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鉄と真鍮でできた指環 《1》 ~学院の賢者~  作者: とり
 【本編】第1幕 魔法の世界
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9.七転び八起きして、また転ぶ






 ・前回ぜんかいのあらすじです。

 『主人公が、実験台じっけんだいになる』


 ・今回の大枠おおわくです。

 『魔法の実験の、結果のはなしです』











 魔法陣(まほうじん)のなかで、触媒(しょくばい)浮上ふじょうする。


 黒い物体(ぶったい)は、完全な白に変色(へんしょく)していた。


 実験(じっけん)に使用した媒介物(ばいかいぶつ)は、はじめ、(ゆび)の先に置けるほど、小さな球体(きゅうたい)だった。


 それが今は、純白(じゅんぱく)光沢(こうたく)をまとって、河原(かわら)(いし)ほどの大きさに認識(にんしき)できる。


 ただ、目のまえの物体は、不純物(ふじゅんぶつ)排斥(はいせき)するようにまっ白で、無骨(ぶこつ)()むように(かど)(うしな)った、真円(しんえん)だった。


 白い石が、(みずか)ら光を放ち、火花(ひばな)()らす。


「おい、永城(ながしろ)――」


 和泉(いずみ)は手をあげた。

 実験中止(じっけんちゅうし)の合図だ。


 触媒(しょくばい)は、魔法(まほう)と反応するだけなら、ただ強く(かがや)くのみである。


 目のまえの石は、電流(でんりゅう)()を飛ばしている。


 青白(あおじろ)いスパークは収まらず、時間(じかん)の経過にともない、激しさと数量を()す。


 空気(くうき)()ぜる音が、夜気(やき)を突く。


 和泉(いずみ)の周りから、ふっと景色が()せた。


 魔法陣(まほうじん)の外側にいた弟子(でし)も、広がっていた(よる)高原(こうげん)も、今は見えない。


 ただ暗闇(くらやみ)だけがあった。


 義眼(ぎがん)の不調を疑ったが、彼はすぐに、その可能性(かのうせい)を否定した。

 自分の手足は、視認(しにん)できる。


 全身を、浮上(ふじょう)する感覚がつつむ。


 それを最後(さいご)に、和泉(いずみ)えた。



 ・・・・・・



 魔法陣(まほうじん)のなかで()が消えたのを、永城(ながしろ)は『失敗(しっぱい)』だと直感した。


 存在(そんざい)次元(じげん)をずらすという実験(じっけん)性質上(せいしつじょう)被験者(ひけんしゃ)である和泉(いずみ)が見えなくなるのは、成果として、正しいものであるはずだった。


 だが、永城が事前におこなった模型(もけい)での実験では、対象物(たいしょうぶつ)は、魔法(まほう)が発動したのち、パッと(いさぎよ)不可視化(ふかしか)した。

 

 和泉(いずみ)の消えかたは、まるで、足元(あしもと)からバラバラになっていくかのようだった。


 永城は、触媒(しょくばい)を見た。


 魔法(まほう)の図形の中央で、白い石は、発光(はっこう)をつづけている。


 鮮烈(せんれつ)(かがや)きのなかで、その色を白から黄色(きいろ)(あか)へと変えていく。


 永城は、魔法陣(サークル)から後ずさった。


 彼は和泉(いずみ)危険信号(きけんしんごう)を発した時に、術を中断(ちゅうだん)していた。

 だが依然(いぜん)として、ちからは働きつづけている。


「や、やばいな……」


 永城(ながしろ)の目に、焦燥(しょうそう)が浮かんでいた。


 新魔法(しんまほう)の実験で、触媒(しょくばい)が暴走めいた反応を示すという状況(じょうきょう)に、彼は(いま)だ、出くわしたことがなかった。


 失敗はいつだって、魔法(まほう)(がわ)に起こっていた。


 形而上(けいじじょう)の存在への魔力(まりょく)と、命令の補完(ほかん)を役目とする触媒は、精霊(せいれい)や、悪魔(あくま)のちからを過ぎたかたちで具現化(ぐげんか)させることはあっても、(みずか)らに大きな変化を来たすことはない。


 魔法が意図(いと)せぬ結果に終わったとしても、反応後の媒介物(ばいかいぶつ)は、もとのすがたにもどるのが(つね)だった。


 灼熱(しゃくねつ)の色に発光(はっこう)した石が、(はじ)け飛ぶ。


 夜空(よぞら)を、赤い光がつらぬいた。


 爆風(ばくふう)が、地面をさらう。

 轟音(ごうおん)が、夜気(やき)に反響する。


 砂礫(されき)が、(あらし)となって吹き荒れる。


「……うわぁ」


 法衣(ほうえ)(そで)から、永城(ながしろ)は顔をあげた。


 土煙(つちけむり)の向こうに、大きな()()ができている。


 空間(くうかん)にぽかりとあいた、縦長(たてなが)(うろ)


 大人(おとな)一人分(ひとりぶん)通れそうな、(はば)のある亀裂(きれつ)の内側は、(あか)(くろ)の、(まだら)な空気に満ちていた。


 永城の脳裏のうりに【迷宮(めいきゅう)】という言葉がぎる。


 彼自身は()()ったことがなかったが、友人(ゆうじん)から、どんな場所(ばしょ)かを聞いたことはあった。


 亀裂(きれつ)の向こうの(よど)んだ(そら)は、その魔術師(まじゅつし)から教えてもらった様子に、よく似ている。


和泉(いずみ)先生(せんせい)のこともあるし、とりあえず、学長(がくちょう)……)


 永城(ながしろ)は、屋敷(やしき)に足を()み出した。


 (あゆ)みは、一歩目(いっぽめ)で止まる。


(学長……は、おっかないから、アカンとして。ほかの人んとこに行こか)


 くるり。と(まわ)(みぎ)をして、永城は飛翔(ひしょう)呪文(じゅもん)(とな)えた。


 彼は、教授(きょうじゅ)準教授(じゅんきょうじゅ)らの住まう建物(たてもの)を目指す。


 (かぜ)の音が鳴った。























※いくつかの表現を、修正しゅうせいしました。


次回は、主人公しゅじんこうは出てきません。ほかのキャラクター・サイドのはなしになります。




 んでいただき、ありがとうございました。


















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