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お邪魔してます

 不思議そうにリルが「何してるの?」と問いかけてくる。


「あの爺さん、この五年で日本のゲームをやりこんだらしいからな。――おっ、あったあった。さすが定番」


 玉座の間に行けば、玉座の後ろを調べる。これは日本のRPGにおいて伝統というか、もはや仕来り(しきたり)のような行為である。

 敷かれた重厚なカーペットに妙な丸い切り込みを発見して、そこだけを引っぺがすと、マンホールみたいな蓋が現れた。


「通用路……かな?」

「ここが玉座の間ってことを考えたら、緊急用の脱出路なのかもしれないな」


 となると、RPGゲームから着想を得たと言うよりは、元々こういう造りだった……か?

 いや、魔法があるからな。魔法というもの一つで結構なんでもありになるから、恐ろしい。


「滑り台みたいになってるよ」

「行ってみよう」


 俺たちは順に丸穴へ身を投じた。

 もちろんこういう場合、男が先に行くものである。

 ――しかし。


「ちょっ、止まらないでよ!」

「いや、だってこれ真っ暗だぞ!」


 暗黒の中を滑空するように落ちていくのは想像していたよりも遙かにスリリングで、俺はつい両手両足を突っ張って、摩擦抵抗でスピードを落とした。

 両肩にリルの足が乗っかかる。

 ……確かスカートだったはずだけど。


「ぜぜぜっ、絶対に上見ちゃダメだからね!?」

「だから真っ暗だってば!!」


 こういう時にパティがいればなあ。あいつは基礎魔法を網羅しているから、暗闇に小さな光を灯すぐらいのことは造作もないわけだ。

 いや、見たいわけじゃなくてね。暗闇が怖いという話で。


「一歩間違えて敵を(おとしい)れるための罠だったら、洒落にならないからな。ゆっくり行くぞ」

「うっ、うんっ」


 それから少しずつ滑って、十秒ほど経っただろうか。

 足下がほんのりと明るくなってきた。


「見えてきたな」

「見ちゃダメだってば!」


 このテンプレヒロインは放っておこう。肩がゲシゲシ蹴られているけれど、放っておこう。見ていいなら見るけれど、見ちゃダメというなら見ない。これは、男として当然の行為である。

 あ、風さんの悪戯とかはノーカウントです。見えちゃったものは仕方がない。強風の日に何かを期待するのも仕方がない。それが男の性だ。

 ――光が強まってくると共に、(うっす)らと、ノスタルジックな音が聞こえてきた。

 本当に滑り台だったようで、最後はスッと着地できる構造になっている。やっぱり元は(、、)緊急用の避難路かな。


「ふむ。さすがはワシが召喚した英雄。この隠し通路を見つけることができた…………か」

「むしろ見つけてほしかったんじゃねーの?」


 ここがどこの部屋だか知らないけれど、国王が生活するに相応(ふさわ)しい気品ある広い部屋だ。

 その中に太い電気コードと液晶テレビ、スーファミが置かれている。


「このご時世にスーファミかよ……」

「消費電力に限界があってのう」

「世知辛いなぁ。そんなに変わるのか?」

「現行のPS(ピーエス)が250(ワット)。スーファミは8(ワット)じゃ」

「マジかよ。すんげえエコだったんだな、昔のゲーム機」

「まあブラウン管の消費電力はLED(エル・イー・ディー)液晶テレビの比ではなかったようじゃがの」


 俺と国王の会話を、リルは不思議そうにしながらも黙って聞いている。

 だが液晶テレビの中に見覚えのあるものを発見したようで、ようやく声を上げた。


「あー! これ、ぶよじゃない!?」

「なんじゃ、リルも知っておるのか?」


 この反応。さてはこの爺さん、自覚持ってないな。


「なあ爺さん。ぶよぶよをやり始めたのはいつからだ?」

「五年前じゃよ。ワシが最初に触れた、記念すべきゲームタイトルじゃ」

「結構やりこんでやがるな……」


 腕のほうは全く大したことなさそうだけど。


「今、城下町の外周と城内に『リアルぶよ』が降ってきて大変なことになってんだ。俺は爺さんの持つ――王族の魔力が原因だと思っているんだが。――――――――とりあえず、コントローラーを置け」


 爺さんは床に有線式コントローラーを置いた。最新ゲーム機に比べると随分薄いな。

 ぶよぶよは一時停止。これで一旦被害は収まるだろう。多分。


「はて……。しかしなぜ、今更そんな問題になるのかの。ワシがこれを始めたのは五年前じゃよ」

「そこなんだよな……」

「お祖父様のお力が、関係しているのではございませんか?」


 ……ん?


「爺さんの得意魔法って、召喚術だろ?」

「はい。ですから、ゲーム世界から無意識に召喚してしまったのではないかと」

「無意識って……。そりゃまた随分と、はた迷惑な話だな」


 ゲーム世界からの召喚、ねえ。


「しかし、それならばやはり、ワシが日本のゲームに手を付けた五年前からこの問題は起こっておるはずじゃ。辻褄(つじつま)が合わぬ」

「お祖父様、ハヤトくんを召喚するために、何年の月日を要しましたか?」

「五年じゃのう」


 ………………おい。


「ちょっと待て。それって、魔法発動に五年の時間がかかるってことか?」

「多分ね」

「生物に関しては、そうじゃの。物体であれば、対価さえあれば数日、年会費を払えば速くて二十四時間もかからんのじゃが」


 どこのアマゾンだそれは。

 ……しかしこれは想像以上に事が大きい。

 思わず頭を抱えてしまった。

 俺が十時大陸統一に費やした時間は、ほぼ五年ジャスト。俺の召還後にすぐヒロイン報酬が契約として交わされたわけで、物品をかき集めて数日後からゲームを開始したとすれば……。


「爺さん、さっきぶよぶよが最初に触れたゲームタイトルだ――って言ってたよな?」

「うむ」

「ってことは、五年が経過した今から、爺さんが遊んだゲーム世界の影響がバンバン出てくるんじゃねえのか? まさか片っ端から召喚術使ったりしてないだろうな?」

「………………」

「おいっ」

「…………じゃって、ぶよのキャラクターって可愛いし…………の?」

「だから『の?』じゃねえぇぇぇぇぇっ!! 思いっきりあんたの仕業じゃねえか!!」

「違う! じゃってワシの召喚術は人や物を対象にしておる! 架空の創造物を現世に降臨させることなど叶わぬ話じゃ!」


 むう……。そりゃまあ確かに。

 架空世界からキャラクターを呼べるなら、俺なんか召喚しないって話になるわけだ。

 この世界にも数々の空想物語があって、英雄(たん)も定番のジャンルだ。そこから英雄を召喚すればいいって話になる。さぞ品行方正で勇敢な英雄を呼び寄せられたことだろう。


「しかし……の。試したことは事実じゃが、ワシだけでどうにかなるとは思えぬ。何らかの作用が……。そう、例えば強大な魔力を持った者が、魔方陣に触れて魔力供給を行った――とか」

「強大な魔力、ねえ」


 ――――うん、と考えて、即行で思い当たる節が一つしかないことに気付いた。


「どう考えてもマノンじゃねえかッ!! 爺さん、まさか魔方陣って客室にないだろうな!?」

「王が代々引き継ぐ魔方陣がどこにあるか。それは王族のみが知る秘匿(ひとく)じゃ」


 ほう。ここまで来て王族のみが云々(うんぬん)言いやがるか、このジジイ。

 俺は腰に付けている護身用のナイフを取り出した。


「ちょっ、ハヤトくん!?」

「勘違いするな。ジジイを殺したら契約不履行で俺も死ぬんだ。これは――――」


 毎日しっかり研いで切れ味を保ったナイフを、スーファミの本体に突き立てた。


「ぶっ壊すぞ?」

「待て待て待て!! それに税金がいくら費やされたと思っておる!?」

「そもそも税金でゲーム買ってんじゃねえよ!!」

「むぅ……。…………仕方がないのう」


 ……俺、あんたの国が大変なことになってるから、頑張って原因を探してるんだけど?


「お祖父様!」


 よほど秘匿にしなければならない情報なのか、リルが声を大にして、国王の発言を止めようとした。


「いくらハヤトくん――英雄様が相手だからといって、国家の存亡に関わるお話は――っ」


 ん? 俺が聞き出そうとしてる話って、そんな重大事項なの……か?


「仕方がなかろう。スーファミを壊されるわけにもいかぬ」

「しかしっ!」


 いやいや、爺さんもそれならそれで黙ってろよ。なにスーファミと国家の存亡を天秤にかけて、しれっとスーファミ選んでんだよ。


「日本では子供がゲームに熱中する余り、親がゲーム機を破壊することもあると聞く」

「なんだその情報は。どこで聞いた」


 ふと、昔の記憶がよみがえる――――――。


 ……引きこもっていた頃の俺はPSPを片手に、母ちゃんへ『おねだり』をした。

『母ちゃん、今度出るゲームソフトが欲しいんだけど……』

『そうかい。……そんなにゲームが欲しいのかい』

『だからその、お小遣いを――』

 俺がそう口にした瞬間、母ちゃんはキレた。

『こんなものがあるから引きこもるんだよ!! そう、これが悪いの! 私の育て方は間違ってないの! このゲームが全て悪いの! こんなものぉぉぉぉぉ――ッ!!』

『なっ、何すんだクソババアァァァァァッ!!』

 そうして俺のPSPは、母ちゃんの膝でバキィッと割られた。


「…………ハヤトくん? ねえ、ハヤトくんってば」

「――はっ! お――俺は今何を――」

「すっごい(うつ)ろな顔してたよ。大丈夫?」


 思い出さなくていいことを思い出させやがって……。

 あのあと、母ちゃんはPSPを買い直してくれた。それなのに俺は、初期型のほうが画面が綺麗だとか言って、文句ばっかり。

 母ちゃん、あの時はごめん。

 必ず良い嫁さんを連れて帰るから、もう少しだけ待っていてください。


「とにかく、だ。スーファミの命が惜しければ、吐け」

「……そこの壁を見るがよい」


 国王は液晶テレビの後ろ側にある壁を指差した。

 額縁に入って飾られているのは、城を中心に広がる城下町の地図だ。

 町は本当に真円と呼べるぐらい綺麗な円形で、大通りの作りも何もかもが、絵に描いたかのようにスッキリ整備されている。


「…………って、おい。まさか――」

「そうじゃ。魔方陣はこの城と城下町、全て――。それがこの国の秘密じゃよ」

「いや、でも、だってそれじゃおかしいだろ!? マノンはずっとこの城下町に暮らしてたはずだ!」

「城が中央にあることも、無意味ではないのじゃ。真円の中心に近づけば近づくほど、魔方陣への影響力は強まる。丁度この真上にある玉座の間が、中心じゃ。客室もそう遠くはない」

「でも被害は、もっと前から起こっていて――っ」

「思うに……ハヤトにも原因があるのではないかのう?」

「俺……?」


 そんなことを言われたって、俺は(いく)つかのユニークスキルを与えられたぐらいで、魔法の才には優れていない。

 使える魔法と言えば、勉強とスキルで覚えた、生活に必要な基礎魔法ぐらいのものだ。

 そこら辺の一般人だって使える程度――。


「被害が起こり始めた時期とハヤトがこの城へ凱旋した日は、重なっておらぬか?」


 俺の凱旋が一週間ほど前で、ぶよが現れた時期も…………確か街の外周で一週間ほど前と聞いたような気がする。

 確かに、重なってはいる……な。


「ハヤトは早く日本へ帰りたがっていた。そこをワシが召喚術で必死に食い止めていたわけじゃが」

「……おい。そんじゃジジイさえいなけりゃ、俺は帰れてたのかよ」

「そうじゃ。魔方陣から離れれば離れるほど効力は弱まるからの。大変じゃったわい」


 くっそ……。でも爺さん殺しちゃったら俺も死んじゃうしな。あの契約はそういう意味もあったのかよ。変なところだけ頭回りやがって……。

 まあ第一、俺に人殺しなんてできるわけないんだけど。


「しかし大陸統一を果たした今は、ハヤト自身が『帰りたくない』と願っておる。『ヒロイン報酬を受け取るまでは帰れない』――と」

「まあ、否定はしない」

「そこでワシの召喚術は、不要になったのじゃよ。簡単に言えば、ハヤトの召喚に必要な力を他の召喚術へ回せるようになった――。そういうことじゃ」


 それで召喚されてるのが『ぶよ』かよ……。


「――OK。わかった。じゃあ今のこれは、止めることができるんだな?」

「どれだけマノンちゃんの魔力が流れ込んでいようと、術の使用者はあくまでワシじゃ。問題ない」


 ――――――そうして、国王は召喚術を解除。

 城からも城下町外周からもぶよは消え、俺たちには一時(いっとき)の平和が訪れた。

 ……本当に、一時(、、)の平和が。

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