54.じつはそんなに、仲よくなくない
・前回のあらすじです:『迷宮の六層目で、茜と会った和泉は、比奈子がいなくなったことを伝える』
・今回の大枠です:『茜が、比奈子のいるフロアに飛びます』
「比奈子がいなくなったって……」
茜は、頬杖をついて言った。
「どのへんで? ていうか、比奈子も来てたの?」
和泉はうなずいた。
「授業で出た課題があって……二層目までは、いたんだけど」
比奈子は、「待ってて」と言って、ひとりでどこかに行ったっきり、帰ってこなかった。
和泉の横で、葵が肩をすくめる。
「そのようすじゃ、茜も見てないってことね」
「悪かったね」
茜は、ベッと舌を出す。
和泉たちのいる場所は、半壊した建造物の正面だった。荒野に、忽然とたたずむ砂色の遺構。その奥には、さらに地下へもぐるための通路がある。
葵は妹に言った。
「そろそろ行くわ。……夜までには帰るのよ」
「うるさいなぁ」
「あと、誰にでもホイホイ声をかけないこと。いい加減やめなさい。お願いだから」
「ほんとうに、うるさい」
茜は片手で頭をかかえた。すこし考えて、くちを開く。
「ねぇ、ちょっと待って」茜は和泉に訊いた。「比奈子、なにか持って来てたとかない? あるいは、拾ったとか」
和泉は、あっ、と顔をあげた。
「そうだ。落としもの。誰かに届けてくるって言って、それで……」
「なんで誰かが落としたものだって、断言できたの? 落としているところを、和泉たちは見たの?」
茜は、細いひざ小僧に手をついて、崩れた段差から立ちあがった。和泉は沈黙する。
「精霊石を拾ったのかもしれない。比奈子……」
「『せいれいせき』?」
和泉は訊き返した。説明は無かった。
「なに色だったか、分かる?」
茜はスカートのポケットから、小さい宝石を準備した。正八面体の、黄色い石だ。淡い煌めきのなかに、『48』という数字がある。
「えっと、赤色……だったかな」
和泉は答えた。茜は、持っていた石を捨てる。
「……六十六層だ」
新しく、紫の宝石をつかみ出す。内部に浮かぶ数字は、『54』。茜は宝石を握りこんだ。
一瞬後、茜のいた場所には、誰もいなくなっていた。
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