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戦果

 (しん)(ぼく)(かい)が解散したあと、ゴルツさんだけがチェンバーズ家に残った。なんでも親睦会は両家の持ち回り制で、来年はミューレン家で()(おこな)うらしいのだが。

 (おれ)が三男に突き付けた『二度と出るな』という約束を守ると、歴史的なほど長く受け継がれてきた五対五の対戦形式が、次回で(くず)れてしまうそうだ。

 …………よかれと思ったことが、まさか連綿(れんめん)と受け継がれてきた形を崩すとは、考えていなかった。


「ご長男にお孫さんはいないのですか?」


 リルが二人へ問う。

 レイフさんは目を()せて、静かに言葉を(つむ)いだ。


(あい)(にく)ながら、長男の嫁が流産を()(かえ)してしまい……。一番辛いのは本人達です。親としては、ただ受け入れるしかない状況であります」

「同じ日に生まれた二人が、まさかこんなところまで似るとはな」


 どうやら両家の長男には子供がいないようだ。

 (ねん)(れい)(てき)には、二人や三人いたっておかしくないと思っていたのだが、そういう事情を(かか)えていると親としても苦しいところなのだろう。


「では、次男さんは」


 今度は俺から問う。リルは()()った話に()()ってしまったからか、少しシュンとしていた。


「両家共に、(むすめ)がおります。私どもには十二(さい)と六歳の子が」

「うちは十一歳と七歳だ」

「あっ、じゃあ娘さんに五番目の勝負を――!」


 俺の提案に、初老の二人が目の色を変えて、ギロリと(にら)んできた。


「ハヤト様、私が(まご)(むすめ)を危険な目に()わせるとでも?」

「ワシの(いと)しいヨルムちゃんとグリムちゃんを傷つける(やから)は、たとえ試合だろうと(そつ)(こく)殺す」

「あ……はい……すみません…………」


 この国は現代日本に比べて男性と女性の役割がハッキリと分かれている。まあ日本だって百年も(さかのぼ)れば男女は思いっきり区別されていたから、中世世界でそういうことがあるのは当然だろう。

 しかし三人の(むす)()(めぐ)まれた後に生まれたのが、男の子一人と女の子二人――か。

 普通の貴族ならば、女性が家を()ぐことも許されているし、特に(あと)()ぎに困るわけではないが。

 武術を女性に仕込むというのは、貴族以上の身分では御法度(ごはっと)と言っても良い。淑女が好まれるから、結婚の機会に恵まれず跡継ぎ不足になる可能性すらあるわけだ。

 血の継承(けいしよう)と技の継承を両立させなければならないことは、チェンバーズとミューレン、両家特有の事情だろう。


「仕方がないこともあるのです」

「ああ。自然にだけは逆らえぬ」


 二人が受け入れているように、このままでは俺がどうこうするまでもなく五対五の手合わせはいずれ不可能になっていたのだろう。


「――ところで、ゴルツさん。四人の対決を二対二で終えていれば、ヤーマンさんの不戦敗を合わせてミューレン家の勝利――。あれ、本気で言っていたんですか?」


 不思議なことに、俺が(さん)(なん)(ぼう)に勝ってからというもの、ゴルツさんの好感度がグイグイ(じよう)(しよう)して一気に六割ほどにもなった。

 息子を(たた)きのめされて好感度を上げるってのは、よほどの事情があると(うかが)える。


「仮に我々がそうして勝利を宣言したという話が世に出回ったとして、ミューレン家の名声が上がると思うのか?」

「思いません」

(そく)(とう)か――」


 ゴルツさんは(ふく)(わら)いを見せてから、二の句を継いだ。


「子や孫を戦地へ送りたい人間など、一人もおらぬ。――ヤーマンには悪いことをしたが、ああして見世物にすれば、(だれ)も戦地へ(おもむ)こうとなどしないだろう」

「……なるほど」

「同時に、貴族の仕事はあくまで王族へ(つか)えること。それを忘れてはならぬという、(いまし)めでもある。ヤーマンは……事情だけは理解するが、貴族の使命と家族を置き捨てたことに関しては、許せぬ。――――特に、幼き(ころ)から(たが)いに(せつ)()(たく)()してここまで生きながらえた老いぼれが、酷く(しず)む姿を見るというのは……な」

「ゴルツさん……」


 貴族には貴族のプライドがあり、ヤマさんはどんな理由があれど、それを(おか)した。家族を置いて戦地に出ていたことを知ったときは、俺だって『なんでそんな人が戦地の前線になんて』と(くちびる)()んだわけだが、同じ(おも)いをゴルツさんも、きっとレイフさんも、俺よりもずっと強く抱えていたのだろう。


「ほっほっほ。沈んだ老いぼれに負ける老いぼれというのは、見ていて胸が苦しくなるものがありますな」


 あれ。いきなりレイフさんが(けん)()を売ったぞ。

 おーい。守りの型はどこに行きましたかー?


「ああん? そのまま苦しんで死んでも、(かい)(しやく)しねえぞ」

「歳を重ねれば武術の基本がなんたるかを知ると思いきや、若い頃と何も変わらずに()(まわ)すばかり」

「力こそパワーなんだよ。(いち)(げき)でねじ伏せれば勝ちだ」

「負け犬ほどよく()える」


 ああ、これ両家の仲が悪いというより、当代の仲が悪いのか……。


「来年こそ(ゆか)に叩きつけてやるからな。それまで、生きておけよ」

「ええ。(かえ)()ちにする日を毎年、心待ちにしていますよ」


 うーん。仲が悪いのか良いのか……。

 いや、幼少から互いの家名を背負って切磋琢磨してきたライバルなんて言うのは、もう、良いとか悪いとかで簡単に言い切れるような仲ではないのだろう。

 リルはくすりと笑って、マノンははてなマークを()かべるような表情で二人の様子を眺めていた。


「……あっ、そういえばゴルツさん、リルに(あやま)ってください。散々なこと言っていましたよね?」

「それは……。むぅ。ワシも王族に仕える身。リル様の心を折ることも仕事という立場だと、理解して頂けたら」


 リルの心を折る仕事?

 俺たちは特に立候補を隠そうとしていないから、そうなると――


「じゃあ、ミューレン家の仕える王族の中から候補者が……?」

「ええ。ルート家の子息、リディア様です」


 はて。とりあえず五年もこの世界で生きているけれど、本当に貴族王族の事情に明るくないから、さっぱりだ。ルート家というのは名を聞いたことぐらいあるけれど、リディアという名前に心当たりはない。

 だが俺の(となり)でくすりと笑っていたはずのリルが、表情を(くも)らせた。


「リディア――。そう、あの子も……」


 名前の語感から察するに、女性か?

 そしてリルが『あの子』と表現するのだから(おそ)らく、同年代以下。


「ルート家のリディア様……。これは、強敵ですぞ」


 次いでレイフさんも、(あご)に手を当てて深刻そうに(つぶや)いた。

 俺はまだ、王位(けい)(しよう)戦の本当の厳しさを、知らないのかもしれない。

 ゴルツさんはリルへ謝ることなく胸を張って、正当性を主張する。


「チェンバーズ家が今の国王陛下に仕えているように、ミューレン家も次の国王陛下へ仕えたいのだ」


 それが名家(めいか)を背負う人間の使命――か。

 好感度を利用してミューレン家の票を取り付けようと思ったのだけれど、これでは難しそうだ。

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