伝えられる想定外
期待に反して、マノンが入手した情報の中に真実を直接突き止めるようなものは存在しなかった。
だが『肌の白い大柄の人間とアランさんが懇意にしている姿を見た』や『教皇はほとんど東半島に滞在していなかった』、『殺害犯が犯行を否定している』だとか、やはり教皇の周辺にきな臭さが漂う。
ひょっとして大柄な人間というのは、ミューレン家のゴルツさんか……?
「こりゃもう、関係者を直接探し出して吐かせるしかないか」
東側を足止めしても中央からは中央の信者が押し寄せてくる。
どのみち、あと二日程度で衝突するだろう。
探すなんて口では簡単に言えるが、あの中世王権国家で王族の上澄みに座る人間とその一味が本気で隠れているのなら、探し出す方法はほとんどないようにも思える。
現実的な選択肢かどうか解らずに疑問形として呟いた俺に、リルが応じた。
「リディアは知っているのかしら」
「知らないだろうな。あいつは演技が下手だ」
「じゃあ教えてあげないと!」
「予定では今頃、必死になって信者の進行を止めてくれているはずなんだ。余計なことを伝えると混乱を招く」
だが教皇が死んだことを理由に信者が決起したわけだから、教皇は姿を現せないはずだ。死んだ人間が威厳を発揮したり人々を導くのは不可能――。
ならば今のうちに俺たちも、パティとリディアに加勢するべきか。
「……ハヤトさん、虫のようなものが」
「ん?」
「そこです」
マノンが指差した先に、ふわふわと光の粒子のようなものが舞っていた。極小の蛍火とも呼べる。
「パティの盗撮魔法だろうな。あれはカメラ代わりに光の粒子を飛ばしているから、日の光が出ている間は全然目立たないはずなんだが……。光の屈折で誤魔化しているらしいし、こんなに目立ったことは今まで一度もない」
これぐらい不自然にしてくれていたら、盗撮にもっと早く気付けたはずである。
しかし日が出ているとは言え、すでに傾きはじめている。
テントの中はそろそろガス灯に着火させる時間と言える薄暗さだ。それで意図せず目立ってしまったのだろうか。
「私も屈折で誤魔化しているのです。基本は模倣ですから」
「じゃあ今の状態は?」
「制御不能になっているか、もしくは気付いてもらいたいのか。どちらかでしょうね」
「どっとにせよ良くない状況だな……。マノン、パティの周囲を見ることはできるか」
頼むとマノンは「余裕なのです」と、造作もなく瞬時に映像を空中投影した。
「空中投影って、お前……」
いつの間に進化させたんだよ、と思った瞬間、映像内の状況に目を疑う。
「おい! どうなってんだこれ!?」
「わかりません――っ。でも知らせたかった情報はきっと、これですよ!」
あの犬賢者であるパティが第一師団を率いて、リディアの率いる信者たちと交戦していた。
確かに彼女は参謀で、指揮官として有能だ。そして第一師団は選りすぐりの兵が集められた精鋭部隊である。
しかし同じ中央の人間同士で刃を向け合うなんて、想定していなかったはず――。
「サラ、行くぞ!」
「はい」
一言でサラを連れ出そうとすると、リルとマノンが制止してきた。
「ちょっと! 一人で行く気なの!?」
「そうですよ! 私たちだって――っ」
「リルは戦えるタイプじゃないだろ。薬がどれだけ体に残っているかも解らない。――マノンだって、巨大魔法は使えるが……。敵味方が入り乱れている中で、それを使わせるわけにはいかないんだ。どう見たってもう、説得できる状況ではない」
しかし不安さを隠さない二人の姿を見ると、せめて一言は残して行くべきだと思った。
「五年間、必死で生き抜いたんだ。あと一回ぐらい、なんとかなる」
――――さて、久しぶりに戦友と会いに行こうか。




