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マノン⑨ 食べられない

 車輪のついた銀製の荷台で夕食を運んでから、寝ているマノンを起こす。すると当然のように、荷台を押して自室へ歩き始めた。


「マノン、今日も一人で食べるのか?」

「はい」


 止めても歩き続ける。

 うーん……。食事を人に見られたくないってことかな。

 思春期ならではの悩み?

 でも、あんまりそういう話は聞いたことがないな。

 いや、そりゃ俺だって、引きこもっていた頃は自室に閉じこもってご飯を食べていた時期はあった。もう誰とも接したくない精神状態の頃だ。

 でもそういうのは、家からは出なくても少し自室からは出られるようになって家族と接するようになりはじめて、少し経った頃には自然と解消されていた。

 マノンは俺達との交流をそれほど拒まないし、食事だけ一人が良いというのは、少し違和感がある。


「マノンちゃんは、一人でご飯を食べたいの?」


 リルが優しく問う。二人の年の差は四つ。引きこもりの妹を気遣う、良いお姉ちゃんみたいだ。


「……別に、そういうわけじゃ、ないですけど」


 んー?

 今の反応を見るからに、当のマノンだって、一人での食事を全力で好むというわけでも無さそうだ。引きこもり願望は全く隠していないわけで、遠慮や気遣いでそういう風に言っているとも思えない。


「なあ、ひょっとしてマノンって、他人の見てる前でメシ食ったことないんじゃないか?」


 幼少の頃に強制的に引きこもらされてから十四歳になる今まで、ほとんどずっと引きこもり。

 一日だけ学校へ連れて行かれたのが特殊なのであって、それ以外は本当に一歩も外へ出ていないそうだ。筋金入りにも程があると言いたいけれど、親のためという面も持ち合わせているから、言えないな。


「…………うん。どうしたらいいか、わからない……から、一人で……」


 それはマノンから出た言葉の中で過去最大級に希望が持てるものだった。

 言葉には出していないけれど、本当は私も一緒に食べたい――という気持ちが溢れ出ていたからだ。

 俺とリルは顔を見合わせて、喜びを共有した。

 よく考えてみるとマノンという女の子は、国王すら脅して城を人質のように扱うほど強烈な引きこもり願望はあっても、人嫌いではない。喋らないわけでもないし、むしろ俺やリル、パティとのコミュニケーションを楽しんでいる節すらある。

 …………まあ、パティ相手に関しては、かなり侮辱的な物言いで遊んでいる感もあるけれど。


「リル、まだ食べられるよな!?」

「もちろん!」


 それから俺たちは「ちょっと待っていてくれよ」と言い残して、自分たちの『おかわり』を頂くために調理場へ向かった。

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