50.アラート
・前回のあらすじです:『迷宮の五層目で、和泉が葵から、目的を追及される』
・今回の大枠です:『和泉が、隠しごとをします』
洞窟に、ひやりとした空気が充ちている。和泉は、金髪の少女に訴えた。
「オレ、人を探して、ここまで来たんです。櫻 比奈子っていう、三つ編みの女の子なんですけど」
「三つ編みの?」
少女――葵は、周囲を見わたした。
「あなたのお友達? おない年くらい?」
「ともだち……っていうか。ただの同級生。歳はオレより、いっこ上、だったかな。誰かがそうしゃべってるのを、聞いたくらいなんだけど」
櫻 比奈子は、落第生だった。
理由は知らない。いっしょの班で活動した限りでは、彼女は優秀な魔術師だった。
「そう。残念だけど、この辺では見てないわね」
葵は肩をすくめた。和泉は沈黙する。
「……あなたは、もう帰りなさいな。入れ違いになったのかも。下の階は、私が見ておくから」
葵は腕時計を確認した。時刻は、夕方の四時をまわっていた。
「あの、いっしょに連れていってもらうのは……」
「だめ」白い手が少年の顔を制した。「帰りなさい。転移の魔術は使える?」
和泉は首を横にふった。むずかしそうに、葵は腕を組む。
「……進むのも戻るのも、あなたにとっては同じ『危険』ね」
夕暮れ時は、迷宮内の魔物の発生率が上昇した。葵は魔法でつれて帰ることも考えたが、目のまえの少年は、性懲りもなくもどってきそうだった。
ぴっと、少年の目のまえに指を立てる。黒い眼が、寄り目をした。
「……聞いてね、和泉くん」
和泉は目を寄せたまま、こくこくした。
「六時までは、その比奈子ちゃんっていう子をさがすのを、手伝ってあげます。でも、時間を過ぎたら、潔く諦めなさい。あと、迷宮にいるあいだは、私のそばを離れないこと」
パッと、和泉は顔を明るくした。寄り目はやめた。
「はい! ありが――」
「それと、最後にもうひとつ」
ピン、と葵の声が張る。
「赤い法衣の女の子――私の妹なんだけど。その子を見かけても、絶対に、あなたのほうからは声をかけないで」
和泉は固まった。赤い法衣の少女とは、きっと、茜のことである。
「えっと……わ、分かりました」
葵に、和泉は約束した。茜と友達だというのは、言わなかった。
・読んでいただき、ありがとうございました。




