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新たな問題

 町の外周へ近づくに従って、徐々に武器や農具を手にした男性が増えていく。外周へ辿り着くと、一定の間隔をあけながら、さながら町の警護をするように何人もの男が立っていた。

 国の兵は何してんだよ……と思っていると、一番近くにいた人が声をかけてくる。


「ここは危ないぞ。手伝うならまず女を置いてこい。代わりに武器を持ってくるんだ。農具でも構わん」


 女、という一言で片付けられたのが気にくわなかったのか、リルは居住まいを正して胸に隠していた金色のブローチを取り出した。


「ジニ家のリルと申します」

「王族……っ!?」


 ジニ家――。名は耳にしたことがある。確か、公爵(こうしゃく)だった家長が不慮の死を遂げて、爵位を空位にしたままの家だ。

 公爵は王の次に位が高い。――つまるところ、リルは王族の中でも特段の名家に生まれている。

 脅えるように身を引いて傅いた男性が、さっきよりも大分丁寧に言葉を紡ぎはじめた。


「なぜ王族のリル様が、このような場所に――」

「事情を聞き、現状を正確に把握する必要があると判断しました。邪魔は致しません」

「いえっ、邪魔だなどとそのような!」

「この目で見た真実を、国王陛下へお伝えします」

「しかし危険です!」

「……お願いします。協力してください」


 おお……。王族が一市民に頭を下げた。これはこの国では許されない事態だ。


「私からもお願いします」


 次いでパティが白銀のブローチを胸元から取り出す。


「賢者様!?」

「私や彼がいれば、戦力としてこれ以上はないはずです」


 賢者は魔法の扱いに長けている。もちろん攻撃魔法だって存在する。もっとも、王族の規格外なそれと違って賢者の扱う魔法は剣や槍、弓と同程度の評価しか与えられないが。

 武器を持たずして武器と同じ威力の攻撃を放てる時点で、十分に異能だ。


「えっと……その、じゃあこの御方は一体……?」


 傅いたまま俺の顔をチラリと見上げて、疑問符を貼りつけたような表情をする。

 そりゃ王族と賢者を引き連れてきた男なんて、正体不明もいいところだろう。普通に考えればより位の高い人間でしかありえないわけで、俺が目を会わせると男性は見るからに恐れおののいた。

 ――とは言っても、英雄の証とかは無いんだよなあ。いや、そりゃあ十字大陸統一に当たっては特別に金のブローチを与えられたよ? でもそれ、パレードが終わると同時に返しちゃったし。二人みたいに格好よく振りかざせる印籠のようなものが、今の俺には、ない。


「彼は十字大陸統一を果たしうぶぅっ!」


 正体を明かしかけたパティの口を、強引に塞ぐ。


「名乗るほどの者じゃありませんよ。王家に仕える使用人でございます」

「使用人……?」

「ぷはぁっ!」


 パティの口を解放すると、耳元で囁いてきた。


「いいんですか? 英雄だって伝えなくて」

「必要ないだろ。むしろ英雄だなんて知られたら、戦いに参加しづらくなる」

「まあ、それはそうなのかもしれませんが……」

「いいから見とけって」


 この人の好感度はかなり高い。八十パーセントと言うところか。全面的な信頼は置けないけれど、助けにやってきた人間に期待をかけている状態――ってところだな。悪くない。

 さて、じゃあ正体不明の何かとやらが出てくるのを待ちましょうか。

 ――そう思った瞬間。


「うわぁぁぁぁっ。出た! 出たぞぉぉぉッ!!」


 少し遠くから悲鳴に近い男の声が鳴り響いて、俺達は現場へ急いだ。

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