【第1審】~6~
少女はほっとしたように少しだけ顔を上げる。
しかし、ロブは意外にも余裕の表情を見せる。
「黙秘! いいでしょう、想定内です!」
そして一枚の書類を取り出した。
「裁判長、ここに当時の供述書があります!これを読み上げたいと思います。
よろしいですね?」
当時の供述書であれば、それは本人の口から証言したことのはずだ。
問題があるはずはなかった。
「ああ、続けて構わん。」
鳥属性らしい滑らかなロブの声が法廷に響く。
「赤ずきんは、お婆さんの家に入ったとき
『ベッドで布団を頭までかぶったお婆さんがいたので話しかけた』とあります。
赤ずきん、供述書にあるセリフを読んでください。」
ロブは赤ずきんに供述書を差し出した。
赤ずきんは驚いたように、潤んだ瞳で書類とブルーを交互に見つめる。
ブルーは大丈夫だよという風にうなずいた。
意を決して少女はロブから供述書を受け取り、読み上げる。
「お…おばあさんの耳は…どうしてそんなに大きいの?」
「そしてお婆さんはこう答えました。『お前の声をよく聞くためだよ。』」
ロブが続け、次のセリフを読むように赤ずきんを促す。
「おばあさんの目はどうしてそんなに大きいの?」
「『お前の顔をよく見るためだよ。』と言った。この内容に間違いはありませんね?」
少女は戸惑いながらも素直に答えた。
「はい…。間違いありません。」
そのときロブがニヤリと笑い、トーチたちに向かって大袈裟に言い立てる。
「皆さん、聞きましたか?
この会話が本当なら、これ完全におばあさんと目が合っちゃってますよね?
目が合っちゃってんのに、おばあさんとオオカミの区別がつかなかった?
そもそも、オオカミの耳とおばあさんの耳と見間違うことがあるでしょうか?
どうしてこんな供述が通ってしまったんでしょう!まさにベイベーです!」
確かにそうだ。偽証したにしてもあまりに幼稚すぎる。
当時の取り調べがずさんだったのか、最初からオオカミが犯人だという
結論ありきだったのか。
どちらにしてもこの供述書がおかしいのは明らかだった。
さすがに聡明なブルーも言い逃れはできまい。
「さぁ、どうする?ブルー!」
ロブの挑発に、ブルーは平静を装いつつ言った。
「そ、それは…赤ずきんがど近眼だからです!」
「はぁ?!」
めっちゃ慌てた様子のブルーの弁護も幼稚すぎる…
「赤ずきん、この中で一番イケメンなのは誰だと思いますか?!」
必死の形相のブルーに、赤ずきんも空気を読む。
「え?……あ、あそこに座っているおじさんです。」
「ねっ? ど近眼です!」
「おっさんだとわかっているなら、見えてる証拠だろ!」
珍しくロブがまともなことを言う。
「おいお前!私がイケメンじゃないとでも言いたいのか?!失敬な!」
王子が割り込んで来てややこしくなりそうなので、
俺は裁判長として疑問に思ったことを口にした。
「近眼かどうかは置いといて、そもそも偽証罪って言うけど、
当時判決を下した裁判官がいたわけだろう?
大の大人が子供の嘘なんかに騙されるか?」
「その通り!だから赤ずきんは偽証などしていないのです!
偽証しているのはオオカミ、君の方だ!」
あまりにブルーの理論が飛躍しすぎている。
いくら裁判はショーだと言い張っていても、これでは見世物にもならない。
さすがのロブも鼻で笑う勢いで言う。
「フン、いい加減なことを言うな、根拠はなんだよ。」
ブルーのメガネが凛と光る。弁護士としてのスイッチが入った合図だ。
この裁判は長くなりそうだという予感が走る。
「裁判長、僕からもオオカミに質問があります!」
ブルーはつかつかとオオカミの元へ近づいた。
「オオカミさん、お聞きします。あなたは何故あの森にいたんです?」
突然矛先が自分に向き、オオカミはおどおどしながら
ブルーを見上げるのが精いっぱいのようだった。
「なんだよ、オオカミが森にいちゃおかしいのかよ。普通だろベイベー。」
「僕はオオカミに聞いてるんだ。
あそこはあなたの住処から随分と離れている!違いますか?」
「いえ…あの…」
途端にオオカミが口ごもった。まぎれもなく何かを隠している顔をする。
アケチは質問を変えてオオカミに聞いた。
「お前んち、どこだっけ?」
「に、西の方です。」
聞き取れないほど小さな声で証言するオオカミ。
土地勘が無いアケチにわかるように、ジュードが補足する。
「西の森でしたら、確かに事件現場の森まで出向くのは…
不自然と言わざるをえないでしょうね。」
背中を丸めて小さくなるオオカミに反し、ブルーは自信を取り戻したように
活き活きとし始める。
「オオカミさん、弁護人である私の質問に答えてください。
他にも近くに森はあったのに、わざわざ遠くの森に行った理由はなんですか?」