朝食
豪華な朝食を頂くのは嫌いじゃないけれど、好きでもない。
この落ち着いた落ち着かない雰囲気――。
朝なんだから、景気づけにもっと和気藹々としていたってよかろうに。
ちなみにマノンは爆睡中で、同席しているのは国王、リル、パティ、俺。さっきと替わらないメンバー。
マノンの食事は全て部屋まで持っていくそうだ。もうルームサービスには別料金を付ければいいと思う。
それにしても落ち着かない俺とは対照的なもので、賢者たるパティは落ち着き払っている。王族のリルに至ってはさも当然のように振舞って、さすがは王族令嬢――と納得させられた。
食べ物を口に運ぶなんていう生物の原点みたいな所作ですら、気品が溢れる。
その魔法のような魅力は、日本で庶民として育った俺には当然身に付いていないものだ。
「なあパティ、お前よくこの落差についていけるな」
しかしパティとは一緒に旅をした仲で、この間まで火で炙った獣の干し肉に固いパンという、ワイルドな朝食を済ませていたわけだ。
師団を率いていたから調理担当者は当然いたけれど、旅の道中で腐りやすい生肉や水分の多いわやらかいパンなんて、出るわけがない。熱を通せるスープ類だけは、まあ、飲めたけれど。その程度だ。
それが城に帰ると途端にこの生活。
堂々と優雅にしていられるのを見ると妙な気分になる。
「どうした、ハヤト。何か不満でもあるのかの?」
「いやぁ……。朝食ってのはもうちょっと和気藹々というか、慌ただしかったり、一日の始まりに相応しい感じでも良いんじゃねえかな……と。そう思ってるだけだ」
「ほう。確かにこれでは、パンを咥えて曲がり角でドンッ――という王道展開には持ち込めぬな」
この爺さんが日本から取り寄せた品々を今度隅々までチェックしてやろう。王道と言っても意外と無いからな? そういう作品。
「そんなこと期待しちゃいないけど、如何にもプロの料理人が全力で作りましたって感じじゃ、朝から気が張って疲れるんだ。手作り感ゼロっていうかさ」
「其方は、そういった朝食の席が希望だと申したいのか?」
「ああ。こういうのはあんまり馴染まない」
……と、ここまで言って気付いたけれど、俺はこうしてリルを始め養成学校の女性全員へ迷惑をかけてしまったわけだ。
日本の食生活が恋しすぎるのかもしれない。
味噌汁とかおにぎりを食べたら多分、うぇんうぇん泣くと思う。
「なるほどのう……。言われてみるとハヤトが城へ帰ってくるのは旅の途中の報告のみ。いて三日、というところじゃったか。馴染まないのも仕方がない。しかし今回は、長期に亘る可能性もある」
「そういうこと。如何にも中世らしい獣肉と固いパンで生き抜く自信はあるけれど、この貴族生活を長続きさせる自信はない。――つうか、日本に帰ることを考えたら落差が激しすぎる。うちは普通の家庭なんだ」
俺は行儀が悪いほうじゃ無いと自負しているが、あえてテーブルに肘をついて気怠く振舞った。このほうが不満が伝わるってもんだ。
そして食事中にこうして国王が会話する、それも相手がため口で――というのは原則的に御法度なのだろう。周りで待機している侍従や料理人、執事が明らかに不満そうな顔をしている。
王に直接触れるような立場の人間は、位が高い。
そんな彼らから見れば英雄なんて、ポッと出の成り上がりみたいなもんだ。異世界人となれば尚更である。それが王とこんな調子で会話をしていたら、そりゃあ良く思わないだろう。
侍従以外の好感度もすぐに底を付いた。
俺の態度に問題があるのは重々承知というか、今この場に関しては無礼な振る舞いをわざと演じているわけだけど。
こうして一気に底を付くってことは本当に王を敬っているのか、それとも自分より上に立たれて気分が悪いのか、どっちだろうねぇ。




