表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/130

バスタブで飼われた人魚 ③

 パティが得意とする光操作魔法の効果で、遠くの人から俺たちの姿は揺らいで見えないそうだ。

 だからリディアの姿は公衆の面前に(さら)されていない。

 とはいえパティが魔法を解除するか、誰かが偶然近寄れば、彼女の姿は……。

 ごくり。

 いやまあ、裸にしたとかそういう話じゃないんだけれど! でも『緊縛師』が縛り上げた姿は、むしろ衣服を着ていることでエロチックな印象を増してすらいるように感じられた。


「さて、ハヤト。彼女の好感度はどれぐらいある?」

「んー。五十から六十ってところですね。前に会ったときより二十パーセントは低いです」

「なるほど。――――よしっ、じゃあお前がやれ」

「はあ!?」


 いきなり何を言い出すんだこの人は。

 俺には緊縛プレイというか、SMの趣味なんて(ひと)(かけ)()もないというのに。


「時間がないんだ。見ず知らずの人間よりも見知った人間がやったほうが、早く落ちる」

「落ちるとか言わないでください」

「異性としてじゃないぞ。あくまで口を割らせること――、そして『死なせない』ことが目的だ」


 縛られて身動きの取れないリディアは、適切に緩い猿ぐつわで舌を噛むこともできず、しかし言葉は発することができるから近くにいるパティへ「殺せ! 早く殺してくれ!」と懇願している。

 殺し合いの場で死にたがっている人間を生かすというのは、かなり難しそうだが……。

 もう一度ラムルさんに視線を移動させると、彼は男性としてかなり長めの前髪を片手で上げ、そのまま後ろへ固めてオールバック風にする。

 そのまま後頭部をボリボリと()いた。


「ハヤト、SMとはなんだ?」


 何を堂々と。

 この人には自分が変態だという自覚がないのだろうか。

 見た目は彫りが深くて男臭くもセクシーであり、声は低くて渋く、ダンディ。絶対モテるのに、その男らしい顔と声でSMとは何かなんて問われても困ってしまう。

 ジト目で見る俺に対して、ラムルさんは深い()(いき)を吐いて二の句を継いだ。


「答えられないか。――ならば教えてやろう。人類は鉄よりも先に、縄を作り出したんだ」


 無駄にスケールがでかいな!!


「それは何故(なぜ)か。――もちろん獲物を捕らえるためや、住居を作るためだったのだろう。……だが、本当にそれだけだろうか?」


 見事にこじらせているな、この人。


「緊縛の歴史は人類の文明進化と共にあった。本当にそれが『いらないこと』だったのなら、とっくに捨て去られているはずだ。だが現実には残っている。それは常に誰かが必要としていたからなんだよ」

「まあ、それは確かに」


 いかん。少し納得してしまった。


「これは一種のセラピーなんだ」


 理解の限界です。ごめんなさい。


「いいか? 縛っているからと言って、『相手を支配しているなどと思うな』よ。これは攻めているのではなく、相手の心を解き放たせる優しい手段なんだ。身動きが取れないことで全てを明かして、ストレスをゼロにするんだ」


 そういえば、この人に縛られて尋問された相手は、全てを吐き出すと、男女を問わず憑き物が落ちたかのような顔をしていた気がする。

 てっきり『その道』に引きずり込んだのだと思っていたけれど、あれはストレスからの解放だった……のか?


「わかるか? 殺すのは簡単だ。首を縛ればいい。だが洗練された緊縛は殺さずに本音を引き出す、平和的な手段なんだ」

「平和的な、手段…………。なるほど」


 そう言われてみると、俺やヤマさんのお人好し思想にも通ずるものがあるように思える。

 SMはサドとマゾの攻防だと思っていたが、それは俺の勘違いだったのか……。


「非日常が雑念を捨てさせ、どうにもできない無力感が逆に、自分は生きているという実感を与える。そうしてお互いに心を開き、一対一で対話をするんだ」

「一対一で……?」

「ああ。お互いに、無力な人間として、素の自分を(さら)け出すことができる。その手段が緊縛なんだよ」

「お互いに……心を開き……」


 すごい。

 緊縛ってすごい。


「俺とパティは後ろを向いている。二人だけの世界を作るんだ。――だが、緊縛は死と隣り合わせ。下手に動けば首が絞まることもある。何かあったらすぐに呼ぶんだぞ。これは殺す手段ではないのだからな」

「殺さない……平和的……」

「そうだ! もう一度!」

「殺さない……平和的……」

「イエスッ!! もう一回!」

「平和的な、セラピー……」

「もう十分だ、さあ行ってこい!!」


 セラピー……、これはセラピー……。


「おいっ。ぼ、ボクをどうする気だ!?」

「安心しろ、リディア。俺は敵じゃない」

「め、目が怖い! 焦点が合ってない!!」

「大丈夫だ。安心しろ。大丈夫だ」

「その言葉を繰り返す人に大丈夫な人はいないんだぞ!」

「これも全ては殺さないため。悪く思うなよ」

「いやっ、いやだ! ちょっと待ってぇぇぇぇッ!!」


 リディアの女の子らしく甲高い声が、(はる)か遠くの山岳部に木霊して、切なく鳴り響く。


「そうだ。お前にも『正しい』緊縛を教えてやろう」

「たっ、正し――っ、ぅぅ、ん……っ。……ぼ、ボクは、そんな言葉なんかに――!」

「お前は俺を殺そうとした。――でも俺は、お前を殺さない。全てを許すんだ。人の行いとして、どちらが正しい?」

「くぅ――っ、ん!!」


 このあと、彼女をめちゃくちゃ正した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ