ」


 くぅっ、じゃないし。同じことを言っているのに、この違う反応。

 早いところ話を終えて退散しよう。


「じゃ、お前が出たら噂をばらまくから、そういうことで」

「ちょちょちょ、ちょっと待って! もっとこう、正しさを説いて――!」


 よーし、わかった。こいつは『正しさ』に弱い。ひょっとすると『王族を正す』という理由は本当かもしれないと思えるほどに。

 更には、今まで教えを説く側だったから、正しさを説かれることに(きよく)(たん)に弱いんだ。正しくないという否定には冷静に『いえ違いますよ』と返すことができるが、正しさを通されようとすると、とんでもなく(もろ)い。


「俺は正しく女の子であるほうが好きだ」

「はうっ」

(くさ)った王族は正すべきだ」

「ぁあぅ……っ!」

「教皇も正しく自分が立候補するべきだ」

「くぅ――――んっ、くそ! もっとだ!」


 (てつ)(しゆう)ーっ。


「リル、こいつの弱点はわかった。帰るぞ」

「ええ? 私は、なんのことだか」

「ちょっ、本当に待って!」


 リディアにガシッと腕を(つか)まれる。でも『女の子だなぁー』と思う程度の力で、簡単に振りほどけてしまった。


「きゃっ」

「マジで、もうちょっと隠せよ」

「お、女でも男でもないんだ!」

「だからそれは正しくないって」

「いーや正しぃ、はうっ――」

「よーし、セルフコントロールできるようになったな? 帰るぞ、マジで」


 そういや王族って、(さかのぼ)れば(じい)さんと同じ血になるわけだよなぁ……。こんな国、さっさと()げだそう。

 俺とリルは今度こそ教会を立ち去って、マノンもタイムマシンの出口みたいなところへすごすごと(もど)っていった。

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