リル⑨ ヒロイン養成学校
リルに先導されて、王城と城下町の境目にある『ヒロイン養成学校跡地』を訪れた。
跡地と言っても城の一部である建物が壊されるはずもなく、次の使い道が決まるまでそのままになっているそうだ。もう一度学校を作り直す案もあるとか。
まだ建物に入る手前、広場の中で、観光案内人のようにリルが解説する。
「これが養成学校の銅像。『サラマンダーに乗るカップル』です!」
色々と突っ込みたいところはあるけれど、今は無視しておこう。
「ネトラレの初期段階をこうして心に刻みます」
「トラウマになるぞ……」
「最初の思い出がいかに深く綺麗なものであるかが、重要である。これはお祖父様が特に強く強調していたポイントですわ」
なんだろう。俺たちの危惧することとこの学校、何にも関係ない気がしてきた。
「この像は、学校ができた頃からあったのか?」
「私が十五の頃だったから……。三年ぐらい前かしら? そもそも、最初の頃はネトラレという言葉を教わった覚えもないのよね」
「なるほど……ね」
三年前から急にネトラレを仕込み始めたってことか。当初の目的から方針を転換する必要に迫られた――ってところだな。
「最初の頃は、どういうヒロイン像を理想としていたんだ?」
「そりゃ、ハヤトくんの好みの子に決まってるわ。確か当時は『背が小さくて、無口で、男性恐怖症気味の妹みたいな子。少し中二病気味でも可』……だったわよね。――――どうしたの? 顔、赤いよ」
「…………もう、こんな学校滅んじゃえばいいと思う」
過去の黒歴史暴露みたいになってるじゃん。
そりゃね、俺、妹いないから! 妹キャラが好きな時代もありましたよ。コミュ障だから、俺よりコミュ障な子を望みましたよ。ええ。…………悪いか!? 思春期のごく一部にそんな時代があったってよかろう!?
「よしっ、私、無口になる!」
赤面する俺の横で、マノンが勝手な決意を固めた。
確かに無口以外はマノンそのものなんだけどね。今はもうその設定、そんなに響かないからな?
「でも……やっぱ変だよな」
「うん。ネトラレがハヤトくんの願望じゃなかったなら、急にお祖父様の好みが入ってきてることになっちゃう」
ちなみにパティはお口にチャック中。
権力の犬である彼女が国王のやろうとしていることに探りを入れるなんて、以ての外なのだろう。
一緒に付いてきているだけでも良しとしておいたほうが、いいだろう。
ただ……。
「パティ、めっちゃ目が輝いてるぞ」
秘密を知りたい願望が強すぎるのか、目が『知りたい知りたい知りたい』と言わんばかりに輝いている。目は口ほどにものを言うって、こういうことか。
「よし。中に入ってみようぜ」
「うんっ」
それから校舎の中に入ると――。
靴を脱ぐ、いわゆる下駄箱が用意されていた。
「これも日本文化の象徴だ――って」
「うん。不覚にもちょっと感動した」
この中世西洋風ファンタジー世界じゃ、靴を脱ぐ文化なんてあるはずもなく。寝るときぐらいしか靴を脱がないわけだ。
「おわっ、上履きじゃねえか、これ!?」
「日本から取り寄せたのじゃ! って」
「ここまでこだわるのかよ。凄えな……」
ただ、俺の通ってた高校、土足OKだったんだよねぇ。
「折角だから履いてみたら?」
「男用はないだろ。それに他人の上履きを履きたがる奴はいねえよ」
「女の子用なら、新品がいくらでもあるわよ? 誰かさんが『靴が汚れっぱなしの人は性格も緩い』とか、好き勝手なことを言ってくれたおかげで」
「俺もう、帰っていいかな」
これ以上は泣いちゃう。偉そうに何言ってんの俺……。
暗黒史に打ち拉がれている横で、マノンとパティが上履きに履き替える。
日本ならマノンは中学生。パティは大学生……か。
――――――いや、ちょっと待てよ。この学校には人妻も通っていたはずだ。つまり人妻がここで靴を脱ぎ、上履きを履いていた――ということか!
………………悪くない。むしろ、あり……だな。
「なんで靴を履き替えるだけで、鼻の下伸ばせるのよ。……はぁ、先行くわよー」
「変態の顔してます」
「…………」
三人の好感度がちょっぴり下がった。




