最下位ヒロイン
国王の言葉に偽りはなかった。
どの女の子も全て美しく、また可愛らしく、清廉で、ネトラレを最高の愛だと断言する。
「…………まじでさ、これ、どーすんの」
俺はもう言葉を失いかけていた。
あわよくば教育の行き届いていない女の子の一人や二人、居るのではないかと目論んだのだが。
……恐ろしいほどに徹底した教育が施されている。
「ガチ過ぎだろ……。年齢もやたら幅が広いし」
熟女と呼んで構わないであろう明らかな年上女性から、やや年上と思わしきお姉様、更には中学生程度に見える子まで、本当に幅広い。
「俺は熟女好きでも、ましてやロリコンでもないんだが……」
ほどほどに近い年齢で、どちらかと言えば上のほうが広い。
「其方がいつ大陸制覇を成し遂げるかなど、わかっておらんかったからのう。あと五年かかったやもしれぬ。好みが変わった場合への対処も必要じゃ。ロリッ子から人妻まで揃えておくのは最低限の用意じゃよ」
「どんだけ抜かりねえんだよ……。はぁ」
今日何度目かわからない溜息を吐いて、肩を落とす。
「全ては大陸制覇、そして其方との契約を果たすため」
その気合いと念の入れようは悪くないんだけれど、結果が全員ネトラレ属性じゃなぁ。なんでそこに幅を持たせてくれなかったかなぁ。
「大体、ネトラレ属性の人妻って正気かよ……。なあ爺さん、この人たちは俺に選ばれなかったら……他の人が選ばれたら、その後はどうなるんだ」
「学校は解散となり、日常生活へ戻るだけじゃ。もちろん、国への貢献を評価して、成績順に多少の金貨ぐらいは持たせるがの」
「成績順に――って」
そりゃ教育を受ける側も気合いが入るはずだ。国が直接手渡した百パーセントの信頼を置ける金貨なんて、一枚あれば三ヶ月は遊んで暮らせる。
何枚も貰えば年単位だ。
この国――特に王都は貧困層が少なくそれなりの暮らしをしている人が多い。みんな働き者で農業も商業も工業もほとんど休むことなくしっかり勤め上げている。
残業社会で生まれ育った日本人の感覚でも、本当に見上げたものだと感じる。
それでも金貨を貯蓄できるほど余裕がある生活は難しい。
お金のほとんど全てを生活のみで使い切る中世的世界での遊んで三ヶ月と日本での遊んで三ヶ月では、重みが違う。
「これで全員、なんだよな?」
俺は諦め半分で国王に問う。
「ふむ。恐らくはこれで全員揃っていると思うのじゃが……。ワシも歳じゃからの」
すると透かさず、侍従が国王の耳元で何かを囁いた。
国王が恥をかくことを防ぐのも、彼らの仕事だ。
ならば……。
「――あと一人、残っておる」
「んじゃ一応、その一人とも会っておこうか」
期待は薄いが、こうして国王の努力を蔑ろにしないことが後の信頼関係へ繋がる。
結局国を動かすのは国王だ。
この人の反感を買って契約の履行に問題が出ては、日本への帰還が遅れてしまうだけ。
国が選ばなかった美少女がどこかに残っているかもしれないし、最後に統治した東の都などはまだ国王の手が及んでいない可能性がある。
全てを諦めるには、早い。
「しかしの、彼女はその……成績が芳しくなくて、の。序列最下位を直走っているのじゃよ」
なんだ…………と?
「早く! 早くそいつを紹介してくれっ! そいつでいい! いや、そいつがいい!!」
成績最下位。つまり最もネトラレを叩き込まれなかった女性がいる。
詰め寄って鼻息を荒くした俺に、国王は少し目を背けて頷いた。
「わかった。……気が進まぬが、彼女も紹介しよう」
国王が直接城下へ赴くこととなり、侍従が慌ただしく各所へ指示を送り始める。
同時に、集められた女性たちが解放された。