お邪魔します
「パティ、左だ!」
「はいっ」
「右右下!」
「は、はぃいっ!」
俺たちは町の外周で目下ぶよぶよ中。……じゃなかった。ぶよ退治中。遊んでいるわけではない。
どうも落ちてきたぶよを手作業で移動させるのは効率が悪い。そこで『移動魔法』を使えばもっとそれっぽく操作できるのではないか――と考えたわけだ。
あくまでお仕事であって遊んでいるわけではない。ほんとだよ?
「左左、回転、下!」
「うぇぇぇっ!?」
さすがに賢者と言えど異世界のゲームシステムに順応するのは難しいらしく、俺の指示に目を回している。
「ちょ、ちょっと休憩しましょう!」
「えー。折角リズム良く降ってくるようになってきたのに」
「…………ハヤトさん、念のため訊いておきますけど、遊んでるわけじゃないですよね?」
「そんなわけないだろ!」
俺はキリリと表情を付くって、強く否定する。
「し、失礼しました……。そうですよね。ハヤトさんはいつも全力の人ですからっ」
チョロいのは嬉しいんだけど、そこまで全幅の信頼を寄せるのは勘弁してほしい気もする。罪悪感が半端ない。ぶよぶよ楽しい。
「んー。あっ、じゃあリルはどうだ? 王族で魔法が使えるだろ?」
「移動魔法はちょっと……」
「そっか。王族って言っても特定魔法が強く使えるってだけだったな」
「――うん」
なんか、しおらしいな。一般人――それも男に混ざって一生懸命ぶよを積んでいる姿は好感が持てるけれども。
ま、それじゃあどうしようもないわけで、俺も下に落ちてきたぶよを手で詰む作業に戻りますか。
『ぶよんっ』
「うわっ、なんだこいつ――!」
急に透明のぶよが落ちてきた。
…………やばい。これは嫌な予感がする。
怖々と空を見上げると、透明なぶよが横並びに表示され、更に赤いぶよが一つ――。
俺は力の限り叫んだ。
「やばいやばいやばいやばい!! 速く消さないと大量の『お邪魔ぶよ』が落ちてくるぞ!! みんな詰めぇぇーーーーぇ!! 急いで消すんだぁぁぁぁぁっ!!」
これ対戦だったの!? 一人プレイモードじゃなかったのか!?
俺の叫びに呼応して、男衆が大慌てで一つ一つ丁寧に消していく。
「違う! せめて二連鎖させないとあれ消えないから!!」
「ハヤトさん!」
「よしっ、行くぞパティ! 右右回転下、左回転下、右回転回転下、左左回転回転下、右回転あやっぱ左左回転下!」
「うわわわわわわっ」
「できないなら出てくるなぁぁぁぁぁぁっ!!」
「指示を途中で変えるからですよ!!」
こいつ、凱旋以来ほとんど役に立ってないな……。
言い合っていると空に陰がかかり、スーッと風を切る音を鳴らしながら大量のお邪魔ぶよが降ってきた。地震のような震動が大地に伝わり、市街地から『カタカタ……』と煉瓦か何かが震える音がした。
「大丈夫か!? 誰も潰されてないか!?」
慌てて落ちてきたところへ駆け寄ると、俺が最初に声をかけた男性が腰から下をお邪魔ぶよに埋められていた。――くそっ、これじゃ大惨事だ!
「ちくしょうっ。重くないのに体が動かねえ……っ」
…………そういや、こいつら激軽だったな。
でもお邪魔ぶよは動かせないから、固定されてしまった――ってことか。そりゃ恐怖だわ。畑を荒らすのかはわからないけど、最大級に警戒するのも頷ける。
「お邪魔ぶよを消すぞ! こいつの隣で色つきのぶよを消していくんだ!!」
「「「ラジャ!!」」」
頼もしい男衆の活躍もあって、そこら中のぶよと降ってくるぶよをパズルのように組み合わせながらどうにかお邪魔ぶよを消していった。いよいよ本格的にゲーム感が出てきたな……。
『ぶよんっ』
――――そういや、さっきから城のほうで変な音がしている。
俺は遠く離れた城を…………いや、城の少し上、空との境界線の辺りを見遣る。
半透明のぶよが空に溜まり、ドドドドっと降っていった。
「敵はあそこだぁぁぁぁっ!!」
「敵!? このぶよ以外にまだ敵がいるんですか!?」
パティの移動魔法はこの場で役立つ。だが城に行って、もし王族や貴族が相手だったとしたら、基本的に権力の犬であるこいつじゃ何の役にも立たない!
「リル、一緒に行くぞ!」
「えっ、ええ!?」
俺はリルの腕を掴んで半ば強引に連れ去ろうとする。
「ちょ、強引なのは好きだけどだめ! だめだからぁぁぁ!!」
なんでそこまで抵抗するのやら。さっきまで乗り気だったくせに。……っていうか、強引なの好きなんだ。
「ええいっ、暴れるな!」
「色々事情があるの! それとも暴力夫にでもなるつもり!?」
「ネトラレ妻に何も言う権利はねえよ!!」
「ひどっ。ネトラレ妻の何が悪いのよ! 人妻が好きなくせに矛盾してるわ!!」
まずい。今ここでこいつと不毛な言い争いをしていても埒があかない。
お邪魔ぶよってのは消せば消した以上に相手に飛んでいくから、無限大に総量を増やしていくんだ。
――――最悪、世界をぶよが支配してしまう。
「じゃあお前、この世界が滅んでもいいのか?」
「ほろ――? まさかぁ。こんな可愛いぶよで世界が滅ぶなんて、ハヤトくんって冗談のセンス無いなぁ」
急に普通の女の子っぽく、「やだぁ」なんて言い始めやがった。
「…………オーケーわかった。空を見ろ」
「空……?」
リルは緊張感の欠片もない表情で空を見上げる。どうも俺の切迫した表情を本気で冗談と勘違いしていたらしい。失礼な奴だ。
「げっ。何あれキモい! ○の集合体ってなんでこんな気持ち悪いの!?」
「それはあれだ。集合体恐怖とか草間さん作品恐怖とか……じゃない! とにかくあれが無限に増えていくんだぞ!? ゲームオーバーの概念がわからないとどうしようもないんだ!!」
「えっと……、でもあたし、王族の中じゃ一番下で……」
「それは後で聞くから、今は急ぐぞ」
「う…………うん。そうだね。わかった!」
やたら渋ったが、パティと同じく自分より上の位の人間が関係していたらどうにもできない、と言いたいのだろう。
しかしそんなことは今、本当にどうでもいい。
異世界帰りする前に異世界が破滅なんてことになったら笑い話にもできない。俺は日本に帰って、この異世界での話を笑って思い出したいんだ。




