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鉄と真鍮でできた指環 《1》 ~学院の賢者~  作者: とり
 【本編】第5幕 賢者
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42.服を着る生きもの






 ※今回の話は、視点があかね比奈子ひなこの側にうつります。

  主人公は出てきませんが、サイド・ストーリーではなく、本編の扱いとなります。




 ・前回のあらすじです。

 『屋敷に来た比奈子を、茜が出迎えに行く』


 ・今回の大枠です。

 『比奈子が、茜とお別れします』












 (さくら) 比奈子(ひなこ)は、玄関屋根(ポーチ)の下で待っていた。栗色(くりいろ)の髪をした、十二才の少女である。長い髪は一本の()()みにして、肩から胸に垂らしている。(くろ)く、キョドキョドと、よく動いた。


 彼女は(こん)のダッフル・コートと、膝丈(ひざたけ)まであるスカートをつけていた。防寒ぼうかん用のレギンスをはいて、足には、ショートブーツをめている。(ふか)(みどり)のマフラーを、巻いて、そのなかに、彼女は半分だけくちを(うず)めていた。()く息は(しろ)い。


 玄関げんかんのドアが開く。


「ひさしぶり、比奈子ひなこ


 (あかね)灰色(はいいろ)のコートを引っかけていた。したには、あねのおさがりのジャケットを着込んでいる。スカートは(みじか)かったが、細い脚はむき出しで、ふくらはぎまであるブーツをいていた。


 比奈子は、マフラーからくちを出した。


「うん。ごめんね、急に」


 あかねは、屋内(おくない)に顔を向けた。


「いいから入りなよ。身体、()えちゃうよ」


「ちょっと、話しに来ただけだから」


「……遊んでいけばいいのに」


 比奈子は目を()せた。彼女は言った。


(わたし)は、茜とはちがうから」


 あかねは肩をすくめた。比奈子ひなこは目を合わせずにつづける。ふたりは、去年の年度末(ねんどまつ)から会わなくなっていた。


 比奈子が森林の庭園(ていえん)に、来なくなったのだ。


「……落第(らくだい)したの、私。来年度は、なんとか昇級できる予定だけど、それでも、同じ(とし)の子とは、一年も(おく)れてる」


「この学校は、あんまり年齢とか関係ないよ」


「茜が言うと、嫌味いやみに聞こえるね」


 あかねは黙った。比奈子ひなこは、マフラーでくちを隠した。


「ごめん。私、どうかしてる。今日きょう来たのはね、『勉強に集中したいから、もう遊べなくなるよ』っていうこと。それと、ずっと会いに来なかったのも、茜がキライになったわけじゃないから、気にしないで。って、それだけ……」


 ひと息に、比奈子は()げた。くつの先をうしろに向ける。


無理むりしてるの?」


 あかねは比奈子に声をかけた。比奈子は屋敷(やしき)出口(でぐち)へと、段差を下りる。


いきぬきは必要だよ」


 もんのほうへ向かう背中(せなか)に、茜は言った。


「いつでも、遊びに来て」


 蝶番(ちょうつがい)きしむ音が、冷めた空気に響く。


「比奈子」


 かしゃん。


 鉄格子(てつごうし)の門は閉じた。


 茜の金色(きんいろ)の髪には、(こおり)(つぶ)がついていた。いつのまにか、彼女は、玄関屋根から出ていた。


 うしろから、チャコが傘を()す。大き目の傘だった。


僭越(せんえつ)ですが、ご主人(しゅじん)さま」


 チャコは敷地の外を見た。曇天(どんてん)と、溶けた(しも)水浸みずびたしになった路面があるだけだった。


「ご友人(ゆうじん)は、よく(えら)ばれたほうがいいかと」


「……おねえちゃんみたいなこと言うんだね」


 使(つか)()は、少女の髪から氷の粒子(りゅうし)を払った。


「心配をしているんです、あの方も。茜さまのこともそうですが……」


 ゆきは、少女の髪の上で、水滴(すいてき)に変わっていた。チャコは小さな主人に告げる。


あせるんです。あなたの隣りに立つ人は。自分でも知らない内に、優劣(ゆうれつ)を決めてしまって、……一緒いっしょにいるのが、(つら)くなる」


「人に上下(じょうげ)はない、っていうよ」


「あの年頃の子供にそれを理解しろというのは、(こく)です」


 あかねの肩は震えていた。


 屋敷やしき左手(ひだりて)を、チャコは見た。ほかの魔術研究者や、学生たちの居住区(きょじゅうく)のある方角。木々(きぎ)合間(あいま)にのぞく(さか)の上に、茜のあねと、その使い魔の住む宿舎(しゅくしゃ)はあった。


明日あしたは、シロを呼びましょう。どうせヒマなやつです。好きなだけ、オニゴッコの相手だってしてくれます」


 前掛まえかけのポケットからハンカチを取り出して、チャコは、主人の()れた頬に当てた。


雪合戦(ゆきがっせん)がいい」


「この量では、ムリでしょう」


 小さな背中に手を()えて、チャコは主人を温かい部屋に案内する。外は冷えきっていた。


 ゆきは積もらなかった。






















 読んでいただき、ありがとうございました。




 ※いくつかの表現を修正しました。


















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