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おとぎ裁判  作者: 神楽澤小虎
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【第1審】~4~

「はいはい、静粛に!」

木槌を鳴らすと、場がシンと静まり返った。


「判決を言い渡す!世の中の女性は無罪! 以上!」


「ちょっと待てよ!雑すぎるだろ!」

「いいから、おっさん帰れ!」

「納得がいかねぇ!それがお前の正義か!」


ふん、正義…。正義ねぇ。

その言葉の本当の意味を理解しているやつがどれだけいるのだろうか。


「正義なんざそれぞれの立場で変わる。歴史で変わる。

 戦いになれば人殺しも正義だ。俺はそんなあやふやなもので判断しない。」


「じゃあ何で判断してんだよ!」


裁判長になってからそれだけはずっと守って来た。

俺の確固たる判断基準、それは…


「教えなぁ~い!」


ペロリと舌を出すアケチ。

王子は真っ赤になって怒り出す。

「他に裁判長いねぇのかよ!」

すると見かねたジュードが口を開いた。

「アケチ様、正式な判決にはトーチの皆さまにご意見を仰がなくては。

 そうすればこちらの通りすがりの王子様にもご納得いただけるかと。」

「わかった。 ジュード、頼んだぞ。」


「かしこまりました。それではトーチの皆さま、ジャッジをお願い致します。

 世の中の女性が無罪だと思う方、灯火を大きく掲げてください。」


ぶわっと一気に傍聴席の明るさが増す。

アケチはその時、小さなトーチたちがまるで意思を持った

一つの大きな炎になったような錯覚に襲われた。

本能的に感じる恐怖…

いや、そんなわけはない…と頭を振る。

トーチは夜空の星のようにひとつひとつの小さな明かりに過ぎない。

もう一度傍聴席を見ると、圧倒的多数で灯火が大きくうごめいていた。


「トーチの皆さま、ありがとうございます。

通りすがりの王子様、ご覧の通り()()でございます。」

ジュードの悪びれない天使のような笑顔がかえって残酷だ。


おっさんはガックリと肩を落とし、扉近くの椅子に座り込む。

その背中をメロディがやさしく撫でてやっている。


「さて、それでは僕たちの裁判を始めてもよろしいですね?裁判長。」

きっちりと整えたブロンドの髪がその性格を表す通り、ブルーには無駄がない。

しかし、俺は裁判をやりたくない。なぜなら…


「お前たちのこの間の裁判大変だったじゃねぇか!

『北風と太陽』の実況見分だとか言ってムチャクチャやりやがって!

屋敷中の家具が舞い上がるわ、屋根はふっとびそうになるわ、ボヤ騒ぎになるわ!

 常識がなさすぎんだよ!」

「それぐらいのことなんだっていうんだよ、ベイベー?

 ど派手でパフォーマンスとしては最高だったじゃないか。」

ロブが黒く長い髪をふぁさりと跳ね除け、トーチたちに同意を求める。

クールな声でブルーが続ける。

「アケチさん、我々にとって一番大切なのは誰ですか?おわかりでしょう?

 唯一無二の絶対的主君、“伽相手(とぎあいて)”です!」




“伽相手”――――――――――

そう、それが厄介なのだ。

このおとぎの国の裁判では…




「それぞれ相手は違えども、そういう意味では、

 俺もブルーもあんたも運命共同体。

 (とぎ)相手を楽しませる。それが俺たちの役目。俺たちの喜び!

 裁判は最高のショータイムだ!そうだろ?ベイベー!」


トーチたちは同意するように一層輝きを増す。


「法廷はステージ!まさにジャッジメントショーなのです!」

ブルーもその考えに揺るぎない信念を見せる。


人の人生を左右する裁判をショーだと言い切る二人に、

アケチはどうしても賛同できなかった。

「ケッ! 裁判をおもしろがるなんて、悪趣味だぜ。」

それを態度で表すように乱暴に法壇の上に足をのせる。


「ふん、伽相手ね。一体どこで見てんだか。

 お~い、見てるかぁ?こいつらの伽相手さ~ん!お~い!」


三角の耳をピクリと動かしてブルーが大袈裟なため息をつく。

「やれやれ、どうしてあなたみたいな人が裁判長なんでしょう。

 理解に苦しみますね。」

アケチはそんなブルーに向かって、頭に浮かんだ言葉をそのままつぶやいた。


「…Just(ジャスト) to(トゥ) Kill(キル) time(タイム).」


「なんです?急に。」

ブルーが美しい眉根を寄せる。


「直訳すれば『時間を殺す』=『暇つぶし』って意味だ。

 だから俺たち、伽相手を持つ連中は“Killer(キラー)”だなんて呼ばれてんじゃないのか?

 どうせあいつら、裁判をただの()()()()ぐらいにしか思ってないんだよ。」




絶対的主君“伽相手(とぎあいて)”。


(とぎ)”の本来の意味は、相手に対して一方的に尽くすこと。

Killer(キラー)”は伽の期待に応え文字通り何かを殺す。

自分自身の想いも、意見も、感情さえも…。

中には伽のために本当に誰かを殺しているKillerもいるかも知れない。

それほどまでに逆らえない絶対服従の関係なのだ。




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