57.色めがねで見る
・前回のあらすじです:『葵が、化け物を退治する』
・今回の大枠です:『和泉と葵が、茜を追い駆ける』
葵は和泉の手首をつかんだ。
「砦を目指す、タカの羽ばたき」
呪文を唱えて、空に上がる。高速飛行の魔法だ。異教の女神の衣がふたりを覆い、一筋の風にする。
和泉はぎゅっと魔女の手を握った。
「葵さん。オレの考えてることって……」
「あなたの友達が、茜に害をおよぼす可能性が高いということ」
「そんなこと――」
葵は、枯れた木が作る隘路を縫った。
「ごめんなさいね。私は人を、信用していないの」
淀んだ森を抜け、沼地にぽっかり空いた洞に飛び込む。地下におりる。
「正直、あなたの探している比奈子ちゃんとやらが、死んでくれていたほうが良いとさえ考えてる。瀕死の状態で……誰かの助けを待っているくらいなら」
和泉は、葵の手を強く握った。彼女は痛いと思っただろう。
葵はもう一度、「ごめんなさい」と言った。
「自分の命と引き換えても、妹と立場をすり替えたいと願っている連中は、多いの。実行に移すだけの、意志力が無いだけで」
葵は迷宮の通路を、迷いなく飛んだ。和泉は、風圧のなかで訊いた。
「じゃあ、葵さんは、茜のことを」
「大事よ。他人のことなんて、本当はどうでもいいの。ただ……」
葵は言葉を切った。
彼女はもう、無言になって、道を飛ぶ作業に集中した。
・呪文を変更しました。
旧→『砦を目指すタカの羽音』
改→『砦を目指すタカの羽ばたき』
・読んでいただき、ありがとうございました。