ご主人様
俺とリル、マノン、国王が集まった医務室の中で、サラマンダーの女性が寝台で眠っている。
女性と呼ぶべきか少女と呼ぶべきかは、容姿では判断が付きづらい。キレイ系の容貌で胸もかなりふくよか。それでいて露出も大目の服装だから、女性と呼びたいところだけど、それだけで年齢が推し量れるはずもなく、そもそもドラゴンである。
「――おっ、目が覚めたか?」
寝台の上で仰向けになっていた彼女は、ゆっくりと目を開いた。
「ここは……?」
「心配しなくていい。倒れていたから保護をしただけだ。――自分の名前とか、わかることがあったら教えてほしい」
「――――名前は、ご主人様がつけるもの……」
それはあれかな。主人公に自分の名前を付けて、ヒロイン役には好きな女の子の名前を付けて遊ぶやつかな? 君の出てくるゲームではそれで重度のトラウマを負った人たちが沢山いるんだよ? と言いたいところだけど、まあ、この子の責任じゃないしなぁ。サラマンダーならむしろ、悪戯にディスられた被害者の側……。
だいたい、寝取られることが確定しているヒロインの名前を、自由に付けさせちゃいけないと思う。割とマジで。
「君のご主人様は、誰なのかな」
「……人間なら、どなたでも」
まあプレイヤーは人間なら誰でもなれるから、そういうことになるのかな。
「私は玩具なので」
「おいおい。いくらゲーム世界から出てきたと言っても、そこまで卑下することはないだろう」
「でも、事実だから」
実際、テレビゲームというものは広義で言えば、玩具である。でも女の子が自分のことを玩具と表現するのは、物悲しい。
さすがに居たたまれなくなったのか、隣で見守っていたリルが口を開く。
「ここで女の子を玩具として扱わないところは、ハヤトくんの良いところよね」
いやいや。そんなことをしたら俺は、とんでもない鬼畜野郎だ。常識的な判断をしているに過ぎないのに、やたらと好意的に受け止められるのも困る。
「私ならペットにしますけど。ペットと書いて玩具と呼びます」
なんかマノンが怖い。ずっと怖い。
「ワシは早くパソコンが欲しいのう」
あんたが召喚したんだろうが!
「爺さん。召喚したのはあんたなんだから、名前ぐらい責任持って付けてやれよ」
「えぇー」
「なんで不満そうなんだ? ゲーム世界から女の子が出てきたんだ。夢が叶ったんじゃないのかよ」
「はぁ――。最近の若者は全く、何もわかっとらんのう」
その言い方、なんかイラッとするな。
「ワシはゲームがしたいのじゃ。国王じゃぞ? 名君じゃぞ? 現実の女子など、とうの昔に飽き飽きしておる」
もうほんと、誰か、この爺さんを国王の座から降ろしてしまえよ。やりたい放題じゃねえか。
「――――そんじゃ、仕方ない。安直だけど、『サラ』ってのはどうだ? とりあえず名前がないと困るだろ」
「……はい。ご主人様」
ん?
「おい。まさか名前を付けた人がご主人様になるとか――」
「私は、ご主人様の玩具です」
なんだろう。どこか機械的な調子で感情が感じられない喋り口だけど、言っていることは極めて危なっかしい。
「ほら、面倒なことになった」
「やっぱり敵じゃないですか」
うーん。ライカブルで好感度を確認。百パーセント。ああ、うん、これ面倒な展開だわ。
でもこの子の場合、恋愛感情というわけでもない気がする。
「ご主人様、お恥ずかしいのですが」
全然恥じらっているように見えない、無表情。
「きのこはありませんか?」
「きのこ――ねえ」
この国でキノコを食べる習慣はない。毒性がある確率が高すぎるから、食べようとする人がいないだけの話なんだけど。
「爺さん、どこかできのこの保管とかしてないか?」
「食べもせぬ毒を置いているわけがないじゃろう」
「だよなぁ。――サラ、きのこ以外のものは食べられないのか?」
「いえ。ゴム以外なら、鉄でも土でも食べられますが」
くぴぽ?
「一番の好物は毒きのこです」
「なにその嫌な自己紹介……」
まあ、毒があってもいいのなら、森へ行けばいくらでもあるか。
「爺さん、手の空いてる兵とか使って、きのこ採集に行ってもらってくれ」
「えー」
「パソコンの取引、サラがこのままならやる必要はないからな?」
「任せるのじゃ」
国王は急に胸を張って威厳を出し、近くにいた兵に厳しい調子で指示を出した。威厳っていうか、ただ偉ぶっているだけのように思えてきた。
「――ああ、そういや俺たち、起きてから何も食べてないな。もう昼か――」
そうして、俺とリル、マノンは昼食を頂く運びとなった。
ただ……。
「サラも一緒に食べるか?」
一応、訊いておかねばなるまい。
「ちょっ、ハヤトくん!」
「この人、面倒に面倒を重ねるタイプです。――まあ、そこも良いのですけど」
んー。マノンを元に戻す方法はないかな? 今までとの落差が激しすぎて、このデレはちょっと馴染まない。
答えを待っていると、サラは首を横へ振った。
「私に選択権はありません」
例えば、自分のことを玩具と呼ぶ彼女が、ゲームのキャラクターというよりもゲームそのものだったとしよう。
多くのプレイヤーは、食事を取りながらゲームをプレイすることなんて、ない。まあポテチぐらいなら割とあるかもしれないけれど。
ただ絶対に――というわけでもなく、ゲーム画面を前に食事を取る人だって、いることはいる。
でもそこにゲーム側の意思なんてものは当然、存在しないわけで。
そういう風に考えていくと、彼女の言葉にも一定の理解が及んだ。
――――彼女には、意思がない。
「うん。じゃあ食べてくるよ。兵隊さんがきのこを採ってきてくれるまで、大人しく待ってるんだぞ?」
頭の上に手をポンと置いて、なでなでとしてやる。
無表情で「……はい」と頷いてくれた。
この様子なら、ご主人様を無視して破壊行為を働くとか、そういう心配はいらないだろう。




