38.禁じられていないあそび
・前回のあらすじです。
『主人公の和泉は、ヒロインの茜の才能を嫉妬して、茜とは関わるまいとしていた』
・今回の大枠です。
『茜が和泉に仕返しをします』
和泉は足を止めた。
庭園の茂みが、風にそよぐ。そこかしこで、セミが鳴く。
彼は法衣の下で、肩を落とした。
(……かわいそうなことしたかな)
両腕を組んで、首をひねる。
(考えてみれば、あの子自身になにかされたわけじゃ、ないんだよな……)
学院に来てから、遊びに誘ってくれたのは、史貴 茜だけだった。
和泉には友達がいなかった。ルームメイトの生徒とも、言葉を交わすことは、ほとんどない。
(結構、かわいい顔してたし……)
自分をのぞきこんできた少女の面差しを思い出す。
和泉は首を横に振った。頬が熱くなっていた。
「さっきから、ひとりで何してるの?」
横から少女が顔を出した。肩までの金髪に、緑の目の女の子である。史貴 茜だ。彼女はこっそり、和泉について来ていた。
和泉は、うしろにたたらを踏む。
茜は、ニヤ~と笑った。それから指を鉄砲のかたちにして、彼女は少年の胸に突きつけた。
少女は魔法を放った。呪文はない。それは『ひばりの技法』と呼ばれる、一流の魔術師が使える秘術だった。
風の砲弾が、少年を吹っとばす。
和泉は地面に尻から落ちた。心臓が、ドキドキしていた。
茜は、ダボついた法衣のそでを胸のまえで組む。彼女は和泉のまえで、ふんぞりかえって立っていた。
「わたしに嫌味を言った、報いだよ。でもまだちょっと、腹の虫がおさまらないなー」
和泉は目を白黒させた。茜は自分の顎を、グーにした手で押さえる。彼女は罰を考えていた。
「ま、いっしょに遊んでくれるっていうなら、さっきの無礼も許してあげるよ。おにいちゃん、名前は?」
茜はニコ、と笑って和泉を見下ろした。
「……和泉……」
和泉は苗字を名乗った。下の名前も告げると、少女は、「なんか、弱っちい名前だね」と言った。
「ま、いっか。和泉ね。好きだわ、キレイなひびきで」
少女は小さな両手を合わせた。和泉の鼓動は、『好き』という言葉に高鳴った。でも、それが名前の語感に対する感想と知った瞬間に、消沈した。
「と、向こうで、チャコ待たせてたんだ。そろそろ行こ。かくれんぼするの。ふたりはつまんないから、困ってたんだ」
にこー、と茜は笑って、和泉の腕を引っぱった。
和泉は立ちあがる。ズボンの汚れを、叩いて落とす。
~~~~~~~~~~~~~~~
かくれんぼは、ジャンケンで鬼を決めた。
和泉は負けた。
彼は、探す側になった。




