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鉄と真鍮でできた指環 《1》 ~学院の賢者~  作者: とり
 【本編】第3幕 学院
24/205

21.九十九の努力をして、一のインスピレーションを得る




 ・前回のあらすじです。

 『主人公と魔女が、いったん、帰還きかん優先ゆうせんする』


 ・今回の大枠です。

 『学院に帰ってきた主人公たちが、主人公の師匠と、会話をする話です』









 【学院(がくいん)】は、夜明けをむかえていた。


 そらは白々ときはじめる。朝霧あさぎりは日の出を照りかえして、山林さんりんに、金色のおびをながす。


 すずめが、木の上でぴちくりく。


 ふたりのうしろには、球形になった、あかいひずみがある。


「やっとかえってきたわね」


 和泉(いずみ)は、声のしたほうに顔をけた。屋敷やしきへいの足もとに、魔術師まじゅつしがひとり座っている。彼女はあくびをうって、ちあがった。


「ちゃお。和泉くん」


「あっ、ブロッケン女史じょし


 和泉は、魔術師にった。相手はニコ、とわらう。


 わか女魔術師おんなまじゅつしだった。セミロングの髪は赤い。目の色も、髪と同じ、赤色である。


 顔は品性よく、整っていた。耳もとには、銀のピアスが光っている。


 体格たいかくは、和泉よりすこし小さくて、ハイカラーのシャツとジャケット、短いスカートをつけていた。その上から、研究員用の黒衣こくいをひっかけている。


 彼女のは、リョーコ・A(エー)・ブロッケンといった。学院付属の研究所につとめる、十九歳の魔女まじょである。


 そっくりかえって、ブロッケンは言った。


「私のことは、『お師匠ししょうさま』と呼びなさい。和泉くん、アンタまさか、この私から魔法まほうを教わった恩を、忘れたわけじゃないわよね」


「覚えてますよ」


 和泉(いずみ)は言いかえした。赤毛の魔女は、学舎時代の和泉に義眼を与え、魔法の手ほどきをしてくれた人だった。


 当時、彼女は学生の身分だったが、和泉が『』とあおぐのは、彼女のほかになかった。


 ずい、とブロッケンは魔法陣まほうじんをのぞきこむ。


「ていうか、学長がくちょうセンセとふたりで朝帰りなんて。永城(ながしろ)くんにバレたら、殺されるわね」


 金髪きんぱつの魔女は、そっぽを向いた。


「あ、そうだ。オレ、永城と新しい魔法まほうを試して……」


 和泉いずみは、あたりを見まわした。弟子は、近くにはいなかった。


「えーと。それで、なんでブロッケ……師匠ししょうがここに?」


 ブロッケンは、和泉の胸を、こぶしで押した。


「その、くだんの弟子に、あんたが消えたって聞いたの。で、『こりゃ【迷宮(めいきゅう)】いきかなぁ』ってピンときた私は、ポーターをこさえて、あんたらに帰路をひらいてあげたってわけ。ほら、感謝して」 


「……ありがとうございます」


 和泉(いずみ)は苦笑いをかえす。かれの胸中は、フクザツだった。感謝と驚きと、不可解がぜになっていた。


 迷宮めいきゅうの入り口をあけるのは、長いあいだ有識者の頭をなやませてきた難題なんだいだった。ブロッケン女史じょしは腕利きの魔術師だが、それでも彼女が一晩ひとばんで門を仕上げるのは、現実的ではない成果せいかである。


 ブロッケンは、赤い目を、金髪の魔女まじょに向けた。


「あと、(あおい)。アンタんとこの使い魔にも、泣きつかれたわ。あんたが探索に行ってすぐ、入り口がじたって。もうちょっと冷静になって行動こうどうしなさいよ。らしくない」


わたしは情熱的なのよ」


 魔法陣まほうじんから、葵はた。彼女は右手を、女史に伸ばす。


 静かな目は、ポーターを一瞥(いちべつ)した。


「あなたが『門』を完成させたということは、設計図を持っているのでしょう。貸しなさい」


 にこ、と、ブロッケンは笑う。


「私は命令されるのがキライなの。もうすこし、丁寧ていねいに言いなおしてよ」


だまって貸せ、と言っているの」


 ……ふたつの手帖をブロッケンは魔女に渡した。ひとつは、和泉(いずみ)の弟子、永城(ながしろ)のもの。もうひとつは、ブロッケン自身の研究帖けんきゅうちょうである。


「ていうか、葵。あんた、シロさんに謝っておきなさいよ。すごく心配しんぱいしていたわ」


「いずれね」


 (あおい)はメモと、屋敷のまえの魔法陣を、見比べた。


 魔法陣まほうじんは、昨晩の図形とはことなっていた。書きえがおこなわれている。


 そなえつけの鉛筆を取り、片方のメモにきこみをする。葵はそうして、魔法をみ立てた。


 二冊にさつの手帖を、赤毛の魔女まじょに返す。


「こっちは、預かっておくわね」


 あかい球体に、葵は手をかざした。魔力まりょく障壁しょうへきをつむぐ。


 透明とうめいな壁は、八面体を構成し、なかに球形のひずみをじこめた。


 金髪きんぱつの魔女は、人の頭ほどのサイズに封じた『門』を、手にかせる。


 彼女はきびすをかえし、屋敷の前庭へと向かっていった。とびらをくぐり、玄関のなかへと消える。


「おれいのひとつも言わない図々しさに、びっくりだわ」


 鉄格子てつごうしの門越しに、ブロッケンはボヤいた。和泉(いずみ)は赤毛の師と、無人になった前庭を、交互こうごに見る。


師匠ししょうって、学長と仲がよかったんですね」


「まさか。クラスメートだった、ってだけよ」


 ふん、と師は鼻を鳴らした。それから彼女は、ジャケットのポッケに、両手を突っ込んだ。







 ※主人公の師匠の服装を、修正しました。

  ・修正前→『ハイカラーのシャツと、短いスカート』

  ・修正後→『ハイカラーのシャツとジャケット、短いスカート』




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