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おとぎ裁判  作者: 神楽澤小虎
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【第1審】~7~

どんどん縮こまるオオカミにアケチは助け船を出す。

「どうなんだ、オオカミ。

 正直に答えたからってお前の不利にはさせない。ここではみんな平等だ。」

オオカミは、着古したベストの裾をぎゅっと握りしめながら言った。

「…あ、あの…あの森で、ウサギがたくさん()れるようになったって

 噂になってたからです。」


その証言に俺は違和感を覚えた。

オオカミが嘘を言っているようには見えない。しかし……

「ジュード、ウサギってそんな急に増えるもんなのか?」

「さぁ? 条件がそろえばあり得なくはないでしょうけど、

 かなり珍しいケースでしょうね。」

こう見えてジュードはわりと博識だ。可能性としては低いということだろう。


“なぜウサギだけが急激に西の森だけに増えたのか?”

小さな疑問は真相を見極めるための大事な鍵穴だ。


「それで噂通りだったのか?」

ロブの質問にオオカミは今にも消え入りそうになりながら答える。

「…はい。ウサギはたくさんいました。ほ、本当です。」

やはりオオカミが嘘をついている印象は受けなかった。

アケチは確認する意味で聞いた。

「つまり、ウサギを捕まえる目的であの森に行ったんだな?」

「…そ、そうです。」

まさか訴えている側の自分が嫌疑をかけられるとは思っていなかったのだろう。

その風貌も手伝って否が応でも観衆の哀れみを誘う。


だが、ブルーだけは違った。

オオカミの答えを聞くや否やたたみかけた。


「裁判長!僕が入手した情報によると、彼はオオカミなのに

 随分と狩りが下手だそうです。

 仲間たちがシカなどの大物を狙う中、

 あなたは自分より明らかに弱い獲物しか狙わなかった!

 だから、弱者であるおばあさんや

 幼かった赤ずきんをこれ幸いと狙ったのではないですか?」

「ち、違います。」

「ほう、違う?

 あなたはかなり大きな身体をしている。ウサギ一匹で空腹が満たされますか?

 ウサギなら逃げ足が速いが、非力な少女やおばあさんなら

 いくら狩りが下手なあなたでも楽に捕獲することができるでしょう。

 それに腹もウサギよりは満たされるはずだ。

 どうです?トーチの皆さんもそうお思いですよね?」

傍聴席のトーチたちが賛同するかのように一斉にざわめき始めた。

ブルーの主張は至極もっともで隙がない。

オオカミがみるみる内に追い詰められていく。もう後がない。


「ちょっと待ったベイベー!

 確かにこちらのオオカミくんは狩りが下手だ。

 しかし、それは親御さんに大切に大切に育てられたから。そうだろベイベー?」

「…はい。大人になって気付いたんですが…

 ぼ、僕は相当甘やかされて育ったようです。」

オオカミの身なりがだらしないといより、整えられていないのも

そういうことかと納得がいく。

ロブがオオカミを擁護するように言葉を続けた。


「獲物はご両親がいつも獲って来てくれていた。でも、親御さんが

 亡くなってからは思うように獲物に有り付けなくて困っていた。」

「そ、そうです。」

だがブルーは追撃の手をゆるめない。

()()()()()()()()だなんて歪曲した表現を使わずに

 はっきりとおっしゃったらどうです?

 もう何年も()()()()()生活を送っていたと!」


「異議あり!今の発言はオオカミを冒涜する発言です!撤回していただきたい!」

「…いいんです! ほ、本当のことですから。」

ヒートアップする二人のバトルにオオカミの言葉が割り込んで来た。

もうどちらが被告人なのかわからないほどだ。


オオカミは自らのことをぽつぽつと話しはじめた。

こども同士の些細なイタズラで仲間はずれにされてしまったこと。

だけどその時、自分は友達から必要とされていないんだと気付いてしまった。

それから、朝起きてもどうしても部屋から出ることができなくなった。

出たい、出なきゃ、と思うのに身体が動かない。

最初は甘えだとか仮病だとか言われたが、そのうちそれさえも言われなくなった。

両親さえもあきらめた。

自分は本当にいらない存在になったのだ。


「ぼ、僕はひとりぼっちでそのまま部屋の中で死んでしまいたかった。

 この世に必要ないはずなら、すぐに死ぬだろうと思っていたんです。

 だけど…死んだのは両親の方でした。」


思わぬオオカミの告白に、法廷中がしばし沈黙して聞き入る。

自分の足元を見つめるオオカミの目は、暗く深く沈んでいる。

まるで空洞のようだとアケチは思った。


「ぼ、僕は生き残った。だったら生きなきゃいけない。

 そ、それであの森に行ったんです。

 …ウサギがそんなにたくさんいるなら、僕なんかでも

 一匹ぐらい捕まえられるかなと思って。」


「こんな繊細なヤツが人殺しなんてできわげねぇじゃねぇがぁああ~あ~ん」

涙を誘われてしまった王子が泣き崩れる。

「まったくだぜベイベー。」

ロブまで鼻をすすり、仲間だと言わんばかりの王子と肩を抱き合っている。


それを尻目にブルーが美しいブロンドの髪をかき上げて言った。

じわりじわりと獲物の首を冷たく絞めあげるように。

「そして、あの森で()()赤ずきんに出会ったのですね?」

「…は、はい。偶然です。」

赤ずきんも同意するようにおずおずと頷いた。

ブルーは最後の仕上げだというように、青い瞳を光らせる。


「裁判長!ここで証拠品を提出させてください。」


誰も異論はなかった。

ブルーが1株の枯れた植物をアケチに差し出す。

「なんだこれは?花か?」

受け取ったアケチにはそれが何であるか判別がつかなかった。

「おう!ヒマワリじゃん!」

「サイズ感が違いすぎるだろ!お前はマジで黙ってろよ!」

横からちゃちゃを入れる王子に頭を抱えつつ花をじっくり見てみる。


小さな鐘のような可愛らしい形だが色は暗い赤紫色だ。

まるで凝固した血液のように毒々しい。


「これは…ハシリドコロの花ですね。」

ジュードが慎重にその花をアケチから受け取る。

「ハシリドコロ?」

聞き慣れない名前の花についてジュードが説明をする。


「鎮静剤としても使われますが非常に危険な花です。

 毒性が強い植物で、めまい・嘔吐、最悪の場合は死に至ります。

 これを摂取すると苦しんで走り回ることから、ハシリドコロと呼ばれ、

 幻覚作用や昏睡状態を引き起こします。」

「昏睡状態…? それでブルー、この花が何の証拠になるんだ?」


「驚くべきことに、これはオオカミの部屋を家宅捜索した際に出て来たのです!」


「だ、だから、それは何度も説明したじゃないか!」

オオカミが声を荒げる。


「ウサギを弱らせるために使ったと?

 ならば、少女を弱らせるためにも使えるはずだ!

 現にあなたは、赤ずきんに花を摘むように促した!」




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