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「や、まだ抵抗はあるけどね」


 クラスメイトに話しかけられた蒼堂芹耶はすげなく言う。


「女が好きな女って男みたいなもんだし、まあ性的な目で見られるのが嫌ってんならそりゃ更衣室とかトイレとか一緒だと多少は嫌じゃん」


 ストレートな物言いは嘘がない、蒼堂芹耶の正直な意見は不動の耳にも入って、多少は落ち込むし、彼を嫌うクラスメイトにとっても腑に落ちるものであった。

 簡単に変わり者が受け入れられるわけはないのだ。男の体であろうと女の体であろうと昨日まで男だったものが女になるなど、誰もすぐには信用できない。

 それを、女が好きな女など、誰が信用できるのか。


「ちょっと話いいか?」


 深泥(みどろ)(しゅう)、石動不動の数少ない友達と呼べる人間であった。高校一年にして身長百八十を超える体格の良さと大人びた顔の造詣と口数の少なさから不要に恐れられているか、とぼけた性格の持ち主である。

 彼を知る不動は二もなく返事を返し、そのまま彼の後へとついていく。口さがない者も修に向けて軽口を言うことはなかった。

 連れてこられたのは屋上だった。学校で最も太陽の近いこの位置は初夏も過ぎたこの季節にはやや暑いが、風がよく吹く分の爽快感があった。


「なんで女になった?」


 開口一番がそれだった。芹耶のようにわかりやすい感情はなく、ただ言葉通りの疑問がうっすらとその固い表情の中に見えた。


「なったっていうか……」

「いや突発……性転換みたいな病気っていうのでなったのはわかるけど、生まれた時は男だろ。変わらなきゃいけないのか?」

「……うん、これが今の私」

「ふー」


 納得したような、疑問がまだ残っているような曖昧な返事で修は不動を見た。元々あった身長差がさらに大きくなって、っていうかそもそも目の前にいる女子が一昨日まで一緒だった石動不動とはいまだに思えないでいる。

 別の人間に取って代わられたという気持ちが強い。元々修が見る石動不動は、親切で誰に対しても物腰の柔らかな好青年だった。クラスのやや荒れた雰囲気に迎合はできないでいたが、心根の優しいできた人間であることはきっと誰でもわかることだ。

 だが、どこか影がある、とも思っていた。彼の優しさが何かのコンプレックスのようなものでできていることも薄々感じ取っていた。

 きっとそれが爆発した。TS病はきっかけで、彼の中の譲れない何かがあって、我を通すべき時が来たのだと。

 それはある意味では好ましいアイデンティティの確立のようであるが、それ以上に心配だった。

 これは戻れない道であった。決して、決して戻れない、ともすれば破滅してしまうことも考えられるような一か八かの道。

 

「……なんつーか、心が女だから女として、って違うよな。だって生まれた時の体が男なんだから、女になるってやっぱり女になる、っていう変化だよ。変わるって、すごい根性いることだと思うが」

「……そう。それでも私はこうありたい」

「……んー」


 止めるべきか、応援するべきか。


「ま、いいや」


 深泥修は考えるのをやめた。

 普段やる調子で不動の肩をぽんぽんと叩くと、また自分勝手に屋上から屋内へと戻る。

 ――ブレザーの質感も、肩の位置も、自分を見上げる修の顔も何もかも変わっていても。

 ――止めるべきにせよ、応援するべきにせよ。

 いつも通りのそんな調子をやってやるべきだと修は思った。

 屋上に残る不動は風が吹く中でそんな叩かれた肩を触った。

さわやか

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