66.時よ、止まれ
・前回のあらすじです。:『前学長の男、箔を追って、和泉と葵が探索をします』
・今回の大枠です。:『前回と同じフロアです。和泉と葵が、箔を見つけます』
硬質な通路のさきに、箔はいた。水のなかに金属の壁が立って、ぽっかりあいた入り口に、下層への階段がつづいている。和泉と葵は、暗い回廊の終わりで止まった。
箔が振り向く。厳めしい顔つきの、大柄な男。
灰色の髪をオールバックにして、フォーマルなジャケットに身をつつんでいる。上からは、今は魔法研究者用の、黒い法衣をまとっていた。五十代の、初老にさしかかったばかりの、かつては【学院】の長をつとめていた魔術師。
「史貴……と、和泉教授か。追いつかれるとは思わなかった」
箔は、小さく笑った。和泉は言った。
「箔先生……女の人の家に、勝手に入るのは、よくないと思います」
迷宮の入り口は、葵の屋敷の地下にあった。
「非礼は詫びよう。侵入者防止結界の甘さも、問題かとは思うが」
「余計なお世話です」
葵が言った。箔は、彼女を見た。
「【賢者】を助けにいくのか」
「……そうですが」
箔は、茜の失踪を知る、当事者以外では唯一の魔術師だった。ほかの魔術師に、事件のことを口外しないよう、ふたりに言いふくめたのも彼である。
「困ったな」箔は、自分の猪首を掻いた。「【賢者】の今回の失態は、私にとっては、またとない好機だった」
和泉は眉をひそめた。箔はつづける。
「彼女は、私たちの想像を遥かに凌ぐスピードで、やがて我々では到底手の届かない領域に達するだろう。そして無垢な探求心と、未熟な精神の向くままに、あらゆる犠牲を、省みなくなる」
葵は目をすがめた。
「まるで、化け物みたいに言うんですね」
「化け物だよ」
箔は言った。だらりと下げていた大きな手を、彼は持ちあげる。それは、何かを求めるような仕草だった。
「【賢者】の出した『成果』については、感謝をしよう。だが、彼女を擁護するのは、そこまでだ」
魔女の長い金髪が、薄い背中に広がった。
「……用が無くなったら、ポイというわけ」
「キミもいずれやることさ」
青い眼光が、箔を射る。魔法の光が、虚ろな回廊に閃いた。白い高熱波が、轟音をあげて爆ぜる。
※つぎの投稿は、サイド・ストーリーになります。内容は、『賢者の使い魔が、敵役の比奈子の、髪を切る話』です。
・読んでいただき、ありがとうございました。
※前学院長、箔の髪の色を、修正しました。
旧→『炭灰色の髪をオールバックにして、(中略)』
改→『灰色の髪をオールバックにして、(中略)』




