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召喚!!!!

 壁にロウソクが()かれているだけの暗い部屋で、血で描かれた魔方陣が(ほの)かに発光している。


「お祖父(じい)様!」


 最初に呼びかけたのは、国王の孫、リルだった。


「――なんじゃ、リル。何をしに来た」


 声から怖いほどの圧力を感じる。国王が持つ威厳(いげん)、オーラ――。そういうものを一切隠していない状態だ。

 低く(とどろ)くような音なのに、まるで空気を切り裂いているかの(ごと)く、鋭利(えいり)


「お祖父様――。……お祖父様がこの国の未来を思われていることは、理解しております。でもっ、それで他国を侵略しても()いとは――っ!!」

「黙れ!!」


 国王は言葉の威力そのままに、リルを一喝(いっかつ)した。


「もうじき、じゃ。もうじき、全てが終わる」


 終わる……?


「おい、爺さん。あんたは一体、何を召喚(しょうかん)しようと――」

「察しはついておるのじゃろう? ――ドラゴン。人を乗せて空を飛び、空から魔法による攻撃を行う、破壊の象徴(しょうちょう)じゃ」

「くっ――。結局そういうことかよ! あんた、俺を日本に帰さないためにリルにネトラレとか叩き込んだんだな!?」

「召喚が叶いそうな現状に、わざわざ変化を(きた)す必要は無かろう? ハヤトを日本へ帰せば、日本との繋がりが消える可能性があった。不用意に帰すわけには、いかなかったのじゃ」

「許せ――とも、言わねえんだな」

「この程度の犠牲、いくらでも発生しておる。(くさ)るほど見てきたであろう?」


 死んでいった兵、――ヤマさん。

 残された家族、――レイフさん。

 マノンだって不条理な条件で生かされていた。皆、何かの犠牲になっている。


「案ずるな。ドラゴンさえ召喚できれば、日本との関係を保つ必要も無くなる。これが終われば、大手を振ってゆっくり帰るがよい」


 確かに、ちょっと日本に帰るのが遅れた程度は、小さな犠牲だろう。

 それでも、先にある大きな犠牲を認めるわけにはいかない。


「マノンっ、魔力を制御することはできないか!?」


 問うた瞬間、猛烈(もうれつ)な風が部屋の中で()いで、魔方陣の中心に吸収されていった。


「むっ……無理です! どんどん吸われてます!!」


 空気ごと飲み込むような力に、体を引き()られそうになる。


「マノンがここへ来たことで、完成が早まったようじゃのう」


 国王(ジジイ)がニヤリとほくそ笑む。――このままではマズい!


「リル! マノンを連れて部屋を出るんだ!」

「この風じゃ無理よ!!」


 リルはマノンとくっついて、魔方陣の吸い込む力に抵抗していた。男の俺が立っているのもやっとなのだから、無理はない。

 ――いや、まさかこの力……。マノンの魔力を吸収するだけじゃなくて――。


「おいジジイ! マノンを犠牲にするつもりじゃないだろうな!?」

「――――王族の権威を(おびや)かす娘と引き換えに、強大な力を手に入れる。これこそが王の仕事じゃよ」

「最低だな、てめえ!!」


 どんなに国のことを思う名君であっても、女の子を犠牲にして力を手に入れようなんて……。最悪すぎる。認められない。


「おい! 誰か召喚術の弱点とか知らねえのか!?」

「わからないわよ! 私が使えるのは死の魔法だけなんだから!」

「なんだその最強っぽい設定は!!」

「――でも、全ての術は頭の中で結果を思い描かないと、実行できないはずよ! イメージが明確じゃないと、結果が不安定になるの!!」


 ほほう。ということは、バッチリ俺が死ぬイメージをして、死の魔法(リミデス)使ったんだね。そうかそうか。ほうほう。


「よっしゃ、じゃあ爺さんの脳内イメージを崩せばいいんだな!」

「無駄じゃ! ワシの脳内ではすでに火のドラゴン――。サラマンダーがイメージできておる!!」

「そこはいっそバハムートじゃねえのかよ!? 多分そいつが最強だぞ!」

「ふふっ、はははははっ。何もわかっておらぬのう、ハヤトよ。――バハムートは神竜(しんりゅう)。ドラグナーがいなければ、召喚ができないのじゃ!!」

「そんな細かい設定知らねえよ!!」


 くそっ。ただのゲーマーじゃねえか。

 こんな人間が世界を制する? 最悪の未来しか想像できないっての。永遠にぶよぶよだけプレイしていればよかったのに。

 でも、どうする? このままではマノンが魔方陣に『喰われる』。最悪の結末しか待っていない――っ。


「陛下!!」


 背後で急に聴き馴染(なじ)みのある声が鳴って、俺は思わず振り向いた。


「パティ……?」

「何をしに来た。まさか、選ばれし賢者が王の邪魔立てをする気か?」


 もしかして権力の犬であるパティが、ついに俺たちを想って……!


「ふっ――。この賢者パティ、陛下の邪魔などするはずがございません」

「おい、犬」


 もうほんと、こいつダメだ。そりゃ、ある意味では賢者だよ。こういう長いものに巻かれるやつが結局一番出生していくんだよ。

 お前マジで日本行ってこい!! 絶対向いてるから!!


「しかし陛下、ドラゴンの召喚は、本当に陛下自身のお望みなのでしょうか?」

「……なに?」

「失礼ながら、私はハヤトの盗撮をする過程で、陛下の手帳を拝読してしまいました」


 おいこら。この非常時にまで人の行動を盗み見てたのか? つうか隠す気ゼロじゃねえか。犯行を隠す気が無い盗撮犯なんて聞いたことないぞ。


「わっ、ワシの手帳じゃとぉ!?」


 おや? ジジイの声が妙に揺れたな。

 俺はこの世界の文字をそれほど得意としていないから、瞬時には読めなかったけれど。そんなに重要なことが書かれていたのか?


「まさかパティ、おぬし、全て読んだわけではあるまいな!?」

「盗撮を愛好するものとして、人の秘密を読まずにいられるはずがございません!!」


 ほうほう。つまり『盗み見>権力>>>>俺たち』というわけだな。ほーう。

 権力の犬から立派な犯罪者にジョブチェンジとは、恐れ入る。

 ……本当にダメだ、こいつ。一番ダメなやつが一番身近にいたわ。こんな相棒がいて、よく十字大陸制覇なんてできたもんだ。奇跡にしか思えなくなってきたぞ。


「陛下は、伝説の木の下で告白をされたいのですよね?」

「……な、なにを……」


 思いっきり口籠もってるぞ。さっきの威圧感はどこ行った。


「えー、読み上げます。


『今日も好感度上げに没頭しすぎてパラメータを上げ忘れてしまった。日本の女子(おなご)は現実的じゃのう』


 ――」


 うわぁ。ギャルゲーにありがちなミスだな。


「こっ、こら待てパティ!! 待つのじゃ!!」


 ちなみに国王陛下は、召喚術の発動中なので魔法陣の中から動けないようだ。

 そもそも風の中心だしな。動けるはずもない。

 俺は風に逆らって、どうにかパティの横まで行き、一緒に中身を読み上げる。


「「今日は同級生(スクールメイト)(ツー)に浮気じゃ。……しかしこのゲーム、水着イベントが来てその先がありそうなのに、重要な部分が描かれておらぬ。ワシは十八歳以上じゃというのに、何を気遣(きづか)われておるのか。……全年齢版など、クソじゃ!」」


 ふーむ。これは中々に痛いな。

 俺は更にパティと声を合わせた。


「「他のキャラの好感度も上げないといかんとは、これ、なんて爆弾処理?」」


 あーあー、わかるわかる。ギャルゲーは時に爆弾処理班の気分が味わえるからな。下手を打てばヒロインがストーカー化する場合もあるぐらいだ。

 うまく攻略対象以外をキープしながら爆弾を爆発させずに、攻略対象だけを颯爽(さっそう)と落とす。

 ギャルゲーというのは案外、高度な策略が求められるものだ。

 更に続ける。


「「十八禁版をプレイしたいものじゃが、パソコンは高いのう。これ以上税金を上げると反乱が起きそうじゃし……。そうじゃ! 他国を侵攻して金品を奪っちゃえばパソコンの対価になるのではないか!? ワシって天才じゃのう♪」」


 うわぁー……。もう最低最悪だ。人間として終わってるぞ、この爺さん。

 チラリとリルとマノンを見ると、本気で汚物を見るような目を国王に向けていた。そりゃそうなる。お前らが正しい。


「「ドラゴンが()いか新しいゲームが()いか、迷ってしまうのう。――いや、ワシが目指すのはハーレム! あくまでハーレムエンドじゃ! 多くのヒロインと交際するためには、多くの犠牲が必要。まずはドラゴンから――」」

「おいジジイ。さすがに読む気も()せたぞ」


 途中で読み上げるのをやめた俺に、パティも続く。


「陛下。恐らく陛下は、十八禁ゲームとやらやゲームクリア、もしくはハーレムがご希望なのであって、ドラゴンの召喚は苦渋(くじゅう)の決断であったのではないでしょうか?」


 いや、なに冷静に分析してんの?

 そして次は、リルが口を開いた。


「…………お祖父様、いくらなんでもこれは擁護できません」


 おうおう。もっと言ってやれ。身内に言われるのが一番(こた)えるってもんだ。


「他国を犠牲にして自分の願望を叶えようとされるよりは、ネトラレ願望のほうが遙かに健全じゃないですか!! ハーレムよりネトラレ、そう生き直すことはできませんか!? ネトラレなら現実だけで叶いますから!!」


 だから論点ズレてるっての。生き直すなら、もうちょっとまともに生き直せ。というかむしろ、お前が生き直してくれ。


「私が生き残ったら、この国、マジで滅ぼすからね?」


 おーい。今が山場なのに、俺たち全然まとまってないぞー?

 ……まあでも、マノンだけは怒る権利があるな。散々利用された挙げ句に、命まで犠牲にされそうになってるんだから。激怒しても構わない場面だ。


「なあ、いっそのことだから、このジジイだけサクッと天国に送って、次の王にマノンが立候補してみたらどうだ? この国は魔法の才で国王を決めるから、マノンならなれると思うぞ」

「引きこもれなくなるから、いい。じゃあ、サクッと天国にだけ逝かす」

「そこだけは譲らないのな」


 そもそもこのジジイ、行くのは地獄じゃないかね?


「おい爺さん、反論はないのか?」


 問うと、国王は目を()せてじっくり()めを作った後、勢いよく語りはじめた。


「――――スーファミ版のどきメモは、PS(ピーエス)版のあとに発売されたのじゃ」

「ん? なんだって?」


 果てしなーく、どーでもいーような話を語り出したぞ。


「わかるか!? 先に発売されたPS(ピーエス)版には音声が入っておるのに、後から出たスーファミ版では音声が全カットじゃ!! それなのにスーファミ版で攻略せねばならぬ、この苦しみ……っ! (ぬし)らにはわからぬじゃろう!?」

「わかってたまるか」


 もう俺のほうが言葉に力、入らないんですけど。


同級生(スクールメイト)(ツー)は全年齢版になって、過激なシーンが全カット……。これらをスーファミ買った後で知ったワシの苦しみが、主らにわかるのか!?」


 昔の日本には、この哀れなジジイみたいな被害者が沢山いたのだろうか。ネットの情報が無い時代って怖いな。


PS(ピーエス)も安かったんじゃないのか? 初代はもう大分古いだろ。買い直せばいいじゃねえか」

(ぬし)はバカなのか? それでは結局、全年齢版しか遊べないじゃろう」

「少なくとも、どきメモには全年齢版しかないと思うんだが」

「それに……の。パソコンには多種多様な…………の?」


 今更、何を口籠もる必要があるのだろうか。

 しかし、国王はパソコンゲームをご所望(しょもう)――ねえ。

 まあ解決策が思いつかないわけではない。ないのだが……。ただ、俺にとってのリスクがなぁ。

 でもマノンの命がかかっちゃっているわけで、もう、そんなことも言ってられないのか。


「よしっ、爺さん、取引をしよう!」

「――条件を言ってみよ」

「俺の部屋にあったパソコン、まだあったら(ゆず)ってやるよ」

「なにっ!?」


 ガッツリ食いついてきたなー。


「それなら所有者は俺だ。俺が対価を決めれば、それで済むんじゃないのか?」

「…………異世界の対価をこちら側にいる人間が決めることなど、試したこともない」

「それならまず、やってみようぜ! ほら、こんな召喚術はもうやめて、パソコンゲームに(いそ)しんだほうが絶対楽しいって! なんなら、そもそも俺だってそういうゲームの一つや二つぐらいインストールしてあるし!」


 爺さんを交渉にのせるつもりで言ったのだが、横から思いがけない言葉が飛び込んでくる。


「へぇー。ハヤトくんも男の子なんだね」

「ほぉー。結局そういうことですか」


 あれ……。俺、今、何かを失ったような気が……。

 いや、それでもこの場面では、多少の犠牲は――ッ!!


「――マノンを助けるためだ! そのためなら俺は、エロゲーぐらい譲ってやる!!」

「うわぁ。みんなハッキリ言わないでいたのに、エロって言っちゃった」

「格好よく言ってますけど、全然格好よくないですからね?」


 おかしいな。俺、多大な犠牲を払ってマノンを助けようとしているはず、なんだけど……。今の俺こそ、まさに英雄なんじゃないの? 違う?


「――ハヤトよ、もうよせ」

「爺さん……っ」

「男は傷を抱えて生きるものじゃ。傷の数だけ立派になれる。これは女には、わからぬことじゃよ。――して、どのようなゲームか、こっそり教えてはくれんかのう?」

「えーっと……」


 ごにょごにょごにょごにょ。ごのごーにょごにょ。


「ふむ。――――なぜそれを早く教えてくれたかったのじゃ!! ドラゴンなんて必要ないではないか!!」

「今更なんで逆ギレしてんだよ!!」


 瞬間、魔法陣が強烈な光を発した。


「うわっ」

「きゃっ」

「なんですか――!」


 同時に風が収まっていき、俺たち三人はパティのいる部屋の(はじ)っこまで、待避(たいひ)した。


「…………完了じゃ」

「なに!?」

「城の外にドラゴンを召喚した。言ったじゃろう? もう止められはせぬ――と」

「そ…………そんな、バカな……っ」

「残念じゃったの、ハヤトよ」

「くそぉッ!! じゃあなんで俺は、言わなくていいことをあんなにべらべらと――っ!!」


 悔しがる俺の横に、リルが寄ってくる。

 ああ、もう、思いっきり(ののし)ってくれよ。そんな趣味を暴露(ばくろ)するなんて最低だとか、さ。


「――ハヤトくん。男の子には秘密の一つや二つぐらい、あるんでしょ? そんなに落ち込まなくたって、健康なら仕方ないわよ」


 あれ?


「わっ、私を助けようとしてくれたんですから。その――。多少は、理解しないと可哀想ですし」


 あれれ?


「お前ら――」


 思わぬ理解と擁護(ようご)を得て、俺は感動のあまり涙を溜めた。

 リルが母性たっぷりの表情で、柔らかく言葉を紡いでくれる。


「男の子が部屋に鍵をかけたら知らない振りをしなさいって、ちゃんと学校で教わったから」

「生々しい話はしちゃだめぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」


 俺が叫ぶ横で、最年少のマノンが冷静に「とりあえずドラゴン、どうにかしに行きませんか?」と言ってきた。

 ですよね。はい……。行きます……。

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