表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄と真鍮でできた指環 《1》 ~学院の賢者~  作者: とり
 【本編】第9幕 六十六層の悪魔
88/205

74.十字架






 ・前回のあらすじです。:『主人公の和泉いずみが、賢くなる』


 ・今回の大枠です。:(※構成上の都合により、展開がすこし飛びます。)『和泉が魔女まじょの家に、帰ってきます』









 【学院(がくいん)】は、夕方(ゆうがた)を迎えていた。迷宮(めいきゅう)の入り口を保管する地下室(ちかしつ)に、オレンジの斜陽(しゃよう)は届かない。


 異界(いかい)へと運ぶ(あか)い球体、【ポーター】を保存する魔法陣(まほうじん)を、(あおい)はながめていた。


 魔法円(サークル)のなかに(ひかり)()こり、人影が立つ。(くろ)法衣(ほうえ)を着た、(しろ)い髪の、若い魔術師(まじゅつし)だった。


(あかね)はいた? 和泉(いずみ)先生」


 葵は魔術師に近づいた。和泉は、自分(じぶん)の頭を()く。


「はい。いちおう……つれて(かえ)って、きました」


 地下(ちか)六十六層で会ったのは、茜の(たましい)である。和泉は彼女と会話(かいわ)をしたあと、葵からもらった【魔鉱石(まこうせき)】のひとつに移して、ポケットに入れていた。


「あとは、身体のほうにもどすだけです」


 和泉(いずみ)は、(くら)部屋(へや)をぐるっと見た。階上へつづく扉が、古風(こふう)なランプに照らされている。


(はく)先生は?」


 (あおい)と共に離脱(りだつ)した老魔術師(ろうまじゅつし)は、いなかった。


「帰ったわ。無駄な努力(どりょく)は嫌いだから、(かれ)


 和泉は、箔の追走(ついそう)や、()ちぶせを危惧(きぐ)していた。


 葵は()のひらを和泉に向ける。それは、(いもうと)の魂をよこせという合図(あいず)だった。


「あの、(さくら)のところに、行くんですよね」


 和泉は魔女(まじょ)から一歩(いっぽ)遠ざかった。(あかね)の肉体には、五年ものあいだ、ずっと、櫻 比奈子(ひなこ)という少女がのりうつっていた。彼女を(はい)し、茜の身体に本人(ほんにん)(こころ)を返して、はじめて和泉(いずみ)念願(ねんがん)は達成される。


 それは、(あおい)も同じである。


「オレが、行きますんで」


 葵は(まゆ)をひそめた。冷たい()が、和泉を()すくめる。


学長(がくちょう)は、……だって、後悔(こうかい)をしてるんでしょう? その、(さくら)のことを……」


「後悔?」


 葵はつぶやいた。部屋(へや)は、温度(おんど)をなくしていった。屋敷の外で、()がゆっくりと、(ぼっ)していく。


「……たまに、思い返すことなら、あるわね」


 魔女の(ほお)が、なつかしいものをあおぐように、(そむ)いた。


「どうして私は、『見捨(みす)てて』なんて、ひどいことを言えたんだろうって」


 魔女は、手を下ろさなかった。比奈子(ひなこ)への終止符(しゅうしふ)を求めて、和泉(いずみ)に突きつけたままだった。そうやって、地獄(じごく)への切符(きっぷ)を集めているみたいだった。


 和泉は、(あおい)の手を払った。


「行ってきます」


 彼女のわきをすりぬけて、(はし)り出す。比奈子のもとへ向かう。







 ・読んでいただき、ありがとうございました。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ