7.それは身から出た錆かたなぼたか
・前回のあらすじです。
『主人公が、ヒロインの生存を確信する』
・今回の大枠です。
『主人公と、弟子の話です』
和泉は茜からのチャコへのプレゼントを、フリースのポケットに入れた。
立ち上がり、デスクの引き出しを閉めようと、把手に手をかける。
かたん。
ガラスの瓶が、奥からころがり出る。
なかで、黒い粒がカラカラと鳴る。
錠剤の保存に使う大きさである。
黒い、粒状の物体が、五つ入っている。
和泉は瓶を持ちあげた。
胃に効く丸薬かと思った。
光の加減で、黒い粒は、群青っぽくも、赤っぽくも見える。
(鉄か? 鉛かな? てゆーか、鉱物なのか?)
ためつすがめつ、和泉はガラス越しに、物体を観察した。
正体は分からなかった。
「まぁ、ほかにあてもないし、いちおう試すだけしてみるか」
ガラス瓶を、フリースのポケットにつっこんで、窓辺に立つ。
外では、彼の弟子が実験用の触媒を首を長くして待っている。
和泉は呪文を唱えた。
風のちからが、少年のからだを浮上させ、窓から外へと飛翔させた。
・・・・・・
「せんっせー、どやった?」
「わるい。銀はダメだった」
和泉は屋敷の門のまえに、降り立った。
そこには、触媒の調達の依頼者である、教え子の青年が立っていた。
茶髪で背の高い、快活な若者。
老人のような白髪と、猫背を持つ和泉とは、対象をなす魔術師。
彼の魔法実験に使う、銀を調達しに、和泉は学院のトップである【賢者】の屋敷に、忍び込んでいた。
しかし、屋敷の主に見つかり、対話のすえ、それを手に入れることはできなかった。
「えー、ほなどーすんの」
青年――永城は、ぶぅ垂れた。
「これを使ってみてくれないか」
和泉は、ポケットから瓶を出す。
先ほど、賢者の部屋で手に入れた、丸薬のようなものだった。
実験に使う触媒は、必ずしも銀である必要はなかった。
試す魔術に見合う魔力を引き出すだけのちからがあれば、べつの媒体でも、代用がかなう。
黒い物質の正体はわからなかったが、魔法特有の、神秘めいた気配を、和泉は感じていた。
瓶のなかみに、永城は目をすがめる。
彼の視力は良かったが、夜目は利かない。
「よく見えへんけど……まぁええか。ほな、ちょっとついてきて」
「どこ行くんだ?」
「決まってるやん。学長センセんとこ♡」
学生用の法衣をひるがえして、永城は歩きだした。
うしろから和泉はついていく。
二人は夜道を歩いた。
さっきまで彼らがいた、【賢者】の有する洋館は、木々が生いしげる庭園の近くに所在した。
そこからずっと離れた場所に、学院の教員や、生徒の居住区はある。
学院長の住まいもまた、その一郭に建っていた。