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 殺すしかないのか。

 べそかきながら、夕飯も食べられるわけなくベッドに寝転がって不動はそんなことを考えていた。

 殺すか死ぬか、しか考えないのは、やっぱり狭窄的になっているので、簡単に逃げるべきだろう、とは思った。

 何より今のまま家にいては、強引にでもワクチンを接種させられる。もちろん接種には不動本人の同意が必要だが、親にそんな場所に連れて行かれたら無理矢理にでも同意させられる。そうなったらどうしようもない。

 殺すとか死ぬとかしないなら、夜のうちに逃げ出す必要がある。

 どうしたらいいだろう。

 逃げ続けて一週間経ったら、みんなは認めてくれるだろうか。死ぬまで陰口を言われて死ぬまで気持ち悪がられて死ぬまで打たれ続けるのだろうか。自分を知らない人は、自分を知らないまま女性として扱うだろうけど。

 逃げると言ってもどこまで行けばいいのだろう。一週間、というかあと五日、ワクチンが効かなくなるのは七月の一日か二日、というところだろう。

 それまでどこに逃げて隠れていればいいのかが問題で、深泥の家なんかはすぐバレるだろうし、適当に逃げても警察に行方不明者として探し出されたら簡単に終わってしまう気がした。

 今の不動は何をしても意味がないとか無理だと思ってしまうくらい自信がないのかもしれない。ただそれでも行動に移すことができないでいた。

 でも。

 でも。

 今、この家にいるよりかはマシかもしれない。




 無明の服を借りて、家から逃げ出した。

 自分の部屋にあるだけのお金も持って、男物だけど着替えも持って、ほとんど考えなしだけどそれでも五日くらいなら飲まず食わずでも死なないはず。


「も、もしもし修? その、今から、なんとか逃げたいんだけど」


 何も考えていないから、とりあえずそんな電話をした。スマホも家の傍に捨てていくつもりだから、早急にどこで会うか、どうするかくらいは決めたかった。

 深泥は受け止める、とだけ言っていたが、協力には肯定的であった。それが不動の家のことを大きく変化させることになろうと、深泥が協力するのは不動個人だったからである。

 ほどなく二十四時間営業のファストフード店で出会った二人だが、不動は深泥の衣装を見て少し気が引けた。


「……なんか怖い恰好してるね」

「大人に思われた方が都合いいだろ」


 革ジャンにグラサンまで、歩いているだけで因縁を吹っ掛けられそうな衣装だが、その体格を見て喧嘩を売るような人間もそうそういない。何より、一目でこの深泥を高校生とは思わないだろう。


「で、計画とかあるのか?」

「……ない」

「……まあ仕方ないか」


 深泥は色々気にして恰好まで気を遣ったが、一方の不動は頬がまだ少し赤く暴力を受けたのは一目瞭然だった。話の内容も俄然注意したくなったが、逆に深泥は何が何でも不動に協力してやろうという気持ちになった。

 そもそも、そんな家庭を普通と思わない。今はそれを言える状況ではないから言わないが。


「駅とか遠くに行って隠れるとか、難しいだろうしな」


 五日くらいなら、とは思うが、それこそあてもなく五日間、今の不動の若い小さな体で彷徨うというのは、逃げ切れる気がしなかった。元より体力がある方でもないし、未成年であることも少女であることもお金がないことも何もかもが不動からできる自信というものを無くしていた。

 となれば、どこかに隠れるとか匿ってもらう、というのが恐らく一番の案であるが。


「一つ案がある」


 深泥修は、不動の顔を見た瞬間、一つ思いついていた。

 

白亜(はくあ)義倉(ぎそう)……の、家に住む」

「……うーん……」


 妙案、と呼ぶには少々リスキーな点が多々あるが、現実的と言えば現実的で、かつ今の不動であってその案に決められるほどには無難な手段でもあった。

 難色は示すが、不動は頷く。受け入れるには勇気も覚悟もいるが、今の不動にとってその程度ならば充分可能なものだった。

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