召喚!
翌日、目が覚めるとリルがそばにいて、俺の手を柔らかく握っていた。
ただ、そばで寝ていたラブコメ展開ではない。ベッドの端に腰掛けている。
「おい……。なんだこの手は」
「しっ! なんか城の様子がおかしいのよ」
「手を握っている説明に、なっていないんだが」
どーせ、『こうして積極的にスキンシップを取れば、英雄様は簡単に落ちるでしょう』とか、学校で習ったんだろ? このプロヒロインめ。めっちゃドキドキするわ。朝からこれはダメだって。
ただ――――。リルは眉根を寄せて、真剣な面持ちだ。こりゃ本当に、ラブコメ展開じゃなさそうだな。
「お祖父様の居場所が、一晩わからなくなった――って」
「爺さんが? ――――そりゃ、国王が行方不明なんて一大事だわな」
「私も探しに行きたいのだけど……。ほら、あの部屋」
「――――ああ、ゲーム部屋か。どうせゲームして寝落ちとかしてんだろ? 歳を考えろっての」
と、まあ普段通りに、憎まれ口を叩いてみたのだけど。
リルは黙って一度だけ、こくりと頷く。
「わかった。このタイミングでこれは絶好のチャンスだからな。あの部屋に行って、爺さんの所有ゲームを確認しよう。……爺さん自身がどこにいるかも、気になるしな」
ただ――――。もしかすると、目前まで危機が迫っているだけなのかもしれない。
国王が消えた。
もしこれが召喚と関係していることであれば、事態が一歩以上進展した可能性がある。あまり考えたくないことではあるが。
しかし国王不在の間にゲームコレクションを確認できれば、どのゲームのどんなキャラクターやモンスター、兵器を召喚することが理に適うのかを予想することができるし、なんならその場でゲームを破壊してしまえば召喚を止めることもできるかもしれない。
「マノンも連れて行くか? あいつの盗撮魔法でまずは居場所を確認できる」
「できれば……。でもこの状況で、出てきてくれるかな」
「魔法はともかくとして、慌ただしい城の中を移動するのは、嫌いそうだな」
しかしマノンにとっても重要な話である。俺たちは一旦通路へ出て、マノンの部屋のドアをノックした。
「――――どうぞ」
「おう、起きてたのか」
寝ていると思ったけれど、さては夜更かししてたか?
「国王がいなくなったらしい。例の盗撮魔法で探してくれないか?」
「……うん。わかった」
やけに素直だな。元気がない、という気もするけれど。
「召喚術の部屋――か」
「私達には場所がわからないわね」
魔法は『国王』を見ているだけで『場所』を映しているわけではない。
「…………しゃーない。足を使って探すしかないな。まずは例の部屋から――。マノン、俺たちは爺さんを探しに行くけれど、どうする?」
「――行く」
どうも様子がおかしい。なんだ、この違和感。
「………………お前、ちゃんと寝たか?」
問うてもマノンは、答えてくれなかった。
「ははーん。さては寝れなかったな? はじめて人と食事して、興奮しちゃって」
「そ――っ、そんなことない!」
「結構、夜遅くまで話し込んだもんな」
「そ、そう! そっちが原因!」
大して変わらない気がするんだけどね。
「ふえふえふえふ。人と一緒に食事なんて、私にとっては些細なこと」
眠そうな目で無理して笑っているけれど、ほとんどの人にとっても些細なことだぞ?
でもやっぱりこの子は、引きこもり願望さえなければ、ただ不遇で友達が少ないだけの子だ。
昨日の夜は俺やリルの話を楽しそうに聞いていて、ひょっとしてアルコールでも入っていたか? と心配になったぐらいだけれど。
多分、素の感情が出ているだけだったのだろう。
「…………ねえ、マノンちゃん。ひょっとして心配で、寝られなかった……とか?」
心配――って、なんの話だ。
不思議に思って一旦リルを見ていた視線をマノンへ切り替えるが、なぜか鼻から下を枕に埋めながら、耳を真っ赤にしてこちらを見ている。
ライカブル――っと。
おうおう。八十パーセント強ってところか。昨日の夜は六十から七十パーセントってところだったのに、合わない間に上がるってのは結構なことで。
一人で勝手に好感度を上げていくなんて、これがもし恋愛感情ならば割と重症である。
でも。心配……? はて。俺には心当たりがないな。
「大丈夫だよ。どんなに確実な方法でも、ハヤトくんはそんなこと絶対にしないから。――――ね?」
リルが優しく言うと、マノンは黙ってゆっくり頷いた。
俺がやることで心配…………ああ、なるほど。
「そんなに、連れ出されるのが心配だったのか? さすがに夜に無理矢理なんて、するわけないだろ」
ようやくわかって言うと、マノンは顔の半分を埋めていた枕を、俺の顔面へ投げつけたきた。
「ぶはッ!」
予想していなかったからノーガードで当たってしまった。ふっかふかに柔らかいから、別にいいけどさ。
「ほんっと! ほんっとこの人はダメな大人!! もしかして本当にしっ、て、……ずっと心配してたのに、もう!!」
「なんでそこまでキレる!?」
「……ハヤトくん、結構天然なところあるよね……。ライカブルがあるのにそれって、ちょっと……」
「いやいや、マジでわからないんだけど! わかったならリルも教えてくれよ!!」
「教えるわけないでしょ。……はぁ」
重たーい溜め息を吐かれてしまう。次いで軽蔑するような視線を、高い好感度のまま投げかけてくる。
ハッキリ言って、理解不能。なんなんだ、このダメヒロインズは。




