11.攻撃性
・前回のあらすじです。
『主人公が、五年ぶりに、迷宮におとずれる』
・今回の大枠です。
『主人公が、怪物と戦う話です』
コボルトたちは、咆哮をあげた。
棍棒を振りかぶり、白髪の魔術師に、飛びかかる。
和泉は、うしろに跳んだ。色のぬけた前髪を、ふっと空圧が揺らす。
先頭の一匹の打撃が、地面を穿つ。床の破片が、飛び散る。
和泉は、唱えた。
「くさむらを薙ぐ、とかげの息!!」
法衣のそでを、一閃させる。
化け物たちを、業火がつつむ。
灼熱のなかで、四体のシルエットがもがいた。金切り声を、轟音が焼く。
一匹が、正面に駆け出した。
棍棒はない。
火だるまの肉塊は、幽鬼のように両手を突き出して、和泉に迫る。
「っ……! どっ、」
右手を突き出す。呪文を、わめく。
「動乱を仰ぐ、アテナの産声!」
鋼鉄の刃が、和泉の右手に現われる。
火をまとう、獣を刺す。
コボルトは止まった。
ずんぐりとした短躯が、生きることを放棄する。
魔物の身体から、炎が消える。
化け物は、くずれ落ちた。
黒ずんだ身体と、毛の焼けた臭いが残る。
和泉は、剣の柄を握りしめた。
戦いの女神のちからを導き、実体化した、魔力の凶刃である。
武器を握る手は、震えていた。
実戦の経験が、和泉には乏しかった。
学生の時分に、課外実習で、第三層まではおとずれたことがあった。
浅い層は、構造が単純で、魔物も弱く、初等部三年生までの履修を終えたものであれば、安全に採取をおこない、もどってこれる難易度。探索の容易なフロアで、魔物に遭うことは、稀だった。
研究者や、大学部の生徒が頻繁に立ち入るため、怪物たちは定期的な駆逐を受け、絶対数を減らし、また、人を警戒して、無闇に狩りに出るのをひかえていたのだ。
たまに魔物と遭遇することがあったとしても、実習中は、引率の教員が対応していた。
それ以外にも、……一度だけ、和泉は、学生時代に迷宮に入ったことがある。
そして賢者を追って、深い、危険なフロアに飛び込むことになるのだが、その時も、魔物と戦い、道を切り拓いてくれたのは、同伴した、べつの誰かだった。
和泉は、頭を振る。
(……びびってる場合か)
身体の震えは残っていた。
刃物をたずさえたまま、走りだす。
彼は、通路に消えていった。
深層を目指す。




