13.非人情(ひにんじょう)
・前回のあらすじです。
『主人公が、探索中に体調をくずす』
・今回の大枠です。
『主人公と魔女が出会う話です』
石の翼をうならせて、ガーゴイルはやって来た。
和泉は、黄色いレンズの奥から、魔物をにらむ。
耳鳴りは大きくなる。
喉は悪寒に凍えて、声を生まない。つめたい音が、頭にひびく。
「法衣を脱ぐのは危険よ。和泉先生」
淡い光が、和泉の全身をつつんだ。
医神・アスクレピオスのちからを借りた、治癒の術である。
身体を圧していた悪寒が失せる。呼吸が、軽くなる。
「……えっ」
和泉は、白くなった顔を背後に向けた。
忠告を発した人物は、足を止める。
その人は、若い魔女だった。
くせのない長い金髪。白皙の美貌。青い双眸は、エリア内の炎を映し、紫水晶の色を織る。
体は細く、浅黄のワンピースドレスをつけていた。上に羽織った黒衣には、傷ひとつない。
靴は、機動性に重きをおいたブーツを履いていたが、服装と調和をなしていなかった。
魔女は、青い瞳を上空に向けた。
無音の魔法を放ち、和泉に迫る石像の悪鬼を、撃ち落とす。
魔法の熱衝撃波を受けて、ガーゴイルの身体が弾け、溶岩に沈んでいく。
発声をともなわない、魔術の展開方式だった。
呪文を省略して、事象を呼ぶこの技術を、魔術師たちは、『ひばりの技法』と呼んでいる。
それを使いこなせることは、魔術師として、最高水準のちからを有することを意味した。
和泉は身を起こし、魔女から距離をとる。炎と、氷の色をまぜた彼女の目から、意識をそらす。
「史貴、学長……」
和泉は、魔女の苗字を呼んだ。
史貴 葵。それが、彼女の名前である。
葵は、魔術師の最高学府【学院】の、若き院長だった。そして、和泉が探している【賢者】、史貴 茜の、実の姉でもある。
(なんで、学長が、こんなところに)
和泉は、後ずさった。
※・本編に番号をつけました。
・番号のない話は、サブ・ストーリーです。
・サブ・ストーリーは、読まなくても本編に支障はありません。
読んでいただき、ありがとうございました。