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異世界帰りは寝取られ令嬢と共に。 ~命がけで頑張ったので、ただ可愛すぎるだけの人はお断りします~  作者: 本山葵
王位継承編① ヒロインをかけてヒロインと戦うゲーム
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リル⑬ 最強のリラックス法

 軽い吐き気と頭痛を覚えながら、(まぶた)をゆっくり開く。

 (さわ)やかな空気と晴れわたる空、(まぶ)しい太陽。

 その中に、リルの顔があった。


「――目が覚めた?」

「介抱してくれた……のか」

「もうっ、ハヤトくん本気で国王になる気、ある?」


 見上げたところで、『呆れた……』と言いたげな表情を見せられてしまう。

 でも、どこか愛情が()もっていて、もう少しこのままでいいかな――なんて思ってしまった。

 …………だって膝枕(ひざまくら)されてるし!

 なにこのシチュエーション!? まだ酔いが残ってるせいもあるかもしれないけど、過去最大級に胸が高鳴ってる!

 それなのに、不思議とリラックスできる。

 膝枕か……。これは、いいものだ……ッ。


「ずーっと、こうしていられたら、いいのにね」

「リルの寝取られ願望がなくなったら、日本でいくらでもできる」

「ふふっ、それ、寝取られさえなかったら私のこと好きだって言ってるのと、同じだよ?」


 幸せそうに笑いやがるなぁ。


「あんまり、そういうのを口に出さないでくれ。……本気で惚れちまう」

「――ありがと。嬉しいよ」


 本当に幸せそうだ。ライカブルは、あのまま光りっぱなし。

 もうこれ、ラブコメじゃん。ラブコメの展開じゃん。

 こういう関係、好きだなぁ――。戦争とか召喚とかでドタバタするより、この甘ったるい空気に(ひた)っていたい。

 それでも現実は現実としてあるわけで、こればかりを満喫(まんきつ)していられる状況ではないわけだ。悲しいのぅ。


「あのあと、考えてみたんだ。ハヤトくんの言葉の、意味」

「俺の……?」


 何を言ったっけ。

 ――ああ。酒場で三人組の話を聞いていて……。

 って。俺、本当にダメなやつじゃん。酒に飲まれてるし。

 よく呆れるだけで許してくれたな、こいつ。今すぐ結婚してくれないか?


「お祖父様は本当に国民から(した)われているけれど、王族の横暴な態度は、嫌われている――。そして次の国王がどんな人になるか、基本的には王族の中から出てくるわけだから、名君の次だけに不安がある」


 まだ退位と王位継承者の選抜方法が発表されただけで、立候補者の公示(こうじ)はしていない。昨日の今日どころか、俺たちだって聞かされたのは今朝のこと。

 これから東西南北各地方にこの話が伝わって、それから立候補者の募集をして、ようやく広く知らされることとなるだろう。

 公示されれば全ての国民は、こう思うはず。


『次の国王は、あの、いけ好かない王族の中から生まれる」


 だから王族でない俺や、王族の中で異質な存在であるリルの立候補は、好意的に受け止められる可能性を持っている。

 しかし可能性のままでは、ダメだ。全く足りない。

 保守的な人間であれば王族外や(めかけ)の子なんて認めるはずもなく、俺たちの出自(しゅつじ)そのものは、むしろ裏目に出る可能性のほうが高い。


「一番気になったのは、『俺たちは上の言いなり』――という言葉」

「そうだな。これは一種の(あきら)めだ」

「そうじゃないって、ちゃんと伝えることができれば、何かが変わるかもしれない?」


 頷きたいところだけれど、ここには難しさがある。

 ――真面目な話になってきたし、そろそろこの天国から離れて、起き上がるとするか。

 上半身を起こして、リルの隣に座った。

 どうやらここは人気のない公園のようで、俺達はそこにあるベンチで座っていたようだ。

 芝が綺麗に刈り揃えられていて、植樹もあり、物凄く良い公園である。城下町にこんな場所があるのか……?


「諦めを希望に変えることができれば、その人達は必ず票を投じてくれるだろう。だが、諦めってものは、色んな希望が打ち砕かれた末に(いた)るものだ。(くつがえ)すことは中々、難しい」

「……そうだよ、ね」

「リルも、何かを諦めたことがあるのか?」

「…………うん。やっぱり、王族の中で(うと)まれるのは、そんなに楽じゃなかったから。お父さんが失踪してからは特に――」


 俺がリルを仲間に誘った理由の一つが、これだ。

 王族であるにも(かか)わらず、王族に苦しめられる人生を送っている。

 そこに国民の感情が上手くリンクすれば、一発逆転の可能性がある。

 王族外の俺と一緒に行動することも、少なくとも悪手(あくしゅ)とはならないだろう。マイナスとマイナスを掛けてプラスへ――――。そういうことをやってのけなければ、勝ちは無い。

 先を考えながらベンチから遠くの芝生を見ていると、ふと、そこに人の足が伸びた。


「もう、酔いは覚めましたか?」

「レイフさん――」


 国王が抱える侍従の一人、レイフ・チェンバーズさん。


「なんでレイフさんが、城下町に?」

「城下町――というより、ここはチェンバーズ家の庭でございます」

「はっ!?」


 驚いて、リルの顔を見る。


「酒場を出たところで偶然出くわして、そのままハヤトくんを一緒に運んだのよ」


 そりゃ公園にしちゃ品が良すぎるとは思っていたけれど。

 まさかレイフさんにまで迷惑をかけていたとは。……俺、そんなに沢山飲んだっけ? この国の酒が安定したアルコール度数だとは限らないし、疲れていると酔いやすくもなるからなぁ。気をつけよう。


「すみません。ご迷惑をおかけして――」

「いえいえ。王族と英雄をそのままにして放ったらかす貴族など、どこにもおりませぬ」


 俺が気を遣わないで済むように言ってくれているのだろう。貴族だって、王族ほど横暴な人は少ないと思うけれど、そんなにできた人間ばかりってわけでもない。


「おじいちゃん。準備できたよっ、早くやろう!」


 ん……?

 十歳に届かないぐらいだろうか。子供が走って、レイフさんの(そば)へやってきた。

 お孫さん――ってことかな。


「はいはい。爺やが、こっちの棒でいいのかな?」

「反対ーっ。ボクが赤の棒で、爺やが普通の棒!」


 俺とリルが見ている前で、子供――、少年は棒術の構えを取る。

 ヤマさんと同じ構えだから、これはチェンバーズ家の教えなのだろう。

 更に棒を華麗に振り回しはじめ、攻撃。しかしレイフさんはそれを完璧に(さば)いてみせた。

 どういう状況か飲み込めない俺に、リルが説明を()してくれる。


「レイフさん、お孫さんに棒術の稽古(けいこ)を付けてるんだって」

「へぇ。まあレイフさんもそこそこにお歳を召しているわけで。ヤマさんの年齢を考えても、これぐらいの(おい)っ子が何人かいたって不思議じゃないか」


 血筋(ちすじ)なのだろう。子供ながらに、棒術としてかなり良い動きを見せている。

 顔もどことなくレイフさんとヤマさんどちらにも似ていて、血縁を感じた。


「んー…………。あの子、ヤマさんの息子さん……だって」

「はっ? ――うぇえッ!?」


 変な声で驚いてしまった……。


「でもヤマさん、そんなことは一言も―ーっ」

「戦場で家族の話はしない。これがチェンバーズ家に代々伝わる、教えみたい」

「そう……だったのか」

「まあ、貴族に産まれた人間が戦地へ行くなんて、もう百年以上も無かったみたいだけれど」


 チェンバーズ家について詳しくはない。

 もしもあの頃の俺が、ヤマさんの抱えている事情を知っていれば、強引にでも返して――――。悔しくて、思わず(くちびる)を噛んだ。


「ハヤトくん……」

「わかってる。命の価値を俺が決めるなんて馬鹿げてる。それでも、悔しいものは悔しい」

「…………ヤーマンさんの命、ちゃんと受け継がれてるじゃない」


 リルは俺を(なだ)めるように言ってくれた。

 確かに、面影はあるし、武術の型だって瓜二(うりふた)つ。間違いなくヤマさんは、命のバトンを彼に渡したんだ。


「悪い。こういうの、もうとっくに慣れてないといけないんだけどな」

「どんなに人が死んでいっても、慣れない。私はそういう人のほうが、好きだよ」


 隣に座る、恋人のようで恋人でも何でもない女の子の言葉を、俺の頭はうまく受け入れきれなかった。でも(なぐさ)めてくれることは嬉しいし、ありがたい。

 少しの間、口を閉じて、孫とお爺ちゃんの稽古に視線をやり続ける。

 ヤマさんが武術の達人。そしてレイフさんも年齢に見合わないスリムな体型で身のこなしが達人級。

 今だって音を聞く限りでは、お孫さんに本物の堅い木の棒を使わせている。子供の扱う棒術とは言え、全てを完璧に(さば)ききるというのは、熟練(じゅくれん)の技が必要だろう。

 一歩間違えるだけでかなりの痛い目にあうはずだ。


「なあ、ひょっとしてチェンバーズ家は武術の家系なのか?」

「うん。この国では『チェンバーズ』と『ミューレン』と言えば、古くから武術で王家に仕えた家で、名が通ってる。――ハヤトくん、戦場にいたのに知らなかったの?」

「どっちの名前も聞いたことはあるけれど……。貴族事情まではちょっと」


 この世界にあまり感情移入をしてしまうと、日本に帰れなくなるかもしれない。

 そして何より、人がそれぞれに抱える事情までは見たくないという感情もあった。後で後悔したように、家族や子供がいると知っていれば、俺はヤマさんを帰そうとしたかもしれない。でもそれは他の誰かが犠牲になるだけで、その誰かもまた、誰かの子供であったり恋人であったり親であったり、するわけだ。

 俺が私情を挟んでいいことでは、ない。

 こういった思いが、無意識の間に情報を遮断(しゃだん)していたのだろう。


「どっちかって言うと、チェンバーズとミューレン家は、兄弟の話が有名だったな」

「どんな話?」


 それでも会話を交わせば、(おの)ずと知ることもある。


「剣術で最強と呼ばれたチェンバーズ家の長男と、槍術(そうじゅつ)で最強と呼ばれたミューレン家の次男。二つの家に生まれた男の子は宿命のように同じ年の同じ日に生まれて、家名を背負って戦い続けた。長男同士の対決はチェンバーズに、次男同士の対決はミューレンに――」

「へえ。そんなことが……」

「最後はヤマさんが得意の棒術でも二番になってお終い、っていう話だったけどな」

「じゃあ、ミューレン家の勝ちってこと?」

「そういうことだ。――ま、俺は武術の強さよりも人柄のほうが大事だと思うけれど。少なくともヤマさんには戦場で笑える強さがあった。ミューレン家のほうは誰も前線へ来なかったから、知らないしな」

「んー、なんとなく、ミューレン家のほうが血気(けっき)(さか)んな気がしてたけどなぁ」


 俺とリルは平和な昼下がりに、孫を鍛えるお爺ちゃんの姿に目を細めながら、ゆっくりと会話を続けた。戦争、統一、召喚、王位争奪。そういった日頃の喧噪(けんそう)が嘘のように、穏やかだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヤマさんの血脈が途絶えてなかった件 [気になる点] 排除型な部分さえ抑えれば相当に理想的なヒロインになれるのにヒロインムーブさっぱり出来てなくてこのままだとヒロインからラスボス枠になってし…
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