は?
杜若重一郎16歳!高校一年!青春真っ盛り!
だが学校では名前以外目立たない、スクールカースト中の下。居ても居なくても変わらない奴だ。
趣味は読書。ラノベは読書だ。文句ある奴は死ね!漫研部でSNSの合間に毒にも薬にもならない白ハゲを描いたりしている。
それが夏休みまでの俺だ。これからは違う。俺は変わるのだ。青春、青春、なんだろうな、青春ボーイに変わる!
一ヶ月かけて筋トレした。走ったし跳んだ。小遣いにバイトで美容室に行きキメッキメにキメた。香水、は良くわかんないのでシャンプーリンスコンディショナーボディーソープの高いのを買った。デオドラントだ(デオドラントってなんだ?)
服やら靴はガイアが俺に囁いていそうな雑誌を参考に、痛い奴と思われないようラノベ主人公のシンプルさを入れて。
真っ黒だと狙いすぎている感じが出るから上着は紺色。パソコンの待機画面にありそうな景色が印刷されているモノクロのシャツ。ズボンは黒で、靴はちょっと派手に赤っぽい革のものを。
アクセサリーもつけてみる。ちょっとくすんだ金色のネックレスだ。じゃらじゃらした違和感も無いし、アクセントにはなるだろ。知らんけど。
完璧だ。予算の都合もあるが、一目見て俺だと気づくのは難しいんじゃないか?
いや学校では制服だけど、まず俺の髪と雰囲気を見て驚く。ドキドキしながらついて行くと私服でまた驚く。恋に落ちる。彼女ができる。
もうほとんど成功したな。三年後のキャンパスライフまで視えた。おいおい、俺の身体は一つだぜ?といってきゃいきゃい言う女の子をたしなめているんだ。
夏休み最後の日。やることは決まってる。夜の街に繰り出すのだ。
別にナンパとかではない。ああいうのはナンパされたい女じゃなけりゃただの名作行為だろ。というか俺は高校生なので補導される危険性がある。夏休みデビュー前にジ・エンドはご勘弁願いたい。
街を歩くのは、単に見られることに慣れるためだ。真の王者は目で殺す。どんなに格好つけようとキョドっていてはマイナスをかけたも同然。株が上がった分大暴落だ。
まずは不特定多数に観察されることで度胸をつける。
地方都市のネオン街はそう大した規模ではないが、それなのに人出はある。おっさんにホストとかギャル。不良っぽいの。寄生をあげている対面したくない危ない人など。
だが負けていない。俺の纏う空気は、街の空気に馴染んでいる。
勘違いじゃないだろう。堂々と歩く人間はそれだけで視線を集めるが、不良はちらりと流し目をくれた後興味無さげに会話に戻る。獲物とは見なされていないわけだ。
若い女というのは残酷で、明らかに下の人種を躊躇無く笑ったりするわけだが、そういった気配もない。
逆におっ、と細かい顔の造作にまで興味を示す女子高生もいた。それなりに長身であることにも助けられているのだろう。成人男子の平均身長を越えているのは数少ない自慢だ。
テンションが上がる。一段階上の男になったのだ。自分の意思と努力で。
その深夜の高揚のまま、大股で曲がりくねる隘路を行く。道はよく分からないが、まあいい。どうせそんな大きな歓楽街でもないのだ。ちょっと高い所に昇ればいいだけだ。
そう考えて、ふと、古ぼけたビルが目に入った。しょうもない投資で建てて、維持できなくなったものだろう。鍵もかかっちゃいない。
「行っちゃうか」
二秒で決断。今宵の俺は無敵だ。
枯れ葉を何枚か潰しながら上へ上へ。一気に屋上まで。
ごみごみした田舎の街も、見下ろせばそれなりのものだ。ホタルも光ってれば美しい。正直本体はコガネムシ以下なのにね。
そんなことを思いながら、本日最高潮に達した脳波は、俺の中の箍を緩め、昔から言ってみたかった台詞を唱えさせる。
それだけで世界の命運を握ったかのような気分になる魔法の言葉。
「馬鹿な……早すぎる……!」
「ほう?まさか気付く者がおるとはな」
は?