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鉄と真鍮でできた指環 《1》 ~学院の賢者~  作者: とり
 【本編】第8幕 触媒(しょくばい)
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66.時よ、止まれ




 ・前回のあらすじです。:『前学長ぜんがくちょうの男、はくを追って、和泉いずみあおいが探索をします』


 ・今回の大枠です。:『前回と同じフロアです。和泉と葵が、箔を見つけます』









 硬質な通路のさきに、(はく)はいた。水のなかに金属の(かべ)が立って、ぽっかりあいた入り口に、下層への階段がつづいている。和泉(いずみ)(あおい)は、暗い回廊(かいろう)の終わりで()まった。


 箔が振り向く。いかめしい顔つきの、大柄(おおがら)な男。


 灰色(アッシュ・グレー)の髪をオールバックにして、フォーマルなジャケットに身をつつんでいる。上からは、今は魔法(まほう)研究者(けんきゅうしゃ)用の、(くろ)法衣(ほうえ)をまとっていた。五十代の、初老(しょろう)にさしかかったばかりの、かつては【学院(がくいん)】の(おさ)をつとめていた魔術師(まじゅつし)


史貴(しき)……と、和泉教授(きょうじゅ)か。追いつかれるとは思わなかった」


 (はく)は、小さく笑った。和泉(いずみ)は言った。


「箔先生……女の人の家に、勝手に入るのは、よくないと思います」


 迷宮(めいきゅう)の入り口は、葵の屋敷(やしき)の地下にあった。


非礼(ひれい)()びよう。侵入者(しんにゅうしゃ)防止(ぼうし)結界(けっかい)の甘さも、問題かとは思うが」


「余計なお世話(せわ)です」


 (あおい)が言った。(はく)は、彼女を見た。


「【賢者(けんじゃ)】を助けにいくのか」


「……そうですが」


 箔は、(あかね)失踪しっそうを知る、当事者(とうじしゃ)以外では唯一(ゆいいつ)魔術師(まじゅつし)だった。ほかの魔術師に、事件のことを口外(こうがい)しないよう、ふたりに()いふくめたのも彼である。


「困ったな」箔は、自分の猪首(いくび)()いた。「【賢者】の今回の失態(しったい)は、私にとっては、またとない好機(こうき)だった」


 和泉(いずみ)は眉をひそめた。(はく)はつづける。


「彼女は、私たちの想像を遥かにしのぐスピードで、やがて我々では到底(とうてい)手の届かない領域に(たっ)するだろう。そして無垢(むく)探求心(たんきゅうしん)と、未熟(みじゅく)精神(せいしん)の向くままに、あらゆる犠牲を、かえりみなくなる」


 (あおい)は目をすがめた。


「まるで、()(もの)みたいに言うんですね」


「化け物だよ」

 

 (はく)は言った。だらりと下げていた大きな手を、彼は()ちあげる。それは、何かを(もと)めるような仕草だった。


「【賢者】の出した『成果(せいか)』については、感謝をしよう。だが、彼女を擁護(ようご)するのは、そこまでだ」


 魔女(まじょ)の長い金髪(きんぱつ)が、薄い背中に広がった。


「……用が無くなったら、ポイというわけ」


「キミもいずれやることさ」


 (あお)い眼光が、(はく)()る。魔法の光が、うつろな回廊に閃いた。(しろ)高熱波(こうねっぱ)が、轟音(ごうおん)をあげて()ぜる。

 






 ※つぎの投稿は、サイド・ストーリーになります。内容は、『賢者けんじゃ使つかが、敵役の比奈子ひなこの、髪を切る話』です。


 ・読んでいただき、ありがとうございました。


 ※前学院長、はくの髪の色を、修正しました。

  旧→『炭灰色チャコール・グレーの髪をオールバックにして、(中略)』

  改→『灰色アッシュ・グレーの髪をオールバックにして、(中略)』




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