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鉄と真鍮でできた指環 《1》 ~学院の賢者~  作者: とり
 【本編】第7幕 人をさがして
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60.にせ救世主



 ・前回のあらすじです:『地下六十六層で、和泉いずみたちは、ボロボロになった比奈子ひなこを発見する』


 ・今回の大枠です:『あかねが、比奈子の魔法まほうを受けます』









 (あかね)は、何も言わずに飛び出した。ゴーレムたちが振り返る。ぶん、と一体の怪物(かいぶつ)が、細長いものを投げつけた。少女のわきをかすめて、それは地面に跳ねる。人体の一部だった。


 和泉(いずみ)は声をうしなった。(あおい)はすぐ、(われ)に返った。


「もどりなさい! 茜!」


 魔力(まりょく)を開放し、葵は飛翔(ひしょう)魔法(まほう)を加速する。妹に向かう。その脚を、土から()き出た手が掴んだ。


「葵さん!!」


 地面から生まれる無数の人形に、和泉は全身を凍らせた。洞穴(どうくつ)の天井は低く、怪物(かいぶつ)頭上(ずじょう)へ逃げることはできなかった。


 葵は妹を見る。声のない魔法を使い、爆破の嵐を起こして、(あかね)は中心へと飛んでいく。


 ゴーレムは、砕けた途端とたんに、土から再生した。(あおい)呪文(じゅもん)を唱えた。一本の(やり)顕現(けんげん)する。彼女は地面にのぞく、怪物のひたい()いた。そこに(きざ)まれた、言葉の頭文字(イニシャル)を破壊し、人形を無力化する。


(あかね)! もどって! その子は、見捨(みす)てて!」


 武器を振りまわし、呪文を唱えて()(もの)を蹴散らし、道をつくる。死と再生を繰り返し、ゴーレムたちは、葵の行く手をふさいだ。


 それは、茜も同じだった。


 ただ、発声(はっせい)から魔術(まじゅつ)の展開への時差がない(ぶん)(あかね)のほうが、前進の度合いは速かった。ほどなく彼女は、比奈子(ひなこ)辿たどりつくだろう。


(今なら、まだ()()う……)


 和泉は、(あおい)法衣(ほうえ)を放した。地上に着地し、ゴーレムのあいだをくぐって、(あかね)に迫る。


和泉(いずみ)くん!」


 ゴーレムの意識は、ふたりの魔女(まじょ)にそそがれていた。人形の眼窩(がんか)が、和泉を見下ろすまでの、わずかな時間。和泉は走った。怪物たちの足元をすり抜けて、ころがるように、少女へと突進(とっしん)する。


「だめだ! (あかね)!」


 ひるがえる法衣(ほうえ)に、手を伸ばす。指先が赤いすそをつかまえたのと、まっ(しろ)な光が破裂したのは、同時だった。


 魔法の光だった。


 魔術師(まじゅつし)が、死の今際(いまわ)に放つ(のろ)い。標的(ひょうてき)とする人物の身体をうばい、存在をすりかえる――。


 光のなかで、比奈子(ひなこ)の無残なすがたが()き飛んだ。ふくれあがった膨大な魔力(まりょく)が、比奈子の(たましい)を押し出して、茜の小さな身体を()つ。


 魔法の余波(よは)が、和泉(いずみ)()を焼いた。


 彼はそこで、意識を無くした。



 ~~~~~~~~~~~~~~~



 目を覚ました時、和泉(いずみ)は、なにも見えなくなっていた。


 潔癖(けっぺき)に洗浄された匂いがして、彼は、【学院(がくいん)】にある病棟(びょうとう)だと見当をつけた。暗闇のなかで、(あおい)使(つか)()を名乗る声が、いろいろと説明をしてくれた。


 (あかね)が、比奈子(ひなこ)にのっとられたこと。迷宮の入り口が閉じたこと。和泉の失明は、魔法(まほう)のとばっちりをくらった結果であり、視力が元にもどることはないこと。

 

 光の消えた世界で、和泉はただ、失望した。


 茜を(うしな)ったことに。


 比奈子を()てた、自分に。







 ・読んでいただき、ありがとうございました。


 (※いくつかの表現を、修正しました。)




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