マノン⑦ 王族と魔力
マノンの超ド級と言える魔法にも、欠点はあった。
強力ではあるのだけれど、基礎的な知識に欠けているわけで。
例えばこの透視魔法では『知っている人か、知っている場所』どちらかの要件を満たしていなければ映し出せないそうだ。
今は、この部屋にそっくりな部屋が映っている。
「これは?」
「私の部屋です」
そういやマノンの部屋に入ったことはあまりないな。物が散らばっているわけでもなく、ただただ睡眠に適した部屋というだけの印象だ。
「リルの部屋も見られるのか?」
「それでもし着替え中だったら、どうするんですか。だいたい、プライバシーの侵害です」
「ああ、まあそうか」
「公共の場所を映してみましょう」
そうして映し出されたのは、城下町の、ある表通りだった。商店が並ぶ賑やかな場所である。
「これは……?」
「家の近所です。一度だけ、両親に連れて行ってもらったことがあります」
「近所なのに、一度だけなのか?」
と、普通に訊ねしまった瞬間。
この質問は引きこもりの事情に深く関わるのではないか――。
平たく言えば、思いっきり地雷踏んだんじゃないか――、と。
「――――両親、と呼ぶのも、心苦しいぐらいなんですよ」
ほら……。これ絶対地雷じゃん。
ネトラレ養成学校だけが原因かと思っていたけれど、マノンからは『引きこもる前の生活』が全く伝わってこなかった。
今の年齢から逆算して、学校の件が精々、二とか三年前ぐらいの出来事だとすると……。日本で言う小学生の頃までは、そこそこ普通に生活していたのではないか、と思えたわけだ。
どうしよう……。踏んだ地雷を忘れるか、それともあえて踏み抜くか。
――マノンは色々問題を抱えていても、可愛い妹のように感じられるところもあるわけで。
引きこもり続けていたのなら、相談相手すらもいなかっただろうし。何よりも、この子と俺にはどこか通ずるものがあるような気もする。
リルは王族で、育ちから何から全然違う。パティは学問に関しちゃ天下無敵の天才。
マノンはとんでもない魔力を持ってることを除けば、普通の――――――――引きこもりだ。
「王族を超える魔法の才――。危険な目にでも遭ったか?」
「なっ、なんでわかったです!?」
「これでも、この国の内情にはそこそこ精通してるつもりだからな」
魔法の才があるからこそ、王族が王族でいられる。王族の中でも魔法の優劣が存在し、最も強力で有用な魔法を持つ者が王となるそうだ。つまり今の国王は、召喚術に長けて王位に就いたと言うことになる。
ならばマノンは、魔法の才だけで比べるならば、この国の王になるべき器を有していると言えるだろう。
王の血族とは無縁なはずなのに。
――そんなもの、この絶対王権国家が許すはずがない。
幼い内に殺してしまう。
両親を人質に取る。
これぐらいのことは画策されたんだろうな、って。正直、考え至るのに一秒もいらなかった。
「うちは貿易商の家系なんです。ですからちょっと遠くの町とかには、私もよく連れて行かれていました。一度だけ――というのは、そもそもこの町にあまりいなかったからでもあるんですよ。まだ、物心ついて間もなかったですし」
しかし、こうして原因を紐解いていけば、マノンの引きこもり願望を解消できるのではないだろうか。
「でも、私が強力な魔法を使えることが知れ渡ってからすぐ、父に発行されていた貿易許可証が取り消しになったんです」
「酷い話だな……」
「そうして、取引が始まりました」
「許可証が欲しければ、マノンの才能を隠せ――って?」
「殺せと言われないだけ温情だと思いなさい、という話です」
はぁ……。本当に、一つも言葉が出てこないほど、酷い話だ。
マノンの脅し癖までも、ここに原因がありそうだな。自分や両親がまず脅されてたのかよ……。
「でも物心ついて間もない子供が、身に余る魔力をコントロールできるはず、ないじゃないですか? 絶対にどこかでボロが出ます。それならいっそ――」
「いっそ、引きこもった、か。両親も協力して」
「――――はい」
まさかそんな事情があったなんて。
これは国王の居場所を探し出して殴り込む案件である。自分たちの地位を脅かすからと言って普通に生きていくことを許さないなんて、これではマノンと両親が余りにも可哀想だ。
どの王族貴族が脅したかは知らないけれど、国王は最高責任者でもあるだろう。話ぐらいは聞いてもらわないとな。
「じゃあマノンは元々、引きこもりたくて引きこもったわけじゃない。――そういうことだな?」
「はい」
「そっか……」
「元々は、そうでした」
………………あれ、なんか限定された?
「一度引きこもってしまうともう――っ! 上げ膳に据え膳! 学校には通わなくて良いし父の貿易にも付いていかなくていいし、現実も見る必要なし! そりゃぁもう最高の一言ですよ。わかりますよね!? ハヤトさんなら!!」
「わかるけどわかっちゃだめなんだよ!!」
「ふぇっふぇっふぇぅ……。日本での引きこもり生活が楽しみですねぇ。いっそ二人で引きこもりましょうか? ずーっと一緒にいられますよぉ」
これ、原因解決しても引きこもり続けるわ。可哀想なの、両親だけだった。
諦観に達すると同時に、俺たちの声がうるさかったのか、パティがむくりと起き上がった。




