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鉄と真鍮でできた指環 《1》 ~学院の賢者~  作者: とり
 【本編】第5幕 賢者
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37.変身






 ・前回のあらすじです。

  『主人公の和泉いずみは、学院の庭でヒロインのあかねを振り切り、ひとり立ち去る』


 ・今回の大枠です。

  『和泉の心理描写です。茜を拒絶する理由です』









 和泉(いずみ)が【学院(がくいん)】に来たのは、(あかね)と出会う、三か月ほどまえ――四月の初旬だった。


 かれは、【(おもて)】では小学校五年生になるはずだった。国籍こくせきは日本。関東地方の出身である。


 学院への召致(しょうち)は、唐突だった。母親といっしょにショッピング・モールで買い物をしていた(おり)、ふっと彼は消えたのだ。


 和泉は、学舎(がくしゃ)の地下に転送された。そこはいくつもの柱に支えられた、薄暗い広間だった。


 当時の学院長である、壮年(そうねん)の男――(はく) 時臣(ときおみ)が、和泉をふくむ、【表】から集めた人たちに説明をした。


 いわく、不可視の境界線(きょうかいせん)をはさんで、世界は【表】と【(うら)】に、二分(にぶん)されている。


 【表】は魔法の使えない者たちが住む、『科学』を文明の柱とする領分。【裏】は、魔法の使える者たちの住む、『魔術』を生活の基盤とする領域である。


 【うら】に転送された人間は、【表】で生まれながら、魔法の素養を得てしまった者である。彼らは素質の獲得が認められた瞬間に、魔術の最高学府たる、【学院】に送致(そうち)され、高水準の魔法教育を受ける規則になっていた。


 また、【裏】に来た人間は、元いた世界にもどることは叶わない。


 和泉(いずみ)は、「帰りたい」とは思わなかった。魔法を使えるちからがあると知り、舞いあがっていた。


 だらだらと流れる『日常』と別離し、新天地で技術や知識を身につけて、超人的な活躍をする。


 それが、彼の期待した未来だった。


 和泉は勉強に(はげ)んだ。元いた世界の遅れを取りもどすように、本を読み、字を書き、講義を聞いた。


 成果は出なかった。


 基本の魔法さえ、和泉は成功させることができなかった。


 授業じゅぎょうは、遅れた魔術師を残して進んでいく。それは、新入りであっても関係は無い。


 教員の教え方が悪いのではないことは、同期で入った生徒が、一度の講義で魔術まじゅつを習得するすがたから知った。


 和泉はひとつ学習した。


 元いた世界で、凡庸(ぼんよう)に生きていた人間が、べつの世界に来たところで、英雄(ヒーロー)になれるわけがない。


 その事実に気づいた途端とたんに、彼は何もかもが嫌になった。自分の家に帰りたくなった。


 それができないことを思い出すと、彼は、有能な術者を『恵まれた者』として(ねた)むようになった。


 とりわけ学院で有名な、『史貴(しき)』という魔術師の姉妹(しまい)は、嫌いだった。


 あねのほうが『(あおい)』で、妹のほうが、『(あかね)』という名前だった。ふたりとも、和泉(いずみ)と同じように、【表】からの出身者だった。にもかかわらず、どちらも優秀な魔術師だった。


 姉のほうのできの良さは、『年上(としうえ)』という理由で、しかたがないと割り切れた。


 しかし妹のほうは、和泉よりも年下であるにもかかわらず、大人たちを(しの)ぐ魔法のちからと、知識を持っていた。


 和泉は、妹のほう――史貴 茜の良いウワサを耳にするたびに、(みじ)めになった。自分に天稟(てんぴん)のないのが、悔しかった。


 だから茜とは関わりたくなかった。彼女といっしょにいるだけで、自分がどんどん、矮小(わいしょう)な生きものになっていくような気がした。







 読んでいただき、ありがとうございました。


 ※いくつかの表現を、修正しました。




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