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鉄と真鍮でできた指環 《1》 ~学院の賢者~  作者: とり
 【本編】第3幕 学院
34/205

30.ボタンをかけまちがえた。






 ・前回のあらすじです。

  『図書館の裏で、主人公の和泉いずみは、使い魔のチャコに、茜を元に戻す方法を伝える。その結果、はじき出される敵の魂について、チャコは保管を提案する』


 ・今回の大枠です。

  『和泉がチャコに説教をします』











 沈思ちんしする少女に、和泉(いずみ)は答えた。


たましいの保存には、『依代(よりしろ)』と、『魔法生命体(ホムンクルス)』のふたつがある。けど、どっちも現実げんじつ的じゃないな……」


「どうしてですか」


 チャコは問いただした。


 和泉は意気込いきごんだ。心霊系統の魔術は、十八番(おはこ)である。


「依代は、巫術(ふじゅつ)の性格が強くて……魔術師の技量では、効果はかなり制限されるんだ。道具のなかに魂を閉じこめて、人格や行動の一切を停止させるくらいしかできない」


 それは自由のない空間に、精神を束縛することを意味いみした。封印しているあいだは、意思の疎通(そつう)もはかれない。


 仮初(かりそめ)の処置としては使えたが、移し替える生物的な容れ物の目途が立たない以上、監禁は(なが)きにわたると想像できた。


「ホムンクルスは?」


「もっと無理むりだ」


 和泉は宙をはらった。


「つくりかたが伝わっていない。同じ系統にクローンがあるけど、これは自我を持って生まれてくるから、(うつわ)として使うのにはやっぱり、抵抗がつよいな……」


 ホムンクルスは、魂を持たない、純粋な『人形』だった。その製法は、資料のなかには残っているが、文章はすべて寓意的(ぐういてき)で、具体的な内容は、秘匿(ひとく)されていた。


 和泉(いずみ)はチャコに踏みこんだ。


(さくら)を助けたいのか?」


 彼の声は、あらかった。


「おまえの主人を不幸にした、張本人ちょうほんにんだぞ」


「ですが、あの子も人間です」


 白い顔が、和泉を見据みすえた。少女の長い髪が、赤い給仕服の背にねる。


 和泉いずみは眉間にしわをせた。彼のなかで、比奈子は既に人ではなかった。


 チャコは、細い指をんだ。


「最後に、個人的なことなのですが……」


 切り整えた前髪が、少女の目元に影を落とした。彼女は質問をした。


「和泉さまは、迷宮に使い魔をつれて行かれますか」


 和泉はうめいた。彼はふたたび、異界に飛ぶ予定だった。しかし、従僕のカラスを同行させる気持ちは、無かった。


「いや、ひとりで行くつもりだけど……」


「それは、使い魔が足手まといだから、ですか」


 和泉(いずみ)は気がついた。


「ひょっとして、(あかね)につれていってもらえなかったことを、気にしてるのか」


使つかであれば、不安になります。シロだって、(あおい)さまに置いてけぼりをくらったと、グチを言います」


 チャコは目をそらした。和泉は詰め寄った。


「茜も学長も、おまえたちを大事にしてるだけだよ。ケガをさせたくないから、つれて行かないんじゃないか」


 影の奥で、少女の白い面差しに、かよった。瞳は水気をびていた。


 和泉いずみは四角いつつみを取り出した。チャコに握らせる。


「とにかく、茜のことだけは、なんとかできる。だから、その……、」


 彼はすぐに、少女から手を離した。


「……元気げんき、出せよ」


 和泉(いずみ)は靴の先をうしろに返した。その場をあとにする。


 図書館としょかんの裏手に、チャコはひとりになった。























 読んでいただき、ありがとうございました。




 ・次回は、サイド・ストーリーを投稿する予定です。

 ・内容は、召し使いのチャコと、敵役の比奈子ひなこの話になります。

 (※サイド・ストーリーは、読まなくても、本編に支障はありません)


















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