s-8.アスモデウス
・サイド・ストーリーです。内容は、『茜に魔法をつかったときの、比奈子の心情です』(※サイド・ストーリーは、読まなくても、本編をつづけて読むのに、さしつかえはありません。)
茜と初めて会ったのは、比奈子が十才の時だった。図書館で、明日の予習をしている時に、「何で勉強するの?」と茜に問われたのがきっかけだった。
この質問には何て答えたか、比奈子はもう忘れた。
「夢のため」とか、「ちゃんとした大人になるため」というような、紋切り型の返事をしたのではないか。と、ふと思い返すことはある。けれど、比奈子には目標もなければ、目指すべき『大人』という像もなかった。
図書館での出会い以来、茜とは遊ぶようになった。比奈子はウワサていどに、彼女のことを知っていた。この年に賢者に就任した、神童だった。きっと、友達と呼べる人なんていないんだろうな、と思った。
賢者と仲がいいというのは、まわりからの顰蹙を買うのに、十分な『社会的地位』だった。後に起こった落第の一件も、その報復なのだろう。
比奈子は茜と賢者の屋敷で遊び、練習を見てもらったりしながら、考えた。
なぜ、勉強をするのか。
茜はその答えを、知っているような気がした。
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六十六層に転移した時、比奈子はようやく、運が向いてきたと思った。そしてその幸運こそが、これまでの努力の賜物だと信じた。魔物はいなくて、一本道で、深層であるにもかかわらず、とんとん拍子にすすんでいく道のりに、警戒をわすれた。欲しかったものが手に入る時が来たのだと、導かれるままに歩いた。
罠だった。
大きな土の人形が現われて、比奈子はめった打ちにされた。あばらが折れて、声も早々に出なくなり、腕や脚をあちこちから引かれて、ちぎれた。悲鳴が出て、すぐに「あ、いま、呪文を唱えればよかった」と後悔した。
帰還のチャンスは、それっきり来なかった。
声帯が踏みつぶされた。
ゆがんだ瞼の隙間から、三人の魔術師がやって来たのが見えた。一番まえにいるのは、茜だった。
すぐに飛んでくる。助けようとしているんだと思った。でも、助かったとして、もはや自分にはなにもないことを、比奈子は悟っていた。
頑張っても、ただ嘲弄されるだけの、滑稽な人生。それが、比奈子の担う運命だった。
茜はちがう。
才能があって、いろんな人たちから認められて、あんまりにも簡単に、結果を出せてしまう。
恵まれている。
彼女の立場をもらっても、いいと思った。そしてその渇望は、茜も了解してくれる気がした。
比奈子は、憑依の魔術を解き放った。
白い光のなかで、賢者がどんな顔をしたのかは、分からなかった。
・次の投稿は、説明用のストーリーになります。内容は、『御礼や、残酷シーンについてなど』です。
・読んでいただき、ありがとうございました。




