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マノン⑧ 逃げる

「いーやーでーすーっ」


 マノンが自室のベッドフレームにしがみついて、俺たちの提案を(かたく)なに拒否する。


「仕方ないだろ。どう考えてもお前の魔力が原因なんだよ」

「ひーきーこーもーるーのーっ!」


 不可能を可能にしてしまうマノンの魔力が、空想世界からの召喚術を実現可能なものへ変えてしまった。そう考えると辻褄(つじつま)が合う。

 マノンの持つ圧倒的な魔力は、魔法ではなく『魔法陣』に影響を与える。これは学校の中庭ですでに実験済みだ。

 パティが持っている火起こしの魔法陣型アクセサリーを、マノンではなくパティに使わせてみた。普通に考えるとマノンが使っていないのだから、魔法は強力にならない。

 この魔法陣は本来、マッチやライター程度の火を(おこ)す程度のもので、生活魔法とも呼べる。

 しかしその火起こしの魔法が、マノンが傍にいることで一瞬だけボワっと、ガスに引火したような炎が広がって、すぐに消失。

 耐久力抜群で超高価な金属製の魔方陣は、粉々に砕け散ってしまった。パティ、めっちゃ涙目。

 これでマノンの魔法が、の使用に影響を及ぼすことが確定したわけだ。

 今までだって散々他人の魔法陣に影響を与えてきたのだとは思われるが…………。恐らく影響範囲は、客室と国王が召喚術を使う城の中心部分の程度。

 城下町の中と考えれば、それほど広くはない。

 そして金属製の頑丈な魔法陣が一瞬で粉々になるのだから、普通に描く程度の魔法陣では出力が強すぎて何も起こらなかったのではないかと想像できる。


「この世界にドラゴンが出てきてもいいのかよ!」

「はいっ! 私が引きこもれるなら全く問題ありません!」


 ダメだこいつ。一番まともかと思ったけれど、ダメだこいつ。


「戦争なんてことになったら、引きこもっていられるかわからんぞ!」

「ドラゴンで空から支配しに行って負けるとか、考えられないですから!」


 なんで頭だけはきっちり働くんだろうか、この子は。

 このモンスターすらいない世界にドラゴンなんて出てきたら、チートもいいところである。他の国にその類いの存在があるなら既に全世界を支配下に置いているだろうから、空から襲えば、大した抵抗もさせずに屈服させることが叶うかもしれない。

 激しくぶつかりあう戦争というよりも、一方的に攻撃を加えて降伏を迫る形の侵攻となるだろう。

 この国に大した被害は出ないかもしれないけれど、相手の国にも人が生きているわけで。国と兵がいる限り、どんなに大きな力の差があっても、衝突は必ず起こる。

 他国の民だから殺しても平気、なんて感覚は、残念ながら持ち合わせていない。


「自分の力で人が沢山死んで、それでお前、平気なのか!?」


 つい厳しく問い詰めてしまった。

 マノンは伏し目になって、少なくとも平気ではないことを示した。


「…………それは。……でも、使うの、私じゃないですし。私が戦争するわけじゃないですし。私、ただこの体質で産まれてきただけ……ですから」

「そりゃそうなんだけどさ――」


 でも、彼女にそれ以上の言葉を伝えられなかった。

 俺はマノンを、城どころか、城下町の外へまで連れ出そうとしている。町全体が魔方陣なんて状況じゃ、どこにいても少なからず影響が及ぶだろう。

 今にして思えば、国王はマノンを紹介することを少し渋っていた。『本当に持って行かれるとマズい存在はマノン』だということだろう。まあ、俺が希望したところでお互いの同意がないと決めきれないから、更なる保険がかけられていたわけだけど。


「なんで私が悪くないのに、私がそんな目に遭うんですか!」

「……そう、だな」


 今、マノンは、生まれ育った家からも引き離されようとしている。

 でも彼女はただ力を悪用されただけの、言うなれば被害者である。

 そもそも引きこもりの切っ掛けを作ったのも、異常な魔力を王族から恐れられたからだ。もしそれがなければ、マノンは今頃、どうしていただろう?

 この国の一般的な民には、子供を引きこもらせるほどの経済的余裕がない。少なくとも部屋を出て、両親の手伝いをしなければならないわけだ。

 人の性格は、遺伝と環境が半分半分の割合で混ざり合って、できあがる。そういう話を耳にしたことがある。

 つまるところ、不遇の環境がマノンを今の性格に育て上げてしまった可能性だって、十二分にあるわけだ。


「――――わかった。マノンの言い分は、正しい。俺には否定できない」

「……え?」


 可哀想に。まるで、引ききこもっているのに無理矢理学校に連れて行かれる子供のような、そんな怯えた目をしてる。


「マノンは悪くない」

「…………うん」

「それに、マノンが今のままでいられる解決策――。実は、あるんだ」

「えっ、あるの!?」

「ああ。――――国王と俺は、ヒロイン報酬の契約を交わしている。どんな条件であっても契約を果たせなければ死ぬっていう、重い契約だ」

「うん」

「だから、俺が死ねば国王も死ぬ。召喚術が使えなくなればもう、何も起こらない」


 その場合は、俺の対価として日本へ渡ってしまった人が帰って来れなくなってしまうけれど……。どれほどの命が費やされるかわからない戦いを防ぐことができるなら、そこの犠牲は飲み込むしかないのかもしれない。

 案外、日本で悠々自適な生活をしている可能性だってある。身元不明人を黙って死なせるほど腐った国ではないと思うから、ある程度の期待は持てる。


「それはダメ!」


 真っ先にマノンが声を大にして、次いでリルも「絶対許さないからね!」と言ってくれた。

 …………そうだよな。こんな提案、自暴自棄にもほどがある。

 さあ、思いっきり叱ってくれ!


「ハヤトさんがいなくなったら、日本で引きこもれないじゃないですか!?」


 …………あれ?


「未亡人と寝取られは少し違うの!!」


 んー…………?

 なんか俺、思っていた以上に大切にされていないなぁ。うんうん、あー、そっかぁ。絶対こいつらだけは連れて帰らないわー。どんだけ顔が良くても受け付けられないわー。あと、そもそもリルは、俺が死んだって未亡人にはならないからな?

 ――――しかしパティだけは、(うつむ)きながらプルプルと震えている。非道な二人の声も、今の彼女には聞こえていないようだ。

 三年近くも一緒に旅をしてきた好感度百パーセントの賢者。さすがにパティだけは、違う想いを抱えたようである。

 顔を上げると、お口にチャックをやめて、もの凄く悲しそうな目で訴えかけてきた。


「そんなことをしては、国王陛下のお命がっ!!」

「おい。マジでお前ら、いい加減にしろよ?」


 今この場で首吊ってやろうかと思った。割と本気で。もうこんな世界のことなんて知ったこっちゃねーよ。

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