【第1審】~8~
ブルーの言葉にジュードが付け加える。
「アケチ様、ハシリドコロに触った手で目をこすると、
瞳孔が開いて眩しく感じることがあるそうです。」
「じゃあ、おばあさんと目が合ったとき、
一時的によく見えなくなっていた可能性があるわけか。」
「その通りです裁判長!これが動かぬ証拠だ!ロブ、反論できるならしてみろ!」
「くっ……」
ブルーの勢いに押され、悔しそうに顔をゆがめるロブ。
「きゃ~♪ブルー様ぁ素敵ぃ~♪」
「審議は常に理路整然とあるべきです。証拠と理論で相手を責め抜く!
さぁ赤ずきん、これで君の疑惑は跳ね除けられた!」
嬉しそうに顔を上げる赤ずきん。
その顔をオオカミはじっと見つめる。
「傍聴席の皆さん、貫くのは僕の正義です! 僕の心はいつでも1つだ!」
勝利を確信したブルーの言葉にトーチたちが煌めく。
「あ~、こりゃ赤ずきんの勝ちが見えたなぁ。」
「おっさん、いいから帰れよ!」
「NO!NO!NO! まだ終わってないぜベイベー!」
打ちひしがれていたと思ったロブが立ち上がり、不敵な笑みを浮かべている。
「裁判は最高のショータイムだ!
やっと俺の時間がやって来たぜ!攻め込まれてからが見せ場さ!
ただ勝つだけじゃ意味がないんだよ、ブルー。
お前の弁護は正論だがつまらない。」
「なんだと!?」
「もっと観衆の感情揺り動かせ!
鮮やかにセクシーに美しく勝たなくては!
さぁ傍聴人たちよ、熱狂せよ!」
「いや~ん♪ロブ様ぁ~カッコいぃ~♪」
無駄に煽り、無駄にセクシーポーズを見せるロブ。
「みんな~、苦悩に歪む俺の よ・こ・が・お
ブルーよりもときめくだろう?」
「また君はそうやって、不利になると見た目だけの判断に頼ろうとする!」
「観衆喜べば伽が喜ぶ。正当な理論だけが武器じゃないんだベイベー!
トーチの皆さん!俺の魅力は推定無罪だぜ!」
トーチの熱量が上がっているのをブルーも感じたようだった。
すかさずロブが薔薇の花びらを振りまいた。
「さぁメロディ、ジャッジを!」
「はぁ~い♪ もんちゃん、ミュージックスタート!」
もんちゃんって誰だよ!
もはや法廷はカオスと化している。
しかし、これこそがこの法廷のいつもの光景だった。
どこからかテンポのいい曲が流れて来る。
HEY! judgement!
YES! judgement!
SO! judgement!(Come on!)
「それでは、トーチの皆さま♪
ブルー様とロブ様、
どっちがキュン♪ときたかジャッジしてください♪
まずはブルー様が素敵だったと思う人~」
ピンクの髪を揺らしてメロディがはしゃぐ。
俺は込み上げるい苛立ちを抑えながら木槌を振り上げる。
ドン!ドン!と重厚な音が法廷に響いた。
「ブルー、ロブ、二人とも有罪!」
「えええっ!?」
「おい、なんで途中で止めるんだよ!いいとこだったのに。」
俺はおっさんを無視することに決めた。
「裁判長!俺たちは裁判を盛り上げようと思ってやってんだぜベイベー!」
「今の有罪は撤回していただきたい!」
どいつもこいつも裁判をなんだと思ってんだ!
今日こそまともに終われると思った俺がバカだった!
俺は吸い込める限りの息を吸い、一気に吐き出す。
「うるさい!うるさい!うるさーーーーい!!
この俺様が法律だ!
お前たちのやり取り1個1個にいちいちジャッジすんじゃねぇ!
さっさと進めねぇと朝になるぞ!」
「いいじゃないか。私の上告は朝からでも構わんぞ。」
おっさんはマカロンをもぐもぐしながら余裕の態度だ。
ジュードが申し訳なさそうに王子に説明する。
「通りすがりの王子様、明るくなればトーチたちの判決は得られません。」
おっさんもさすがにジュードの言ったことの意味がわかったようだ。
トーチたちの判断を踏まえた上での裁判長の判決となる。
つまり夜が明ければ裁判そのものが成立しなくなる。
俺はもう一度木槌を振るった。
ドン!ドン!という大きな音が法廷内に反響すると、再び空気がピンと張り詰めた。
「裁判を続けろ!」
先に口を開いたのはロブだった。
「では改めまして。
裁判長! 先ほどブルーが毒性のある花の件を証言してましたが、俺は疑問です!
なぜならあの花を見て、そこに座っているおっさんはヒマワリだと言いました。
いや、ヒマワリでないことは明白ですが、往々にして男性は花について疎いものです。」
ロブの言うことは一理あった。
確かに俺もチューリップとタンポポぐらいしか見分ける自信はない。
「裁判長も何の花かわかりませんでした。俺も同じです。
ですが、女性は例え少女でも、案外花の種類について詳しいものです。
もしも、赤ずきんが花に詳しかったら、オオカミの策略は最初から失敗してしまう。
特に危険なハシリドコロの花なら一度見たら忘れないでしょう。
ねぇ?赤ずきん。」
赤ずきんを誘惑するかのようにロブは赤ずきんの顔を覗き込んだ。
ロブを押しやりブルーが弁護する。
「そんなのあくまで君の推論だろ?」
「ああ、だけど花なんかより、おばあさんを殺すもっと手っ取り早い方法がある。
供述書にも書いてありますが、あえて聞きましょう。
赤ずきん、あなたはおばあさんに何を届けましたか?」
赤ずきんはロブの質問の意図がつかめず、怯えるように答えた。
「…パンとぶどう酒です。」
「そう!ぶどう酒だ!お婆さんはぶどう酒が好物だった。違いますか?」
「…はい、そうです。」
ロブは満足げな笑みを浮かべた。
「次はオオカミくんに聞きましょう。
部屋に入ったとき、床が赤かったとこの供述書で証言していましたね?
それはぶどう酒だったのではありませんか?」
「あ…気が動転していてはっきりとは思い出せませんが
ゆ、床が赤かったことは間違いありません。」
現場の状況をイメージしてみる。
オオカミが部屋に足を踏み入れたとき、すでに床が赤く染まっていた?
おばあさんがベッドに横になっていたとしても不自然だ。
こぼれたぶどう酒をなぜそのままにしていたんだ…?
普通ならすぐに何かで拭こうとするだろう。
それに、順番が逆だ。
オオカミは赤ずきんより先におばあさんの家に行っていたはずだ。
それなのに、赤ずきんが持っていたぶどう酒の方が先に家にあった。
ということは…
ジュードも同じことを思ったらしく口を開く。
「アケチ様、まさか…ぶどう酒に毒を?」
「ああ。ってことは、犯人は母親なのか?」
「イエス、ブラボー!」




