10.ラビュリントス
・前回のあらすじです。
『主人公が、学院から消える』
・今回の大枠です。
『実験失敗後の、主人公の話です』
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古代の柱とアーチが、天蓋を支えている。
割れた壁面のそとには、赤と黒の天体が流れている。
「ここは……迷宮か?」
和泉は、白亜の神殿に立っていた。
実験の失敗によって、この場にやってきたのだ。
本来ならば、彼は学院にいるはずだった。
しかし、魔法が混乱し、和泉は世界の『壁』をぬけて、怪物の棲む土地に迷いこんだのだ。
和泉は、あたりを見まわした。
淀んだ空。折れた石柱。くずれた彫像。積もる瓦礫。
それらは、見覚えのある光景だった。
魔術に用いる植物や、鉱物資源を豊富にはらんだ、人知およばぬ、太古の遺物。
人ならざるものの棲み処。
ここは、【迷宮】の第一層目。
通路をめぐり、階下への道を見つければ、より深い層に至ることができる。
地下へともぐればもぐるほど、生息する化け物は強固になり、手に入れる魔法資源は、希少価値の高いものへと変化する。
和泉は、かつてこの【迷宮】で、大切な人を失った。彼女は今も、地下深くにつらなる、幾重ものフロアの、どこかにいる。
それは、確信のふりをした、祈りだった。
背後には、【ポーター】がある。
迷宮の出入り口を担うその穴は、岩にできた裂け目のかたちをしていた。
かつては、きれいな球形だったが、それは異なる世界のあいだにあいたトンネルが、安定していたためであった。
現在、くちを開けている赤いひずみは、事故でできた、一時的なものである。
今ならまだ、安全の保障された居住地にもどることができるだろう。
しかしそれは、自らチャンスを手放す行為に等しい。
和泉は、まえに向きなおった。
目指すのは、第六十六層目。
若すぎた賢者、史貴 茜が、肉体を失った場所である。
和泉は駆けだす。
先の見えない通路へと、直進する。
獣のうなり声が鳴った。
瓦礫から、四つの影が跳ぶ。
影は、和泉のまえに着地した。それは毛の長い、ずんぐりとした、生きものだった。
猿の筋骨を鍛え、体毛を黒にして、ぼうぼうと伸ばした風情の獣。
山の精霊、【コボルト】だ。
手には、骨製の棍棒を持っている。
むき出しの牙のすきまからは、白い呼気を噴いている。
精霊たちは、本来、人間には感知できない上位の存在だった。彼らは自然の調停者であり、魔術師の協力者であった。
だが、迷宮を根城とする個体は、フィールド内にただようちからに中てられて、人や万物の『護り手』としての本分を失い、異形の肉体を持つ。
彼らは主に、人を食べた。
※冒頭の構成を、変えました。




