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 家の扉を前に、不動は深呼吸して、扉を開けようと伸ばした手は一瞬止まる。

 扉を開けるには決意が必要だった。それは女になると決める以上の決意だった。

 やがて、扉を開けた。声を出すかどうかで、また少し止まった。

 けれど、それでは進まないから。

 今が一番、不動にとっての山場であるのだろう。ただその山場というのはまだ五日間、あるいは今後の人生全てがそうなのかもしれないが。

「ただいま」

 進むと決めたから。

 まず罵声を浴びせられた。次にものを投げられた。髪を掴まれて、また罵られて、頬を打たれる。蹴られる。

 抵抗はすべきものかと、茫然としながら不動は少し考える。例えばこんな母親に何かやり返して何かが変わるだろうか。あるいは変わらないだろうか。

 修や姉の無明がただ受け止めてくれるだけで、やっぱり不動は嬉しかった。だってこんな風に自分を認めないと、敵意を剥きだしにしてくる人間が傍にいるのだから。

 そういう暴力は、元に戻れば終わる。男の肉体に戻って、自分が女だなんて言わなければ戻る。

 それだけでなくて、周りの人間からの変な目もなくなるだろう。クラスメイトの男子もああいう気持ち悪い絡み方はしなくなるだろうし、女子からの嫌な目も減る。深泥修も安心するだろうし、蒼堂芹耶もそれが君らしいなんて言う風に思うのかもしれない。

 ――それでいいだろうか?

 それで何も変わらない、いつも通りの日常に元通りというのもきっと良いことだろう。

 みんなが安心するから。

 でもそれは自分だけが嫌な気持ちになる。自分だけの我慢でみんなが幸せになっても自分だけは不幸で居続ける気がした。

 不動は周りの人間が幸せなら自分も幸せだなんて言い切れるほどお人好しではない、いやお人好しなんて問題ではなく、これは当たり前の幸せと自分を手に入れたいというだけの話。


「――俺は女だ!」


 ただもう一度、打たれるだけだ。


「明日には医者行けよ」


 そう言われるだけ。

 しばらく、不動は玄関に座り込んでいた。

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