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国王のお仕事

 都合よく玉座の間に国王がいるということで、今回はあっさり通してもらえた。

 まあマノンに爺さんの居場所を調べさせてから来たわけで、先に知ってたんだけど。

 それにしても今回はやたらあっさり通されたもんだ。どうせあの爺さんのことだから、『ゲーム中は誰も立ち入らせたくないんじゃ!』とか、そんな感じで扉を閉じさせていたのだろう。

 今は『ちゃんと仕事してるワシを見るのじゃ!』の状態だと推測できる。邪推しすぎか?

 まあいいや。

 俺も、仕事をさせてもらおう。


「国王陛下、犯罪者を引っ捕らえて参りました」


 わざとらしく(かしず)いて言うと、首根っこを捕まれた状態のパティが「犯罪者!?」と声を大にする。


「賢者が盗撮魔でした。ここは厳正なる裁きを――」


 パティがわんわん泣きわめく。うるさいなぁ、もう。


「ほう。パティが盗撮とな――」

「はい」

「しかし彼女は賢者の中でも特に仕事熱心じゃ。証拠がなければ裁くことなど、できはせぬのう」

「健全な覗きはお風呂まで――と、自白しております」

「自白だけで全てを決めることはできぬじゃろう。『疑わしきは被告の利益に』。日本では、そう表現するようじゃの」


 推定無罪――か。

 一度刑事裁判になれば有罪率九十九パーセントを誇る日本でこれが守られているかと言われると、色々と口を濁したくなるけれど。

 推定無罪は近代法の大原則である。

 つまるところ罪というものは、確定するまで被告を無罪と推定するわけだ。そうなると無罪を立証する必要はなく、まずは有罪の証拠をそろえて立証しなければならない。

 今回の件で言えば、俺がパティを有罪と示す証拠がなければ、パティは無罪というわけだ。

 というか自白を絶対としないなんて、ある意味、日本より進んでるじゃねえか……。日本じゃ自白はイコール真実と言ってもいいぐらいの力を持つからな。冤罪(えんざい)とか恐ろしすぎる。


「さて。過去(・・)におけるパティの犯罪を立証することが、可能なのかの?」

「くっ……」


 しかしこの爺さん、恐らくわざと言ってやがる。

 賢者の犯罪なんて大不祥事が出回っちゃ、国にとって良いことなんてないもんな。

 ただ、それでも俺は被害者なわけだ。


「では、パティの行動を監視させてください」

「ならぬよ」

「ちっ」


 あ、思ったことがそのまま声に――。

 まー、いいや。

 面倒くさくなって、国王の前まで階段をのっしのし上った。隣にいる侍従ことレイフ・チェンバーズさんは色々とわかってきたのか、軽く苦笑いである。


「なあ爺さん、パティのことを働かせすぎだろ?」

「わかっておるよ。だからこそ日本の法を取り入れようとしているのじゃ」


 日本の法――ね。

 俺はついさっき、知らなくていいことを知ってしまった。

 マノンの魔法で国王の居場所を確定させてから向かおうと提案して、マノンも『国王は公人』と納得してくれたわけだ。この時間なら公務の真っ最中ではないか――というパティの話も後押しになって、居場所の確認にだけ魔法を使わせて貰うことにした。まあ、パティとしては『公務の真っ最中だから邪魔しちゃ行けませんよ』とするつもりだったようだけど。

 しかしそこに映し出されたのは、見たことのない暗い部屋で、複雑な魔方陣の真ん中に立って何かの呪文を詠唱している国王の姿だった。

 ――彼は言った。

 ヒロイン報酬に納得せず自らこの世界に留まることを希望している俺のことを、術で引き留める必要が無くなった――と。召喚術は一度行使すればお終いというものではなく、効果は有限。召喚された者が帰りたいと願ったなら、それを弾き返す強い召喚術を行使し続けなければ効果が消えてしまう――ということだろう。

 ならばこの召喚術は、一体、何をしている?

 俺ではない、何を召喚しようとしている?

 疑問に思ったところで、一つの憶測が脳裏を過った。


『国王の野望は、十字大陸の統一だけだったのか?』


 もしも、その先があるとすれば――。


「だけどなぁ。日本の法をこの国流に取り入れたところで、結局人を裁くのは賢者の特権みたいなもんだろ? この国の文化レベルで地方裁判所とか作ったらめちゃくちゃな裁判が横行しそうだし。――ぶっちゃけ、何百年続いた戦争を終わらせた名君(・・)のやることじゃないと思うけどな」


 わざとらしく疑問を強調すると、国王の眉根が寄った。


「何を言いたいのか、わからんのう」

「色々と『条件』が整ってきてる――。そういうことじゃねえのか?」


 一気に核心へ迫ると、国王は僅かに眉を動かして、次いでニッと口角を上げながら笑った。


「もうすぐじゃ。――なに、悪いようにはせぬ。結果を楽しみにしているがよい」

「否定はしないのかよ――。相変わらず、(たち)悪いな」

「綺麗事を語る善人に国王が務まるわけないじゃろう?」

「ははっ。そりゃ納得だ」


 語らせることも無理。止めたところで、これじゃ聞く耳を持ってはくれないだろう。

 ならば、他へ探りを入れて真相に近付くしかない。


「パティの処遇はどうすればいい?」

「牢に入れるわけにはいかぬ。しかし働き過ぎという指摘は(もっと)もじゃ。二、三日、休日を与えるとしよう。自由に(・・・)動くが良い」


 本当、食えない爺さんだ。

『パティをヒロインに指定することは可能なのか』と問いたいところだったけれど、無駄だな。賢者は国にとって貴重な戦力。この国が十字大陸統一の先を見ているとするなら、そこを削ぐ気はないだろう。

 そうなると問題となるのは、常識外の魔力を持つマノンと王族であるリルが、なぜヒロイン候補になんてなっているのか――。一般人を仕立て上げたほうが良かったように思えるが……。


「念のため確認するけど、リルとマノンは、俺がいつヒロインに指定したって構わないんだよな? 突然同意しないとか、そういうことは――」

「ないと約束しよう。もっとも、彼女たちをヒロインとするにはハヤトの覚悟が必要じゃが――の」


 一体いつから動いていたのやら……。

 俺は国王とレイフさんに一礼をしてから、部屋を出た。

 問題のリルにも、会いに行こう。

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